三菱重工が最高益で株価急伸 同業他社が苦戦する中で好調な理由とは
Finasee / 2024年3月26日 17時0分
Finasee(フィナシー)
三菱重工業の株価が上昇しています。最高益を見込む今期(2024年3月期)の見通しを公表した2023年5月ごろから値上がりを強めました。それまで5000円前後だった株価は2024年2月に1万2000円を突破しています。好調な業績を評価した買いが向かっているようです。
【三菱重工業の業績】
売上高 純利益 2022年3月期 3兆8603億円 1135億円 2023年3月期 4兆2028億円 1305億円 2024年3月期(予想) 4兆4000億円 1900億円※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想
出所:三菱重工業 決算短信(外部リンク)
出所:Investing.com(外部リンク)より著者作成三菱重工は市場評価性(PBR基準)の基準から「JPXプライム150指数」に選ばれています。2024年2月には1:10の株式分割も公表しており、従来の10分の1の金額で投資できることから投資家の拡大が見込まれます(分割の効力発生日:2024年4月1日)。
三菱重工はどのような企業なのでしょうか。概要と事業内容を紹介します。また今期に受注が拡大した背景と、同業が減益する中で増益を見込む理由も押さえましょう。
三菱御三家の一角 戦闘機からエアコンまで手掛ける総合重機三菱重工は総合重機の大手です。三菱グループが1884年に造船事業に乗り出した長崎造船所を祖に持ちます。三菱UFJ銀行や三菱商事と並び「三菱御三家」と呼ばれることもあります。
三菱重工の主力製品は大型の重機や設備です。発電プラントや航空エンジンといった産業向け大型構造物のほか、フォークリフトなどの物流機器、艦艇や戦闘機といった防衛関連製品などを製造しています。また家庭用エアコンといった比較的小さい製品も手掛けています。
【各セグメントの主な製品・サービス】
エナジー 発電設備(火力、原子力など)、航空エンジン、コンプレッサ プラント・インフラ 製鉄機械、商船、
エンジニアリング、環境設備 物流・冷熱・
ドライブシステム 物流機器(フォークリフトなど)、
ターボチャージャ、冷熱製品 航空・防衛・宇宙 航空機(民間・防衛)、
ミサイル、艦艇・特殊機械
出所:三菱重工業 有価証券報告書(外部リンク)
三菱重工は業界で最大手とみられています。主要な国内の総合重機と比べても受注高や売り上げはトップクラスです。海外向けの売り上げも大きく、海外売上高比率は57%に達しています(2023年3月期。出所:三菱重工業 地域別売上高(外部リンク))。
【主要な総合重機の業績(2022年度)】
受注高 売上高 三菱重工業 4兆5013億円 4兆2027億円 川崎重工業 2兆0374億円 1兆7256億円 IHI 1兆3661億円 1兆3529億円 住友重機械工業 9847億円 8541億円※三菱重工業・川崎重工業・IHIは2023年3月期(国際会計基準)、住友重機械工業は2022年12月期(日本基準)
出所:各社の決算資料(三菱重工業(外部リンク)、川崎重工業(外部リンク)、IHI(外部リンク)、住友重機械工業(外部リンク))
防衛事業が急成長 国の防衛力強化が追い風に三菱重工の足元の業績を確認してみましょう。
今期(2024年3月期)は好調です。大型の受注が続いており、受注高は第3四半期までに前期の通期を上回りました。当初は4兆6000億円と見積もっていた通期の受注高を中間決算で5兆6000億円に、第3四半期ではさらに6兆円へと上方修正しています。
【受注高の推移】
・2023年3月期(通期):4兆0677億円
・2024年3月期(3Q累計):4兆4966億円
・2024年3月期(通期予想):6兆0000億円
出所:三菱重工業 決算短信(外部リンク)
特に伸びているのが航空・防衛・宇宙セグメントです。第3四半期で前年同期比3.8倍の受注を獲得しています。通期でも前期比2.7倍となる1兆9000億円の受注を見込みます。
出所:三菱重工業 決算説明会資料(外部リンク)背景には防衛事業の拡大があります。日本は防衛力の強化を進めており、整備費として2023年度~2027年度で約43.5兆円を投じるとしています(出所:三菱重工業 防衛事業説明会資料(外部リンク)、防衛相・自衛隊 防衛力整備計画 所要経費等(外部リンク))。
三菱重工は国の防衛整備の受け皿となり、大型の受注獲得につながりました。決算説明会では防衛関連の受注は2024年3月期で1.7兆円程度、2025年3月期も1兆円は超えるという認識を示しています(出所:三菱重工業 2023年度第3四半期決算説明会 質疑応答要旨(外部リンク))。
三菱重工はなぜ好調? 共同開発エンジンで明暗利益面も確認しておきましょう。総合重機の案件は長期にわたるものが多く、一般に受注から売り上げに計上されるまで時間がかかります。今期に受注が好調でも、すぐに利益が拡大するわけではありません。
もっとも、三菱重機は利益も高水準でした。今期(2024年3月期)の純利益は前期比45%以上増加の1900億円を見込んでいます。これは過去最高益とみられています。
対照的に競合は苦戦しました。川崎重工は77%の最終減益、IHIは900億円の純損失を見込んでいます(前期は445億円の黒字)。株価も明暗が分かれており、三菱重工株式の値上がりは同業2社を大きく上回っています。
【大手総合重機3社の純利益】
2023年3月期 2024年3月期(予想) 三菱重工業 1304億円 1900億円 川崎重工業 530億円 120億円 IHI 445億円 -900億円
※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点の各社の予想
出所:各社の決算短信(三菱重工業(外部リンク)、川崎重工業(外部リンク)、IHI(外部リンク))
出所:Investing.com(外部リンク)より著者作成利益に差が生じた原因の一つが共同開発エンジンの参画割合です。
三菱重工と川崎重工、IHIの3社は米P&W社が主導する航空エンジン「PW1100G-JM」の開発事業に共同で参画しました。このエンジンで不具合が見つかり、搭載した航空機で点検や交換などの費用が発生することが明らかとなっています。
P&W社の親会社は2023年9月、損失見込み額が開発事業全体で70億ドルに上ると発表しました。開発に参加した三菱重工らも、参画割合に応じ損失を負担することとなりました。
最も参画割合が大きかったのがIHIです。15%のシェアで参画しており、2024年3月期に1600億円の損失を計上します。同5.8%の川崎重工は580億円の損失を、国内3社で最小の三菱重工(同2.3%)は200億円の損失を同じく2024年3月期に計上する見込みです。
このような経緯から、三菱重工の損失は他2社と比較し限定的でした。株主の利益を大きく残すことができ、株式市場での評価につながったとみられます。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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