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「あんたたちは共働きでしょ! 」独居老人となった義母がパチンコの軍資金を無心した「仰天の相手」

Finasee / 2024年5月29日 17時0分

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Finasee(フィナシー)

愛実は壁にかかる時計を確認した。17歳になる娘の優海は予備校に通っているからいなかった。切り出すなら、このタイミングしかないと思った。

「実はご近所さんがね、お義母(かあ)さんを見かけたらしいの」

真剣な声音で言ったつもりだったが、夫の武敏はハンバーグを頰張りながら開いた夕刊を眺めていた。

「ふうん、どこで?」

「それがパチンコ屋なんだって」

「パチンコぉ?」

武敏はすっとんきょうな声を出して顔を上げた。

「そうなの。何回も見たから、見間違いじゃないって」

「母さんが、パチンコ……。想像できないけどなぁ」

武敏は腕組みをして、難しい顔をしている。

義両親は愛実たちが住んでいるマンションから徒歩で行ける戸建てで暮らしている。近いこともあり、3カ月前に義父が病気で息を引き取るまでは、愛実たちも介護を手伝った。

とはいえ、義父の闘病を支えたのは間違いなく義母の幸子で、夫を亡くしたことで意気消沈してしまわないかと気にかけていたときに耳にしたのが、パチンコ屋に通っているといううわさだった。

「どうする? 何か言ったほうがいいかな?」

「いや、ひとまずはいいだろ。好きにさせてやろうよ。母さんは昔からしっかりしてるし。父さんが死んで、その心の隙間を埋める楽しい事が見つかったなら、別に良くないか?」

