突然の「家賃値上げ」に不満爆発! 転居費用のない“八方ふさがり”の男性がとった行動は…
Finasee / 2024年5月10日 11時0分
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<前編のあらすじ>
小林さんは東京都内に住むフリーター。月収22万円で手取りは18万円。家賃の7万円を引くと、残りは11万円程度。生活費に余裕があるわけではなく、昨今の物価高でどんなに節約をしても家計は火の車の状態だった。
そんな小林さんのもとに、住んでいる物件の管理会社から1通の封書が届く。中身はなんと家賃の値上げ通知。次回の契約更新時より家賃を2万円も値上げするのだという。
困惑する小林さんは、行政書士であり宅地建物取引士である筆者のもとへ相談に訪れた。小林さんの主張は「一方的な通知による値上げはおかしい」というものだったが、今回の値上げは法的に何の問題もないというのが現状だった。
●前編:【「おかしくないですか?」物価高で生活苦にあえぐ中 “家賃増額”を通知されたフリーター男性の嘆き】
借り手に残された対抗策とは?家賃の増額の通知は貸し手側から一方的に行えて、借り手側への到達によってその効果が生じる。この点は確かだ。
しかし、借り手側に何も対抗策が残されていないわけではない。なんと、借り手側は貸し手側からの増額請求をはねのけられるわけだ。ただ、はねのけたからといって直ちに増額請求が否定されるわけではない。
具体的に言うと、「合意が成立するまでは従前の家賃を払い続ければよい」という結論が導かれる。つまり、2万円の値上げ請求が届いた小林さんはそれに納得できないとして従前の家賃額として7万円を4月からも支払い続ければよいのだ。
ただし、値上げに納得ができないからといって一切家賃を支払わない行為はNGだ。それは単に家賃の滞納となってしまう。
私は小林さんに対し、「増額は拒める。そして従前の家賃を払い続けることが必要だ」ということを伝えた。すると小林さんは「安心しました」と安堵した様子で、その日の会合は終焉(しゅうえん)した。
不動産会社から届いた「脅し文句」に困惑家賃の増額は拒めるとはいえもともと増額を申し込んできた貸し手側が「はいそうですか」と引き下がるわけはない。貸し手側と借り手側の両者間での話し合いがまとまらない場合は裁判所での調停に話が持ち込まれることになる。
小林さんも例外ではなかった。不動産会社から「このまま話し合いがまとまらないのであれば来月には裁判所での調停手続きに移行する」と内容証明郵便が届いた。
こうなってしまえば個人である小林さんにとっては非常に不利だ。調停は基本的に平日の昼間に行われる。仕事を休んでいくことになるが、フリーターたる小林さんにとって仕事を休むことは収入減に直結し死活問題だ。
調停に参加しなければ相手の言い分がすべて認められてしまい今後の流れが不利になる。かといって代理人として弁護士を立てれば、値上げされる2万円の家賃なぞ小さな問題に思えるだけの額のお金が飛んでいくことになる。
「私は一体どうするべきなんだ……」
そう小林さんは頭を抱えていた。
ただし、それは相手も同じこと。業務時間内に時間を割いて裁判所へ行くか高額な弁護士費用を払うことを迫られる。賢明な管理会社であればこれまで問題を起こしていない借り手に対して調停まで行うのはレアケースだ。
私は「これまで大きな問題や家賃滞納などのないケースであればすぐに裁判手続きへ移行されることはないだろう」と伝えた。
また、値上げの妥当性などはなかなか判断が難しい部分もある。必要に応じて消費者センターや自治体の設置している住宅相談センターなどへ相談することも伝えた。
そして、私からは「値上げに同意できない、後日で構わないので話し合いをしたい」といった旨の内容証明郵便を作成して送付するにとどめた。
小林さんが最終的にとった行動は…その後小林さんはどうなったのだろうか。私が小林さんのその後を知ったのは内容証明郵便を送ってから1年程たってからだ。どうやら小林さんはなけなしの貯金を使って引っ越しをしたらしい。
何も契約の解除や立ち退き要求によって追い出されたわけではない。家賃値上げの拒否自体は更新の拒絶理由や解約理由にならないからだ。このように、居住用住宅では借り手側が強力に借地借家法によって保護されている。
では、なぜ小林さんは引っ越すことになったのだろうか。理由は管理会社との関係悪化だ。
家賃の値上げを拒否して以降管理会社の対応が明らかに悪くなったという。小林さんの住む物件はやや築年数が経過しており、ちょうど各設備に不備が出始めてくるタイミングだった。
以前であれば設備が故障したことによるトラブルはすぐに対応されたのだが、あれ以降対応が悪くなり、すぐには対応されなかったようだ。真冬に給湯設備が故障した際、数日対応を放置され「もうだめだ」と思ったようでそこで引っ越しを決意したとのことだ。
家賃値上げは拒否できるが、歩み寄りも大切家賃の値上げは拒否できる。借地借家法によって借り手側は手厚く保護されているからだ。しかし、法によって保護されているからとその権利にあぐらをかいていると後々自らの首が絞まっていくことにもなりかねない。
住宅の賃貸借契約は貸し手と借り手との合意で成立する契約だ。家賃の値上げは拒否できる。だが、より長く平穏に住み続けるには相互の歩み寄りが必要だ。
小林さんのように不便を被ったあげく最終的に引っ越し――なんてことにはならないように、家賃の値上げを拒否するのであれば一方的に突っぱねるのではなく、こちらも歩み寄り、周辺の家賃相場やその他事情を鑑み、状況次第では一定額までの値上げは許容するなどの対応が必要だろう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
※登場人物はすべて仮名です。
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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