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平静を装い“知らないふり”でやり過ごす…「夫の秘密」に気付いたバツイチ女性の悲痛

Finasee / 2024年4月26日 11時0分

平静を装い“知らないふり”でやり過ごす…「夫の秘密」に気付いたバツイチ女性の悲痛

Finasee(フィナシー)

桜まつりで大盛況となる夫の料理

天色に晴れ渡る空に向かい、たわわに花をつけた並木の桜が競うように枝を伸ばしている。毎年この季節にマンションの自治会が開催している桜まつりは、好天に恵まれ、例年以上に人出が多い。

イタリアンバルを経営する夫と桜まつりに出店するようになって5年。ナポリタンやホットドッグ、パニーニサンド、ミネストローネスープなど肩の凝らないメニューばかりだが、昼どきが近づくと客が途絶えず、店先はてんやわんやになった。

夫が開いているサッカー教室の児童が3人、袋詰めやレジの手伝いをしてくれている。中でも15階の合田さんの下の息子さんはまだ5年生のはずだが、仕事が早くて機転がきくので助かる。後でお母さんにお礼を言わなければ。

行列が一段落したタイミングで、夫が特製の目玉焼き入りナポリタンとスープ、サラダを3人分用意してくれた。

「1時間くらいは大丈夫だから、一緒に食べてきなよ」

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく」

「行ってらっしゃい!」子供たちに見送られてマンションに向かう。

自宅のある中層階でなく、高層階専用のエレベーターに乗り込む。50階で降り、5010号室のインターフォンを押した。

「はぁい」

ドアが開いて高梨さんが顔をのぞかせる。60歳を少し超えた高梨さんはちゃきちゃきの江戸っ子でいかにもきっぷがいい。一緒にいるといつの間にかこちらまで元気になってしまうから不思議だ。

高梨さんに案内されたリビングには義父、否、正確に言うと元義父が座っていた。

元夫との離婚と元義父との再会

「忙しいのに悪いね」

「いえ。こうしてお義父さんとご一緒させていただくのは私も楽しみですから」

多摩地区で病院を経営していた元義父は10年前に院長の座を長男に譲り、今は診察も古い付き合いの患者さんだけに絞っている。病院の近くに200坪の自宅があるが、長男一家との暮らしはいささか居心地が良くないと、相続税対策で購入したこのタワーマンションで暮らし始めた。家政婦の高梨さんも一緒に移ってきた格好だ。

 

私は8年前まで二男の妻だった。元夫は進学校から有名私立大学の医学部に進んだエリートの長男と違い、偏差値も商才も真ん中レベルの普通の人だ。亡くなった元義母に似て物腰が柔らかくて優しいが、ストレスには滅法弱い。

義父の病院の整形外科で看護師をしていた私は、事務長だった元夫と恋愛結婚をした。しかし、その後、元夫は父親の財産目当てに近づいてくる“ビジネス仲間”とやらにいいようにあしらわれ、事業の立ち上げと清算を何度か繰り返した。

しまいにはアルコールが手放せなくなり、自室に引き籠もった。私たちの間には当時小学生だった一人息子の隼人がいて、このままでは隼人にも悪影響を及ぼすと二人で話し合って離婚を決めた。

そうした経緯があったので、1年前にマンションのエントランスで再会した時はお互い驚いたものだ。私がシェフの現夫と再婚してマンションの近くでイタリアンバルをやっていると話すと、元義父は時折店に顔を出したり、テイクアウトの注文をしたりしてくれるようになった。

元義父に言わせれば、「身内のよしみではなく、金沢君の料理が掛け値なしにうまいからだ」ということのようだ。中でも桜まつりの時だけ出しているナポリタンは大好物らしい。

食事の後、高梨さんが用意してくれたケーキとエスプレッソを楽しみながらしばし談笑した。

茉奈の休憩中に夫を訪れる人物とは?

「隼人も4月からは高校3年生か。医学部を目指しているんだろう?」

「おかげさまで。金沢からも『鳶が鷹を生む』だって言われています。お義父さんの隔世遺伝です」

「茉奈さんだって国立大の看護学部を出てるんだから十分優秀じゃない。先生もお孫さんがお医者さんになってくれたらうれしいですよね」と、高梨さんが横やりを入れる。

「内孫は二人とも医学に興味がなさそうだからな」

「お母様似で、派手な仕事が好きなんですよ」

高梨さんの突っ込みに思わず笑ってしまった。病院の理事長である元義姉はPTAや婦人会の役員を歴任した後、昨年には地元議会の議員選挙に立候補して初当選を果たした。元義兄はそんな妻に頭が上がらないようだ。

手元のアップルウォッチを見ると、既に40分が経過している。「そろそろ戻らないと」と席を立った。「そのうち、隼人を連れてくるといい」。元義父の言葉にうなずいて、最上階の部屋を後にする。

慌てて屋台に戻ると、店先の子供たちが気まずそうに顔を見合わせた。「シェフは?」と尋ねると、「今ちょっと外してます」という答えが返ってきた。

ふと桜並木の方に目をやると、夫と長身でスタイルのいい女性の姿が見えた。すぐにあのソムリエール(女性ソムリエ)だと分かった。いい年をして、恋人同士のようにいちゃついている。

 

気付かないふりをして接客に入る。子供たちの顔がこわばっているのが分かる。「子供にまで気を使わせて何をやっているんだか」と心の中で夫に毒づいた。

5分ほどして戻ってきた夫は、「悪い、ちょっと店に用があって」と言い訳をして、私と目を合わせないようにしながら残った商品のチェックを始めた。

「パニーニサンド1つ、ください」。聞き覚えのある声に振り向くと、なんと、あのソムリエールが立っていた。「あら、来てくれたんですね」造り笑顔で平静を装う。

「今日はお天気も良くていいお花見日和だこと」ソムリエールは体のラインを強調した桜色のニットのワンピースがよく似合っている。匂い立つような色香に気圧されてはいけないと両足を踏ん張った。

●夫の不貞に気付きながらも茉奈さんが“両足で踏ん張る”ワケとは? 後編【息子に“自分と同じ思い”をさせないために…夫の裏切りに耐える女性の「決して揺るがない目的」】で詳説します。

※この連載はフィクションです。実在の人物や団体とは関係ありません。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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