富士通10分割で新NISAでも投資可能に 拡充した株主還元とは
Finasee / 2024年4月22日 17時0分
Finasee(フィナシー)
富士通は2024年3月に1:10の株式分割を行いました。従来は投資に約250万円が必要でしたが、分割で約25万円から投資できるようになっています。
【富士通の分割権利付き最終日終値(2024年3月27日)】
・分割調整前:2万4780円(247.8万円)
・分割調整後:2478円(24.78万円)
※()は投資単位
この分割で新NISAでも富士通に投資できるようになりました。個別の株式も買える成長投資枠の年間投資可能額は240万円であり、分割前は最低投資額が枠を超えていました。投資単位が枠内に収まったことで投資できるようになっています。
個別の株式に投資するなら、その企業の状況も知っておきたいところです。
富士通はどのような企業なのでしょうか。同社の概要と、業績の推移を押さえましょう。また拡充された株主還元策も紹介します。
システム大手 ITサービス好調で株価も快走富士通はITサービスの大手です。システムインテグレーションやクラウドといったサービスと、サーバーやストレージといったハードウェアが主な収益源となっています。ほかにパソコンや電子部品なども手掛けています。
【セグメント情報(2023年3月期)】
主な製品、サービス 売上高 サービス システムインテグレーション、クラウド 1兆9842億円 ハードウェア サーバー、ストレージ 1兆1323億円 ユビキタス パソコン 2860億円 デバイス 電子部品(半導体、電池) 3826億円※旧・テクノロジーソリューションは2024年3月期からサービスソリューション、ハードウェアソリューションに変更
※デバイスソリューションを構成する新光電気工業は2025年3月期に所有株式の全てを売却する予定
出所:富士通 決算説明会資料
直近の業績は以下の通りです。2023年3月期は主力のITサービスが好調で増収増益となりました。増益はコストの改善も貢献しています。今期(2024年3月期)も増収を見込みますが、進行中の事業再編や構造改革で費用が先行していることから最終減益を予想しています。
【富士通の業績】
売上高 純利益 2022年3月期 3兆5868億円 1827億円 2023年3月期 3兆7138億円 2152億円 2024年3月期(予想) 3兆8100億円 2080億円※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想
出所:富士通 決算短信
投資家の評価は上々です。株価は2024年4月12日までの5年間で約3倍に上昇しました。
出所:Investing.comより著者作成売上は減少傾向も利益は増加 コア事業への集中で採算向上直近で売り上げを伸ばす富士通ですが、実は長期でみると減収傾向にあります。国際会計基準に移行した2014年3月期以降、売り上げは2022年3月期まで8期連続で減少しました。
一方で収益性は向上しています。営業利益は増加傾向にあり、2023年3月期は過去最高を更新しました。営業利益率は9.0%に達し、2014年3月期(同3.1%)から5.9%ポイント上昇しています。
出所:富士通 主な財務諸表データより著者作成財務の改善も進んでいます。特に有利子負債比率の低下と株主持分比率の上昇が進みました。借入金の消化が進む一方、利益が順調に積み上がっている様子がうかがえます。総資産はほぼ変化していませんが、構成は健全なものになっているようです。
出所:富士通 主な財務諸表データより著者作成利益率の改善は中核事業への集中があります。
富士通は近年、パソコンや携帯電話端末、スキャナといったハードウェアの製造を手掛ける事業を切り離してきました。2023年12月にも半導体パッケージを手掛けてきた新光電気工業の譲渡を決定しています。
利益率が向上したのは、不採算事業を整理し主力のITサービス事業へ集中したことが奏功しているとみられます。
株主還元を拡充 配当と自社株買いで年2000億円を計画将来の見通しも確認しておきましょう。
富士通は2023年5月、中期経営計画(2024年3月期~2026年3月期)を公表しました。売上高は4兆2000億円、事業再編といった一時的な損益を除いた調整後営業利益では5000億円を目指す内容です。引き続きITサービスへの集中を進め、業績の拡大を狙います。
【中期経営計画の財務目標】
2023年3月期(実績) 2026年3月期
(目標) 売上高 3兆7000億円 4兆2000億円 調整後営業利益 3200億円 5000億円 調整後営業利益率 9% 12% コアフリーキャッシュフロー 1500億円 3000億円
出所:富士通 中期経営計画
株主還元の拡充も発表されました。1年あたり2000億円の株主還元を実施し、2026年3月期までの3期で6000億円を還元する内容です。2023年3月期までの3期では3500億円を還元していました。
出所:富士通 中期経営計画(財務計画)より著者作成自社株買いの大幅な積み増しにより、富士通の総還元性向は90%に達しています。還元を重視する投資家からは今後も注目されそうです。
なお、自社株買いは計画通りに行われないケースに注意が必要です。自社株買いは一般に上限が設定されますが、その全てが実施されるとは限りません。
例えば富士通は2023年4月、1500億円(1200万株)を上限とする自社株買いの計画を公表しました。しかし実際に取得したのは1030億円(451万株)にとどまっています(出所:富士通 自己株式の取得に関するリリース(2024年3月26日))。
富士通の株主還元は自社株買いが中心となる計画です。自社株買いは公表時だけでなく、実施状況も確認しておきたいところです。
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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