ダイナミックな市場変化がもたらす投資トレンドの新常識
Finasee / 2024年4月30日 7時0分
![ダイナミックな市場変化がもたらす投資トレンドの新常識](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_13468_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
マーサーでは毎年、今後数年間の市場テーマと投資機会を表すタイトルをグローバルで考えており、2024年は「アジリティの時代(An age of agility)」に決定しました。アジリティとはスポーツなどでよく用いられる言葉で、敏捷性や機敏性といった意味があります。投資家の皆さまに対し、これまで以上に機動的に運用していただきたいというメッセージを込めました。
なぜアジリティが重要なのかと言うと、今まさに市場環境がダイナミックな変化を遂げつつあるからです。変化を具体的に挙げると、時間軸の短い順に、➀各国金融政策の変更などに端を発する足元の「レジームチェンジ」、②通常の景気サイクルの2~3倍の長さで続く「スーパーサイクル」、③今後数十年間にわたって続くと見られる「メガトレンド」の3つがあります。以下、それぞれのトレンドの内容や想定される投資機会について解説していきます。
最初に取り上げるトレンドはレジームチェンジです。マーケットの動きは一時的なものが多く平均回帰するのが一般的ですが、何らかのパラダイムシフトが起きると偏りが続くことがあります。このようにマーケットの偏りが新たなスタンダードになる現象をレジームチェンジと呼びます。[more]
足元で起きているレジームチェンジとしては、銘柄間格差の広がりを意味する「ばらつき」や市場混乱によりボラティリティの高まった状態を示す「ディスロケーション」、そして効率的フロンティアの平たん化に基づく「効率的なリターンの獲得」と大きく分けて3つが挙げられます。
まず1つ目のばらつきが世界的に目立つようになってきました。従来は中央銀行の各種政策により低金利・低ボラティリティの状態が長く続いてきましたが、コロナ・ショックや利上げなどの政策変更を経て現在はばらつきが高い状況にシフトしつつあります。
ばらつきが目立つ状態になると、アクティブ運用でアルファ獲得の機会が広がるというメリットが生まれます。ばらつきがなければいくら銘柄選択を頑張っても成果に結びつきませんが、ばらつきがある状態でうまく銘柄選択できればその結果がアルファという形でリターンになるのです。
実際S&P500における「マグニフィセントセブン」のリターン貢献度合いの推移を見てみると、オーバーウェイトしているかアンダーウェイトしているかで大きな差が開いています(図表)。青線は時価総額加重平均、緑線は均等加重平均の推移を示しており、時価総額に応じてマグニフィセントセブンの組み入れ額が大きい青線のほうが高リターンとなっています。かつてはリターンにあまり違いがありませんでしたが、徐々に差が大きくなっているのが分かります。
図表 優良銘柄の選別によりリターンが拡大
![](https://finasee.ismcdn.jp/mwimgs/2/f/800m/img_2fd0e6b3fd369882a284e68d1259543f52035.png)
投資機会としては今後、アルファ獲得を目指すアクティブ運用やヘッジファンドなどの活用余地がこれまで以上に出てくるのではないでしょうか。
続いて2つ目のディスロケーションも徐々に目立ち始めています。大きな要因は米中対立やウクライナ問題、中東情勢といった地政学的リスクの高まりです。いずれも一朝一夕に解決できる問題ではありませんから、しばらくはボラティリティが高い状態が継続すると見ています。
地政学的リスクが高まったからといって従来の政策アセットミックスを変更しなければならないわけではありませんが、運用を見直す機会にはなるでしょう。具体的には、リスクを抑えるために分散を検討したり、ボラティリティを活用したアルファ獲得戦略を考えたり、機動的な運用ができるマネジャーを探したりといった対応が考えられます。
また、プライベートアセットをはじめとしたオルタナティブ分野への投資がしやすくなってきている点も見逃せません。従来は新規の投資家を受け入れないファンドも多くありましたが、最近は市場の先行き不安を背景に既存投資家からの出資が減る傾向にあり、資金調達に苦労するようになっているのです。よってこれまで新規で受け付けてもらえなかった優良ファンドへの投資がしやすくなりました。
さらにヘッジファンドのパフォーマンスも改善が見込まれます。ヘッジファンドを巡っては、低金利や低ボラティリティ、銘柄間のばらつきの小ささなどを背景に好ましいリターンが見込めない状況が続いてきましたが、足元ではいずれも好転しました。その他、クレジット運用やプライベートエクイティにおけるGP主導のセカンダリー投資なども魅力的な投資先となりそうです。
そして長い目で見ればエマージング市場も投資妙味があるでしょう。近年のパフォーマンスは先進国市場に後れをとっていますが、経済ファンダメンタルズやバリュエーション、テクニカルといった観点からエマージング市場は魅力的だと考えられるためです。
特に厳しい状況にあるとされる中国市場についても、グローバルのベンチマークの中で過小評価になっているきらいがあります。また、大きなアルファを獲得するチャンスがあります。実際、中国市場のマネジャーは平均的に見て相当大きなアルファを稼いでいます。また好むと好まざるとにかかわらず中国市場のエクスポージャーを排除するのは難しいので、マーサーとしては少なくともベンチマークぐらいのウェイトは保有しておくべきと考えています。
最後に、レジームチェンジのもう一つのテーマとして効率的なリターンの獲得について取り上げます。欧米ではここ1~2年の金利急上昇を受け、最適なリターン・リスクの目安となる「効率的フロンティア」が大きく変化しました。
変化とは端的に言うと債券の期待リターン上昇です。これにより、従来と同じ目標利回りであれば株式の比率を減らしても達成できる見通しになりました。また効率的フロンティアのカーブが平たん化したため、株式を増やしたときに得られる期待リターンの上昇が従来と比べて小さくなっています。
日銀がマイナス金利政策の撤廃を決めましたので、今後は日本でも欧米同様の変化を迎える可能性があります。政策アセットミックスが適切かどうかは、金利上昇に対しアドホックに見直していく必要があるでしょう。仮に財政再計算を実施した後のタイミングで金利が急上昇したのであれば、5年後の再計算まで見直しを先延ばしするのは適切ではありません。金利が急上昇した時点ですぐにでも政策アセットミックスを見直すべきでしょう。
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後編では、長期間にわたって継続するトレンドである「スーパーサイクル」「メガトレンド」について取り上げる。
オルイン編集部
「オルイン」は、株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の機関投資家向け「運用情報誌」。2006年の創刊以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。
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