タワマンから不幸の底へ急転直下…家賃滞納5カ月で強制退去、判明した妻の「二重の裏切り」
Finasee / 2024年3月26日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
横井夫妻は名古屋からの転勤で都内のあるタワーマンション(以下、タワマン)に越してきました。ご主人は貿易会社、奥さんは有名ネイルサロンに勤める華やかな夫婦です。そんな2人ですが、なんと入居即、家賃滞納。あげく5カ月の滞納が続きます。
何度電話をかけてもつながらない中、関係者が催告のため居室を訪れると、妻の優香さんが在宅していました。優香さんは驚きながらも、家賃は「主人が払っている」と主張します。しかし、印刷してきた滞納状況を見せて滞納の事実を説明すると、観念したのか関係者の指示に応じました。
ただ、私はモデルルームのようなその部屋で抱いた“いくつかの違和感”が妙に気にかかっていたのでした。
●前編:【タワマン住み“キラキラ夫婦”が入居直後に家賃滞納…「主人が払っている」と主張する妻への違和感】
***その後も、債務者である横井夫妻とは連絡の取れない状態が続いていました。私は他の執行案件も複数あり現地に赴くことができず、時間が経過していくばかりでした。
断行の数日前、私は補助者に連絡を入れ、「●月●日の横井さんの断行は、荷物預かりを想定しておくように」と指示を出しました(断行時、荷物の搬出ができない場合は、倉庫に保管する必要があるため)。また、催告で確認した荷物量から、トラック3台、作業員18名の見積もり指示を出しました。
断行の日当日の朝、タワマンに技術者、補助者、立会人、そして私が揃い、執行官の到着を待ちます。
執行官が到着すると所要の手続きを行い、20階の横井夫婦の居室前に向かいました。執行官がインターフォンを押すと、男性の明るい声で「はーい!」という応答。状況にそぐわない明るい反応に私たちは一瞬驚きましたが、気を取り直し、執行官の「ドアを開けてください」の一言で断行を開始しました。
玄関先にはご主人と思われる男性。執行官からの「横井拓也さんですか?」の問いに「はい、横井ですが……?」とあっけにとられた様子です。
「本日、建物明渡断行を実施します。奥様からは今回の件について聞いていないのですか?」と執行官が質問します。
「妻は昨日、『友人と旅行に行く』と言って出て行きました。私は一昨日シンガポール出張から帰国して、昨日から代休なんです。何かあるのですか?」
拓也さんが私たちに質問し返す様子を見て、事情を汲んだ執行官からカレンダー裏の公示書が示されました。すると、拓也さんは「どういうことだよ!」と声を荒げます。
「家賃未払いが3カ月以上あったので、裁判所で判決が出ています。本日が建物引き渡し期限です」
執行官が冷静に諭します。
拓也さんは「家賃は妻が払っているはずです。何かの間違いではないのですか?」と繰り返していましたが、私から滞納の事実と判決書のコピーを提示すると、拓也さんは「一体どうなってるんだ。信じられない」と言いながら膝から崩れ落ちました。
執行官から20分で貴重品や着替えをまとめて退去するよう指示されると、拓也さんはゆっくりと立ち上がり荷物をまとめ始めました。寝耳に水の出来事に憔悴しきっている様子でした。
その後、作業員が段ボール箱を次々に作り始めました。拓也さんには、荷物は期日まで指定の倉庫に保管されることが執行官から説明されました。続けて、私から「●月●日までに、この書面にある倉庫に引き取りに来てください。2トントラック3台分です。引き取りに来ない場合は、競売になります」と伝え、書面を手渡しました。
断行開始から30分程で拓也さんは去って行きました。居宅の鍵は3本中2本返却。1本は優香さんが所持しているのでしょう。約3時間を掛けて室内の荷物を梱包し、20階からトラックに搬入しました。全品搬出の上、清掃作業が完了。玄関の鍵は技術者により交換が終わっていました。
「明渡完了です」
執行官の宣言とともに断行を終了しました。
判明したまさかの裏切り…そして刑事事件へ横井夫婦はお互いが家賃を支払っているはずだと主張していましたが、後に奥様が家賃管理を担当していたことが判明します。
しかしながら家賃の支払いを全く行わず、さらにその事実を拓也さんに知らせないまま逃亡。結果、ご主人は見捨てられたことに……。二重の裏切りがあった悲しいケースでした。
また、本件はこれで終わりではありません。数週間後、警視庁から私の方に捜査協力の要請があったのです。
どうやらタワマンはご主人が出張している隙に「特殊詐欺」に利用された模様です。催告の日、私が見たスマートフォン5台と男物の靴が捜査のきっかけになったようでした。
なお、横井夫妻のその後は、読者の皆様のご想像にお任せします。
***家計の管理は必ず夫婦2人で確認を行うことが肝要です。出張で夫婦のどちらかがいなくとも、戻ってきたときに一緒に確認する習慣をつけましょう。住居は生活の全てです。一度住居を失うと今後の生活に支障が出ることは明白です。お金や健康もとても大切ですが、住居も同様です。夫婦で責任を持ち、透明性の高い資金管理が必要です。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
中標津 勇次/ライター
大学卒業後、証券会社に入社。株式、債券などの市場業務を経験。その後、金融関係会社を経て現在は不動産管理業務に従事。民法他、法律関係業務を得意としている。管理物件で強制退去の執行に関わるうちに、日本の金融教育が不足していることを痛感し、現代人のマネーリテラシーを高めるべく文筆業を開始した。座右の銘は「朝に道を聞かば、夕べに死すも可なり」。
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