「……うん。あなたがそう言うなら、それでいいと思うけど…」

夫の言うことも一理ある。愛実はそう思って、忘れることにした。

義母から金の無心が…

しかしその後まもなく、幸子のギャンブルはちょっとした趣味の域を超え始める。

「どうかしたの?」

夜、寝室に入ってきた武敏に愛実は尋ねる。武敏のやけに気落ちしたような顔が気になった。

「母さんだ。なんかお金を貸してくれって言われてさ……」

「……何のお金?」

そう尋ねながら、愛実の脳裏にはパチンコ屋に出入りする幸子の姿が思い浮かんだ。

「教えてくれなかった。とにかく金を貸してくれとしか言わなくてさ」

「それで、どうしたの?」

「取りあえず3万を振り込むことにしたよ」

3万が大金かどうかは人による。しかし愛実はお金を渡したという事実に不安を覚えた。

「大丈夫なの? ちょっとでもお金を渡したら、そこでタガが外れるって聞いたことあるよ」

武敏は大きなため息をついて、ベッドに座った。

「それは知ってるけどさ、俺も断れないじゃん。母さんにはいろいろと世話になったし。父さんの看病を頑張ってるのも見てたからさ」

武敏の気持ちはもちろん分かる。しかし愛実たちにも事情がある。

「来年には優海が大学生だからね。学費のこととかを考えると、そんなポンポンお金貸せるわけじゃないよ?」

「ああ、分かってる。これが最初で最後だからさ」

愛実は武敏の言葉にうなずいた。しかし心のどこかで、これで終わるのだろうかと疑っている自分もいた。

孫にまで金を借りようとした義母

娘の優海は学校帰りにそのまま予備校に行くので、家に帰ってくるのは9時を過ぎてからになる。そのため、家族で食事をすることは少なく、優海1人で夕食を取ることが多い。

その日も愛実は夕食を温めながら、優海の帰りを待っていた。

玄関が開き、リビングに入ってきた優海に声をかける。

「おかえり」

「う、うん、ただいま」

優海の表情が浮かないことに愛実はすぐに気付く。

「何、どうかしたの?」

「……帰りにね、駅前でお婆(ばあ)ちゃんとばったり会ったの」

その瞬間、一気に体温が冷めていくような感覚に陥る。

「え……、何かあったの?」

「そしたらね、お婆(ばあ)ちゃんからお金を貸してほしいって言われて。でも私、そのときお金を持ってなかったから、断ったんだけど……」

断った途端、幸子は冷たく返事をして、どこかに行ってしまったらしい。

愛実は優海の困惑した顔を見ながら、沸々と湧き上がってくる怒りを感じていた。

孫からお金を借りようとするなんて。

風呂から上がってきた武敏に報告すると、さすがに度が過ぎると思ったのか、週末に幸子を呼び出すことに二つ返事でうなずいてくれた。

たった2カ月で変わり果ててしまった義母

話し合い当日、まず驚いたのは幸子の見た目だった。愛実が幸子と最後に会ったのは義父の四十九日の法要だったから、まだ2カ月程度しかたっていない。

幸子はお金が借りられると勘違いしてか浮かれた様子で家にやってきた。

愛実はリビングに通し、そこで優海のことを聞いた。瞬時にお金を貸してくれるわけではないと幸子は悟り、冷めたような目で愛実たちを見た。

その様子に愛実も武敏も困惑する。目の前にいるのは、まるで見た目だけが幸子にそっくりな別人のように思えた。

それでも武敏は思いを伝える。

「母さん、どうしてパチンコなんてやってるんだよ? 俺が何も知らないと思っているのか?」

「……パチンコをして何が悪いのよ? あれは法律違反だったっけ? だったら、営業している店が悪いじゃない」

「そういうことじゃない。別にたしなむ程度にやるのはいいんだ。でも母さんは違うだろ。俺に金を無心して、この間は優海から金を借りようとしたらしいじゃないか」

武敏は深いため息をつく。

「しっかりしてくれよ。もういい年して、ギャンブルにはまるなんて恥ずかしいと思わないのか?」

その瞬間、幸子の目がつり上がった。

「何よ⁉ 私はずーっとしっかりしてたわよ! 夫の介護をずっと一人でしていたのよ! あんたたちは家がこんなに近いのに全然うちに寄りつかなくて、私がずっと一人で頑張っていたんだからね!」

そこから幸子は風船が破裂したように武敏たちに対して不満をぶちまけた。

愛実たちは義父の介護を幸子に任せていた。やったとしても週1ペースで実家に行き、少し顔を出す程度。2人は幸子なら1人で大丈夫だと思っていたが、そんなことはなかった。

幸子の不満に愛実は言い返せなかった。

「それなのにちょっと私が趣味を見つけて楽しんでたら、それも止めるの⁉ じゃあ私は何を楽しみに生きてたら良いの⁉ もう私は用済みってことね⁉ 父さんをみとったら、私みたいな老婆は死ねって言いたいんでしょ⁉」

「いや、ちが」

「そもそもあんたたちは共働きでしょ! お金なんていくらでもあるんだから、ちょっとくらい貸してくれてもいいんじゃないの⁉」

そこから幸子のけんまくに愛実たちは完全に気おされてしまった。2人がかりでなだめるまで幸子は怒りを機関銃のように放ち続けていた。

最終的には武敏は財布にあった2万円を渡して帰ってもらったのだが、それからというもの味を占めた幸子は毎週のようにお金を無心するようになった。

ついに警察の世話に

幸子が武敏たちにお金を無心するようになって半年がたった。

当然、愛実はこのままでいいとは思っていない。この手の人間は一度貸すと、心のブレーキが緩くなっていくとテレビで見たことがあった。実際にここ最近、幸子が借りようとしてくる額が増えてきている。

義父の介護から解放され、新たな生きがいが見つかったのなら、それを悪く言うことはできない。しかしこのままだと、ギャンブル中毒になるのではないかと危惧していた。

その日も夫婦での夕食を取っていた。優海は塾に行っている。

当然、話す内容は幸子のこと。お互いにこのままでいいと思ってないのだが、解決策が見いだせずにいた。

また前のように怒りをぶちまけられたら、ひとたまりもない。

そんなとき、夫の携帯が鳴る。

画面を見て、武敏はため息をついた。

「お義母(かあ)さん?」

「……ああ」

暗い顔で武敏は携帯を耳に当てた。しかしすぐに驚きで目が見開かれる。

何を言ってるのか分からないが、とにかく武敏は困惑と驚きの間の感情で何か話を聞いているようだった。

「何、お義母(かあ)さんじゃないの?」

「……警察から」

「えっ⁉」

「母さん、万引したんだって」

その瞬間、愛実は自分の口からどんな声が出たのか分からなかった。

●義母の身には何が起こっているのだろうか? 後編義実家が汚部屋に…パチンコ依存症で孫にまで金を借りようとする義母を更生させた「思わぬ提案」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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