物価高で「預貯金」の資産価値は目減りするばかり…株高の今、投資を始めるのは正解なのか?
Finasee / 2024年4月19日 17時0分
Finasee(フィナシー)
まずは、満を持して投資をスタートしようとした人が、あまりの株高にためらってしまった話。投資によって資産をつくろうと決意した意欲と、克服しなければならない元本割れへの恐怖が葛藤する。はたして、無事に投資をスタートできるのだろうか……。
初めての投資が日経平均4万円台「投資はギャンブルだから、失敗したくない……」というのが、神塚直樹(37歳)が考える投資への偽らざる心構えなのだった。日頃は、「コスパ(コストパフォーマンス)」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」などと言って、資産も時間も効率的に管理したスマートな生活を理想としながら、その上着を1枚脱ぐと、とても臆病な自分がいることに気がついた。ちょうど日経平均株価が4万円を超えた日、新NISAの「つみたて投資枠」で「全世界株式(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」に連動するインデックスファンドを注文しようとした時、突然、頭の中に響いた「本当にそれでいいのか?」という割れ鐘のような大声に動きが止まったからだ。
頭の中に響いた声に怯えて、スマートフォンのアプリで「注文を確定する」のボタンを押そうとしていた神塚の指は動かなくなった。「日経平均4万円の今、株式を買っても大丈夫なのか!?」。米国株も史上最高値を更新している。もちろん、株価が値上がりしていることは悪いことではなかった。むしろ、値上がりしていなければ、株式に投資する投資信託を購入しようという気持ちにもならなかっただろう。しかし、いざ、自分が購入しようとすると、崖の上から飛び降りるように命じられている気持ちになった。
神塚は、これまで「投資」など、考えもしなかった。神奈川県に生まれ、東京の私立大学を卒業して、埼玉に本社がある産業機械メーカーに就職した。小学校の頃の運動会では50m走で手をつないでみんなでゴールした。ゆとり教育のフロントランナーとして育った。目立った学生ではなかったし、就職して特に大きな望みがあるわけでもなかった。「人並みの生活と人並みな幸せ」が得られれば良いと考えていた。この頃、同級生らが結婚するようになったので、結婚した方が良いのかと、焦りを覚えてもいた。
貯金でお金を増やすだけでは…これまでは、もっぱら積立預金をしてきた。子供の頃、貯金箱に10円や100円など、使い残したお小遣いをためて、好きなゲームソフトを買ったように、コツコツと預金を積み立てることに勝るものはないと考えてきた。資産を増やそうとして、日々変動する株価の上げ下げに一喜一憂するようなことは、「感情の無駄遣い」に思えた。会社には確定拠出年金があったが、銀行預金で積立することを選んだ。しかし、2023年10月に、吉野家の牛丼が並で本体価格が400円を越えたことが、神塚の考え方を変えさせた。神塚にとって「吉牛」は並盛り280円だった。それが、380円となり、もはや、税込みで468円だ。好きで食べるキムチ牛丼は608円にもなった。預金でお金を残しても、物価高には対応できないと真剣に考え始めた。
お金が増えないことには、ズルズルと資産としての価値が目減りしてしまうことになる。住宅のような大きな買い物について、東京ではもはや購入を諦めなければならないほどに値上がりしてしまったが、それが普段使っている日用品にまで及んでくると、何らかの対策が必要と考え始めた。そこへ、政府の「資産所得倍増プラン」が発表され、「資産運用立国」という言葉が使われ始めた。そして、1人当たり1800万円まで投資非課税になる「新NISA」の登場だった。
神塚はYoutubeの動画でさまざまなことを学んだ。「長期・分散・積立投資」は最強の資産形成手段だと多くのYoutuberが言っていた。「つみたて投資枠の対象となっている投資信託は「金融庁のお墨付き」という言葉も聞いた。そして、投資対象として最強のファンドが「全世界株式(オール・カントリー)」のインデックスファンドだということだった。NISAの「つみたて投資枠」を使って、毎月3万円ずつ積立投資していく計画を立てた。一度注文してしまえば、後は自動的に積立投資が続いて、10年先、20年先を待てばよい。積立投資をしていることは、忘れるぐらいが良いといわれていた。
株価の水準は高くなっているものの、「だからこそ積立投資の長期投資でコツコツ購入する意味がある」と力説するYoutuberに励まされた。だからこそ、投資銘柄を指定して、投資金額を入力し、積立投資の契約をスタートするつもりだった。それなのに、最後の「ポチッと」ができない。せっかく投資に向かっていた気持ちが、危うく消えうせそうになっていた。その神塚の気持ちは、思いがけないことがきっかけで、投資に踏み切る決意に変わった。そのきっかけとは……。
●悩める37歳、神塚の背中を押した出来事とは……? 後編【新NISAで始める「オールカントリー積立」物価高にあえぐ37歳男性の「投資に踏み切れたきっかけ」とは?】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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