義実家が汚部屋に…パチンコ依存症で孫にまで金を借りようとする義母を更生させた「思わぬ提案」
Finasee / 2024年5月29日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
愛実(45歳は)隣人から義母をパチンコ屋で見かけたと聞いて不信感を抱いていた。その後、夫や高校生の娘・優海(17歳)にまで金を借りようとしたため、家に呼び出すと、義父の四十九日以来、2カ月ぶりにあった義母は変わり果てていた。「義父の介護は自分1人で頑張っていた。合法なパチンコをして何が悪い」とすごいけんまくで開き直られ、気おされてしまった愛実たち。しばらくして、義母が万引きをしたと警察から連絡があった。
●前編:「あんたたちは共働きでしょ! 」独居老人となった義母がパチンコの軍資金を無心した「仰天の相手」
万引きは一度や二度ではなかった
愛実たちはすぐに車に乗り込み、幸子がいるスーパーに向かった。
そこは愛実も何度か使ったことのあるスーパーなのだが、もう来ることはないのだろうなと覚悟しながら、裏口から事務所に向かった。
休憩室と書かれた部屋で幸子は背中を丸めて座っていた。幸子の隣には警官が2人並んで立ち、幸子の対面には店長が座っていた。武敏はすぐに店長に頭を下げた。
「た、大変申し訳ありませんでした」
「いや、もうね、一度や二度じゃないんですよ。それでもう警察に通報しました。でも残念ながら、逮捕はできないみたいなんで連れて帰ってもらえますか?」
店長はいら立ちを隠さずに、愛実たちに話す。
「それと、二度と店には立ち寄りませんっていう誓約書にもサインさせたので、あなたたちもこの人が店に近寄らないように見ておいてくださいね」
そう言って店長はデジカメで幸子の写真を撮る。
「この写真をうちの店員と共有しますんで。もし見かけたら、また警察に通報するんでお願いします」
早口でまくし立てる店長に愛実と武敏は謝り倒す。そうして、幸子を引き取って、店を後にした。
義母の涙車に乗り込むが、幸子はうつむいたまま何も言葉を発しない。愛実や武敏もいら立ちや悔しさを抱えていたので、その感情をそしゃくするため、何も幸子に言葉をかけなかった。結果、無言のまま車は発進し、そのまま家まで10分とかからずに到着する予定だった。
しかしその途中、武敏は人気のない道に車を止めた。
「……何やってんだよ?」
怒りと困惑の入り交じった声だった。
それが幸子に向けられたものだと本人はすぐに察知し、表情が硬くなる。
「何でそんなに金が要るのか? 万引をしないと生活ができなくなるくらい、パチンコに金をつぎ込んだのか? そんなに楽しいのか、パチンコは⁉」
武敏の怒声を聞き、幸子はズボンをぎゅっと握りしめた。
「じゃあいいよ! そんなに楽しいなら、俺が金を全部渡してやるよ! それで死ぬまで楽しんでたらいいよ!」
武敏は叫んだ後、ハンドルに顔を押しつけた。肩が震えている。愛実は見てはいけないと思い、目をそらす。
幸子は苦しそうに目を閉じていた。愛実はそんな幸子に語りかける。
「お義母(かあ)さんが幸せなら、私たちはどんなことでも力になりたいと思っています。それは分かってくれますね?」
幸子はうなずいた。
「でも、今のお義母(かあ)さんを見て、お義父(とう)さんはうれしいでしょうか? お義父(とう)さんが大好きだったのは、今のようなお義母(かあ)さんですか?」
幸子は首を横に振った。
「万引なんてするような人、お義父(とう)さんは好きになるわけないですもんね」
幸子は目から涙を流して、うなずいた。
「お、お父さんが亡くなって、私、1人になって……。な、にをすればいいのか分からなくなって……」
幸子はぽつりぽつりと胸の内を語り出した。
「いつも朝起きたら、夫の様子を見に行って、それで朝ご飯を作って、夫の介護をしてたのに。急に朝起きたら夫がいなくなってて、それで何をしたらいいのか、分からなくて、寂しくて……!」
愛実は両手で口を覆った。
幸子はしっかりもので、義父はいつも幸子に頼りっきりだと勝手に思っていた。しかし、幸子は幸子で義父の存在に依存していたのだ。
紛れもなく2人で支え合って生活をしていた。愛実も武敏もそれに気付いてなかった。
「ごめんねえ、ホントにごめんね、みんな。私はいったい、何をしているのか」
むせび泣く幸子の声を聞きながら、武敏は再び、車のエンジンをかけた。
荒れ果てた義実家義実家に来るのは義父が亡くなって以来だった。
少し寂れたように感じる。
車を駐車場に止めると、武敏は車を降り、それに愛実も続く。まだ降りてこない幸子を無視して、2人で玄関を開いた。
愛実はそこでの光景に驚愕(きょうがく)した。
「なんだよ、これ……?」
清潔感が保たれていたはずの玄関には四方にゴミ袋が置かれ、廊下にも飲みかけのペットボトルやお菓子の包み紙が散乱している。
この家を見るだけで、幸子がどれだけすさんだ生活をしていたのかが分かった。
しっかり幸子と話をしたかったが、いろいろな感情があふれていたことと、優海を家で1人にしておけなかったので、取りあえず送り届けただけで、帰宅をすることにした。
孫から祖母へ家に帰り、優海にも一連の話をリビングで聞かせた。優海は驚きつつも、事態を受け入れている。
「まあ、お爺(じい)ちゃんのこと、大好きだったもんね」
優海の言うとおりだ。愛実たちは夫を亡くした幸子の気持ちを考えていなかった。
武敏はがっくりと肩を落とす。
「母さんは強い人だって俺は思い込んでて、そこまで考えが至らなかった…」
「私もよ。同じ女なのに、分かってあげられなかった」
出てくるのは反省の言葉ばかり。しかし優海だけは前を向いていた。
「それよりもこれからどうするの? また一人ぼっちにするの?」
「いや、それはダメだ。まだパチンコに依存しているかもしれない。俺が逐一連絡を取るし、仕事終わりは毎日実家に顔を出すよ」
「私もそうする。できる限り、お義母(かあ)さんと話すようにするから。でも、優海はしなくていいからね。あなたは自分の将来のことを考えて」
愛実がそう言うと、優海はうなずいた。
「それじゃあさ、私が大学に進学したら、私の部屋をお婆(ばあ)ちゃんにあげたら。同居した方が何かと手っ取り早いでしょ?」
優海の発言に愛実たちは目からうろこが落ちる。同居をすれば、全てが解決する気がした。しかも優海から提案してくれたのだから、断る理由は何もない。
「これからはお爺(じい)ちゃんの代わりに、みんなでお婆(ばあ)ちゃんを支えてあげないとね」
優海の言葉に愛実と武敏は目を合わせ、思わず吹きだした。これでは誰が大人なのか分からない。
悔しいが、優海の言ってることは正しかった。
義母との同居生活それから1年後、優海は大学に進学して一人暮らしを始め、幸子との同居生活が始まった。
もうすっかりパチンコからは足を洗い、以前のような快活さが戻っていた。
リビングを掃除していると、幸子がうれしそうに廊下から声をかけてくる。
「愛実さん、それじゃあ私はいつもの集まりに行ってくるからね」
現在、幸子は地域のシニアクラブに入り、そこでお友達と楽しそうにカラオケや陶芸などのレクリエーションをやっている。
「はい、行ってらっしゃい」
愛実は幸せそうな幸子の背中を笑顔で見送った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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