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「S&P500」の積立投資で「30年で1億円」を目指すパワーカップルの資産形成が早々に破たんした理由

Finasee / 2024年4月30日 17時0分

「S&P500」の積立投資で「30年で1億円」を目指すパワーカップルの資産形成が早々に破たんした理由

Finasee(フィナシー)

小山達也(37歳)は、パートナーの佐野沙織(33歳)が夕食の席に着くと、待ちかねたように自分たちの計画について話し出した。2024年から始まる新NISAは、2人の将来を豊かにする切り札のようなもので、2人が同じ目的に向かって行動することが大事であるということ。特に、最初の2年間は、お金のやり繰りが窮屈になるが、それは2人の将来のためなので我慢をすること。もちろん、毎月の高級レストランの外食巡りや年1回の旅行は継続するので、全てを犠牲にするわけではないことなど、これまで2度、3度と繰り返してきた2人の約束事を改めて確認した。

DINKSにできる30年1億円の資産形成プラン

2人の計画は、毎月それぞれ5万円を新NISAで積立投資を行うというものだった。小山は米国株価指数「S&P500」に連動するインデックスファンドを、沙織は全世界株式インデックス(MSCI ACWI)に連動するインデックスファンドを積立投資すると決めた。それぞれが30年間の積立投資を完走できれば、NISAの非課税限度額である投資元本1800万円に到達する。仮に、「S&P500」が過去5年の年間平均リターン22%が30年間継続したと仮定すると、小山の30年後の資産は収益非課税の下では元利金合計で11億8600万円になる計算だ。また、沙織の投資する「オルカン」の過去5年の平均年率リターン18%で計算しても30年後の元利合計は5億2000万円だ。さすがに、この5年のような相場が今後も続くとは考えにくいが、年率8%で運用できたとしても、2人で合計1億4000万円の資産ができる計算になる。30年後でも2人とも70歳にはなっていないため、十分な資産を手に入れて豊かな老後が実現できる。「30代から毎月10万円を積立投資ができるのは、まったくDINKS(ダブル・インカム・ノー・キッズ)の特権。将来の富裕層の誕生だ!」と小山は目を輝かせて言った。そして、30年間、投資を継続することが大事だと何度も確認し合った。

 

ただ、毎月5万円の積立投資といっても2人の負担感は違った。小山はこれまでの生活を変えなくても5万円を投資に回すことができたが、沙織は5万円を毎月確保することが難しかった。そこで、小山が借りているマンションに沙織が移り住んで、沙織の投資資金を捻出しようという話になった。小山は、「いずれ結婚するつもりだったのだから、先に一緒に暮らすだけ。結婚は手続きだけのことだから」と屈託がなかったが、1LDKの部屋に2人で暮らすことは現実問題として難しかったので、2人の貯金を使って2LDKの部屋を共同で借りることにした。年収に応じて小山が負担する家賃の金額を大きくした関係で、新しい家賃と水道光熱費の分担から計算すると沙織も5万円の投資資金が、何とか確保できた。ただ、沙織は5万円を投資に回すと余裕資金がほとんどなかった。

積立投資が呼び込んだ悲劇

新NISAのスタートを待つまでもなく、2023年6月から2人の積立投資は始まった。沙織は、小山と2人分の弁当を毎朝作るようになった。昼食を外食にするよりも、2人で1日1000円以上の昼食代が浮く計算だった。極力外食は避け、休日はサブスクリプション契約で映画やドラマを見て過ごすようにした。そうすると、沙織は毎月5万円を投資に回しても、1万円を超える余裕資金ができることがわかった。また、沙織は、小山と一緒に暮らしてみて、小山の暮らしぶりやさまざまなクセや生活のルールなどについて、事前に思っていたほどには違和感を覚えないことに安堵した。小山と同棲することになったと友人に話した時に、一緒に暮らすと嫌な面や受け入れない部分が見えるから、結婚するまで一緒に暮らさない方がいいということを言われていたが、その心配は杞憂(きゆう)だったことがわかった。

ただ、積立投資を始めて半年が経過し、いよいよ、新年から新NISAが始まる直前のクリスマスに、沙織の気持ちがプツンと音を立てて切れた。「なぜ、クリスマスにコンビニで買ったケーキを前に、自宅で缶ビールで乾杯なの?」――沙織は、「なぜ?」という言葉が口をついて出た途端に、涙がとめどなく流れ始めた。「節約ばかりで、投資を始めてから毎日が全然楽しくない!」。沙織の言葉に、小山は返す言葉もなかった。小山としては、積立投資を始めて半年とはいえ、すでに2人の口座を合わせると元本は60万円になり、投資評価額は62万円を超えていた。わずか6カ月で2万円以上の収益になったのだ。その結果を確認して将来に希望が見えてきたと喜んでいたところだった。その矢先に、沙織が泣き出してしまったことに、どうしていいのか皆目見当もつかなかったのだった。

●新NISAのスタート前に暗雲が立ちこめてしまった2人の積立投資。沙織と小山は納得のいく答えを出せるのだろうか……? 後編【30代からの投資で将来の富裕層を目指したパワーカップルの「息ぐるしさ」の正体とは…】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

風間 浩/ライター/記者

かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。

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