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「口を出さないでください!」52歳の新米女性保育士に立ちはだかる“モンスター親子”の「ありえない子育て」

Finasee / 2024年4月15日 17時0分

「口を出さないでください!」52歳の新米女性保育士に立ちはだかる“モンスター親子”の「ありえない子育て」

Finasee(フィナシー)

「はーい、リカちゃん、いっぱい食べられるようになりましたね~」

弥生はリカとハイタッチをする。

「うん、今日は3ピカ!」

リカの給食のお皿は5つのうち、3つが空になっている。ついこの間までまったく食べられなかったリカにとって、これは大きな進歩だった。ちなみに3ピカとは、3つの皿がピカピカだという意味だ。

「すごいね~」

弥生はうれしそうに手をたたく。リカは照れくさそうに笑っていた。

こうして子供たちの成長を目の当たりにするたびに幸せな気持ちになる。娘たちを育てていたときと同じ喜びをまた味わえるとは思っていなかった。

52歳の新米保育士

弥生は52歳の新米保育士だ。

2人の娘の子育てを終え、念願の保育士資格を取得した。自分の子育ての経験を生かすこともできるし、何より弥生は子供が好きだった。シングルマザーという経済的な事情から、給料のいい商社で働き続けることを選んできた弥生にとって、保育士として働くことはずっと抱き続けてきた夢でもあった。

お昼寝の時間になり、職員室で雑務をしていると、同じ職員の美和子が話しかけてきた。美和子は25歳で、保育士としては先輩に当たる。

「弥生さん、リカちゃん今日、いっぱいごはん食べたんですってね」

「ええ、そうなんです。今日は3ピカ」

「信じられない。あんなにグズって食べるのを嫌がってたのに」

「私の娘も同じようなことがあったから。いきなり多い量を見ると、嫌になっちゃうんですよね。だから一皿ずつゆっくり食べさせてあげるとけっこういけます」

弥生が解説すると、美和子は納得したようにうなずく。

「すごい、勉強になります」

「無駄に年を取ってますからね。経験値だけはあるの」

「ほんとに弥生さんが来てくれて助かりましたよ。ただでさえ人手不足だったんで」

「お役に立てて、うれしいです。私もこの仕事をやれて、本当に幸せなんですよ」

そんな幸せな日々を過ごしている中、とある事件が起こる。

ある事件

職員室で雑務をこなしていると、同僚の保育士が慌てて弥生を呼びに来た。どうやらけんかが起こったらしい。急いで教室に向かうと、武がワンワン泣いていた。腕をすりむいたようで、美和子が消毒をしている。

「どうしたの?」

「亮くんが突き飛ばしちゃったみたいなんです」

亮は少し離れたところで、鋭い視線でこちらを見ていた。

弥生はすぐに亮を教室から外に出し、話を聞いた。けんかの原因はオモチャの取り合いらしいことが分かる。

こういう場合は頭ごなしに強い口調でしかってはいけない。きちんと亮の気持ちを知ることが大事だ。

「何で押しちゃったんだろう?」

「……おもちゃとられたから」

「そっかぁ、それはイヤだったね」

「うん」

「でもね、武くんすごく痛かったんじゃないかな?」

「うん」

こうやって対話を続け、仲直りに持って行く。無理やり謝らせるなんてことは絶対にしてはいけない。美和子も武と話をしてくれたことで、2人はすぐに仲直りをしてくれた。

しかしそれ以外にもやらなければいけないことはある。保護者への説明だ。

1番の懸念事項は武の親だったが、きちんと説明をすると、すぐに理解をしてくれた。問題があったのは亮の母親、涼香のほうだった。

「あなたにその責任が取れるの?」子供をしかり続ける母親

夕方、お迎えに来た涼香に弥生は事情を説明する。

「えっ、亮が……」

「そうなんです。でもすぐに仲直りをしたので、問題はないと思うのですが」

「相手の子のけがはどうなんですか?」

「かすり傷だったので、跡が残るようなことはありませんよ」

弥生が説明を終えると、涼香は膝を折り、亮の両腕をつかむ。

「ねえ、どうしてそんなことをしたの? 相手の子がそれで大けがをしたらどうするの? あなたにその責任が取れるの?」

涼香のけんまくに亮は泣き出してしまった。それでも涼香はしかるのを止めようとはしない。

「今がどういう時期かあんた、分かってるでしょ? そんなことでどうするの? 私がお父さんに言わないといけないんだよ? そうなるとお母さんが怒られるんだよ? それ、分かってるわよね? だったら、何でこんなことをするのよ?」

弥生は思わず、涼香を止める。

「お、お母さん、相手の子もお母さんも気にしてないようですので、そんなにしかってあげないでください。亮くんだって、反省してますから……」

「こういうのはちゃんと言わないとダメなんです! 口を出さないでください!」

亮は泣きながら大声で謝ってきた。そんな様子を見るだけで、胸が痛くなる。

涼香は泣いている亮を引っ張って、帰って行った。2人の背中を見て、弥生は不安を募らせた。

子供たち全員を見送った後、弥生が教室の掃除をしていると、美和子が話しかけてくる。

「なんか、大変でしたね。亮くんママ」

「そうですね。あんな怒り方をすると、亮くんを追い詰めちゃうだけなのに……」

「まあ、でもあそこの家もいろいろあるんだと思いますよ」

「何か複雑な家庭なんですか?」

「というか、エリート家系なんですよ。亮くんのお父さんもおじいさんもお医者さまなんですって。だから、やっぱり亮くんもその期待を背負っているんだと思いますよ」

弥生はその説明を聞き、何となく事情を察した。

「この時期がどうって、亮くんママが言ってましたけど、あれってお受験のことなんでしょうか……」

「そうですよね。何か塾に通わせて、毎日、勉強をさせてるみたいって話を聞きましたよ」

美和子は大きくため息をついた。

「それぞれの家にはそれぞれの事情があるから、こっちから突っ込んで何かを言うことなんてできませんしね~」

「そうですね。それは確かにそうなんですけど……」

弥生は歯がゆい気持ちを抱えながらも、亮のことを注視しておこうと決めた。

●余裕のない母親と暴力をふるってしまう子供。平穏に“お受験”を乗り越えることはできるのだろうか? 後編「保育士の分際で…」毒母に虐待をやめさせた52歳新米女性保育士の「子育て経験値」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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