「38ってもう結婚チャンスなくないですか?」職場でマリハラ全開…周囲から疎まれる“自サバ女”の末路
Finasee / 2024年5月10日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
千帆(38歳)は、職場にやってきた中途採用の花林(26歳)の指導を任されることになった。しかし花林は、社内のルールに無駄が多い、非効率な仕事はしたくないなど、歯に衣着せぬ物言いでしばしば場を凍り付かせる。「私ってサバサバしてるから、何でも思ったことを口にしちゃうんですよね」というのが花林の決まり文句でもあった。
そんな花林は営業部のエースであり、社内でも人気の高い作田(28歳)に気があるようで、自分の歓迎会ということで飲み会を設定し、作田を呼ぶようにと千帆たちに要求するが……。
●前編:「私ってサバサバしてるから」職場に現れた“自サバ女”に周囲はあ然…人事も見抜けなかった驚異の「鈍感力」
堂々と仕事をサボる「自サバ女」
飲み会が無事に決定し、花林のお望み通り、作田の参加も決まった。
それから花林は機嫌良さそうに仕事をしているのだが、教育係の千帆としては、気がかりなことがあった。
千帆が屋上にある休憩所に行くと、そこにはベンチでコーヒーを飲む花林の姿があった。
「やっぱり、ここにいた」
「あら、どうかしたんですか?」
「まだ休憩時間じゃないわよ。どうして勝手に休憩なんてしているの?」
花林はとにかく仕事をサボるのだ。
何度注意しても直らない。今日もその注意をするために、休憩所に来たのだが、当の本人に反省の色は全くない。
「全員が一斉に休憩をするなんて非効率ですよ。それぞれのタイミングで休憩したらいいと思うんですけど」
「だとしても、会社の決まりがあるから……」
「会社の決まりが間違っているって思わないんですか?」
千帆はため息をつく。
「……それで、この間、お願いしたフライヤーのデザイン案、提出が今日までだけど、ちゃんとやったの?」
千帆の質問に花林は少し間を置いて答えた。
「……あれ、今日でしたっけ? 来週って聞いてましたけど?」
「そんなわけないでしょ。ちゃんと今日までって言ったはずよ」
花林はしばし思案したような顔をする。それから当てつけのようにため息をついた。
「じゃあ、今日中に仕上げますよ」
「え、ええ。まあ、間に合えば何でもいいけど……」
「健介くんなら、そんな嫌みな言い方はしないと思いますけどね~」
花林はそう言い残すと、イライラした足取りでオフィスに戻っていった。
飲み会が決定してから、花林の作田に対するアプローチは熱を帯びるようになった。今では下の名前で呼ぶようになっている。とはいえ、作田は全く相手にしていないように千帆には見えていた。
作田にはご熱心だが、仕事はとにかく不真面目。
これから先もずっと花林と一緒に仕事をし続けないといけないのかと思うと、暗たんとした気持ちになった。
作田の「好プレー」その後、典子の働きかけにより、少し遅れて歓迎会が開かれた。あくまで花林の歓迎会なので、ご自身の要望通り、花林の横には作田を座らせる。
「私って、どっちかっていうと男っぽいっていうかぁ、だから同性よりも異性といるほうが居心地いいんですよねぇ。気遣わなくていいし!」
早速、テーブルの真ん中では花林節がさく裂していた。作田はさすが営業部のエースと言わんばかり、嫌な顔ひとつせずに花林の話に相づちを打っている。
千帆や典子はテーブルの端でお互いのプライベートな話なんかに花を咲かせながら、運ばれてくる料理をつまんでいた。
「それでどうなんですか? 千帆さんの彼氏は?」
典子は千帆の彼氏のことを尋ねてくる。千帆には付き合って6年になる4つ年下の彼氏がいる。
「さあね。相変わらずよ」
お酒が入ったせいもあってか、千帆は少し大げさに肩をすくめた。典子の言うどうなんですか、とはつまり、結婚はしないのかということだった。
「ええ、千帆さんって彼氏いるんですか~?」
いつの間にか隣にやってきていた花林が甲高い声で会話に割り込んだ。ひょっとすると作田に相手にされずにここまでやってきたのかもしれない。しかし横目で確認した花林の表情は、先ほどの妙な上機嫌のままだった。
「うん、まあ」
「結婚するんですか?」
「それはどうかなぁ。ほら、タイミングもあるし」
「またまた強がっちゃって。むしろタイミング逃しまくってますよ? その彼氏と結婚しなかったら、もう結婚チャンスないですって。 もう38ですよね?」
「……そうかもねぇ」
ほどよく温まっていた典子との会話の空気は急激に冷えていった。ほろ酔い気分も台無しだったけど、千帆は怒りを表に出さないようテーブルの下で拳を握り、努めて穏やかに返事をした。
「そんな感じでどうするんですか? 土下座して結婚してくださいってお願いしたほうがいいんじゃないですか?」
「別に、結婚を望んでいるわけじゃないから」
花林はキャハハとうれしそうに笑う。酔っているようには見えなかったが、酔っていても酔っていなくても腹立たしいことは変わらなかった。
「何だかこじらせちゃってますよね~。結婚したくないなんて思ってるわけないじゃないですか~」
「ほら増田さん、今の時代、結婚がすべてじゃないでしょ? いろんな関係があっていいと思うけど」
典子がすかさず助け船を出してくれる。もちろん花林がこの程度で引き下がるはずもないことは、千帆も典子も分かっていた。
「でも、私は千帆さんは結婚した方がいいって思うんですよ~」
「どうして?」
「だって千帆さんって私に対してスゴい嫌みなことばっかり言ってくるじゃないですか。それって欲求不満だからじゃないですか? だから結婚したら、そういうのもなくなって、私も助かるっていうか~」
我慢の限界だった。握りしめた手が震え、酔いの覚めた頭のなかが真っ赤な感情で塗り替えられていった。千帆は気持ちを落ち着かせるためではなく、鋭い言葉を吐き出すために深く息を吸いこんでいた。
しかし、千帆の怒りが吐き出されることはなかった。代わりに作田のよく通る声が、テーブルに響き渡っていた。
「増田さんはスゴいこと言いますね」
作田に話しかけられたことがうれしいのか、花林は喜々として作田を振り返る。
「そうなんだ。私、昔からサバサバしてるねって、みんなから言われるの~」
笑う花林を作田は冷たく一見する。
「いや、違うよ」
「え?」
「サバサバしてるって、物事に執着しない性格っていうか、もっとあっさりした人を言うと思うんだよね。でも、増田さんはやたら結婚にこだわってるみたいだし、千帆さんに対してもしつこく絡んでるでしょ? それってすごくネチネチしてるし、だいぶこってりした豚骨ラーメンみたい」
「ネチネチ……? 豚骨……?」
「うん。俺、めっちゃ苦手」
作田はそれだけ言うと、また酒を飲みすすめる。花林はそんな作田をぽかんと口を開けて見つめていた。ハトが豆鉄砲を食ったようにという表現がぴったりな顔だ。
そんな花林の顔を見ていると、おかしくなって、千帆は笑いを堪える。他の参加者たちも一様に同じように笑みをかみ殺していた。
「自サバ女」の末路それから1カ月の時がたった。
「いやぁ、あの顔はほんと絶品でしたよね?」
典子はまだ飲み会での花林のことを思い出して笑っていた。
千帆と典子はいつものように食堂で昼ご飯を食べている。しかしその近くに花林の姿はない。
「でも、まさか辞めるとは思わなかったね」
「しょうがないですよ。期待されてうちに来たのに、全く仕事をしないんですから」
作田にフラれた花林は、そのストレスを周りにぶつけ、部署の雰囲気を悪くし続けたことで、部長からおしかりを受けたのだ。そこで部長にも言い返し、大げんかに発展。そのまま辞めてやると叫んで、会社を出て行ってしまったのだ。その後は内々で、退職手続きを済ませたとのこと。退職後の花林がどうなったかは誰も知らない。
「人事も、もうちょっとしっかり判断してほしいですよね~」
典子の愚痴に千帆は大きく息をはく。
「ほんとよ。迷惑かぶるのはこっちなんだから」
「それより、今度、千帆さんの恋人に会わせてくださいよ」
千帆と典子はお互いの恋人の愚痴で盛り上がる。もうしばらくしたら、きっと花林の存在なんて忘れるのだろうなと千帆は思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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