婚活はもう卒業した…新NISAで老後の資産形成にラストスパートをかける女性の生活が一変した「突然の出来事」
Finasee / 2024年5月28日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
広告代理店でバリバリ働いている吉田智子(45歳)は、独身のまま老後を迎える準備を始めていた。ただ、「あいまいなこと」が嫌いな智子にとって、購入や解約時にあらかじめ価格が確定していない投資信託の売買は、何かスッキリしないものだった。特に海外資産に投資する投資信託の場合、注文時と約定までのタイムラグが気になった。まして、為替相場の変動が大きくなっている時、1日、2日のずれが大きな為替差損につながることもあり……。
●前編:投資信託は「すし屋で時価で注文」するようなもの? 独身女性が新NISAに感じる「モヤモヤの正体」
婚活は卒業したはずの自分に訪れた転機
その日、谷川雄太(36歳)は歓喜で爆発していた。吉田智子(45歳)のチームの切り込み隊長として多くの案件でリーダーを務めていたが、その日の案件は特別だった。契約金額の大きさもそうだったが、これまで取引実績のない会社であったし、さらに、業界で最大手だった。競合していたのは、広告業界大手のD社とT社。その最終プレゼンテーションで勝って、契約を獲得することができたのだった。チームで行った祝勝会が終わった後も、谷川は智子を捕まえて、「今日はとことん付き合ってください。昨夜の吉田さんの修正が決め手でした。ホント、何て素晴らしい上司、なんと頼りになるリーダー! 僕は、ずっと吉田さんについていきますから」と言って、智子を抱きかかえるようにして行きつけのスナックに引きずっていった。
谷川が智子を連れて行ったのは、谷川が常連にしているスナックだった。打ち上げの後で智子も何度か来たことがある店だ。ただ、いつもは吉本とか亀田といった谷川とつるんでいるメンバーが一緒だったが、この日、吉本らは何度も続いた乾杯で酔いつぶれてしまい、その店にたどり着いたのは2人きりだった。智子は、席に落ち着くと「谷川君と2人で飲むのは初めてだったかな」とぼんやりと思った。
谷川は、智子と向かい合って座ると、ふうっと息をついて落ち着きを取り戻した後で、「吉田さん、こんなことを後輩の僕が言い出すのは身の程知らずなのですが、僕と結婚してください」と切り出した。智子は驚いて、「は?」と言ったきり、言葉が継げなかった。「僕は、吉田さんのチームに入って5年くらいですが、いつも吉田さんのサポートに助けられました。今回の件も、吉田さんのサポートがなければ絶対に獲得できなかった。今の僕があるのは、吉田さんのおかげなんです。吉田さんと一緒なら、きっと何もかもうまくいく。だから、僕は吉田さんと人生のパートナーとしてずっと一緒にいたいんです」と谷川は、自分の思いをぶつけるように言った。
一緒ならば何もかもうまくいく智子は、谷川の言葉を聞いていると少し冷静になれた。「谷川君の気持ちはうれしいけど。私はこれまで、谷川君のことを恋愛の対象としてみたことないのよ。私の方が10歳は年上だし、こんなおばあちゃんを嫁だとかいって紹介したら谷川君のご両親もびっくりするでしょう。それに、私はもう45だよ。子どもを産めない年齢になったんだ。だから、結婚とか家族をつくるとか、私は卒業したつもりでいるの」と淡々と語り聞かせた。その智子の言葉を聞くと谷川は、「これから、僕をそういう目でみてもらえませんか。すぐに返事をほしいというのではないんです。まずは、結婚を前提としてお付き合いをしていただけませんか? 両親のことは大丈夫です。たいていは、僕の意思を尊重してくれるので。それから、子どものことは、授かりものですから。芸能人で50歳近くになって妊娠したという女性もいるじゃないですか。いえ、決して妊活をしようということではないんです。自然に任せて、できたらいいなというか。あの、吉田さんは子どもは好きですか?」。「いや、まあ。いればかわいいと思うけど。けど、あなた本気なの?」。「はい」と笑った谷川の顔が、少年のようで、智子はどぎまぎしてしまった。
そんなことがあって、週末は智子と谷川は一緒に過ごすことが多くなっていった。いつまでも周りに内緒というわけにはいかない。もし、結婚ということになると、夫婦で同じチームにいるということもできないだろう。智子は営業チームを辞して制作チームに異動することを願い出ようと考えていた。サブリーダーの吉本は、もう十分にリーダーを務めることができるし、制作チームを引き受けてほしいという話は以前からあった。智子がそんなことを考え始めたのは、付き合ってみると、谷川との相性がいいことを実感したためだ。10歳の年齢差が気にならなくなってきた。谷川が言っていた「一緒なら何もかもうまくいく」というのは、本当にそうなのかもしれないと思った。
1人ではできなくても、2人なら…谷川と付き合いだして日常が充実してきた智子だったが、資産運用については依然としてスッキリしない状態が続いていた。先日注文した投資信託の売却価格が想定していた価格よりも少し安い値段だったことに、何か納得のいかない思いがあった。「やっぱり、私は投資信託が向かないのかもしれない」と思わず言葉に出てしまったのを、隣にいた谷川に聞かれてしまった。そこで、事情を話すと、谷川は「ETF」を買えば良いとこともなげに言った。「ETF」は上場している投資信託で株式のように時価で購入できるという。NISAの投資対象にもなっているという。「値段を決めて注文もできるから、智子さんが思うように売買できてスッキリするんじゃないかな。まだ、一般の投資信託と比べると商品数が少ないけど、少しずつ増えているし、新しくアクティブ運用の投資信託も上場され始めたから、これから面白くなると思う」と、このところ2人でいると「智子さん」と呼ぶようになっていた谷川が説明してくれた。
智子は、「ETF」について知らなかった。谷川は金融のことに詳しかった。谷川と一緒にいると、お互いに不足する知識や経験を補い合えることが少なくなかった。谷川の判断を信頼できると思えるようになると、それぞれが得意な分野では主導権を持って判断することが当たり前になってきた。その結果、これまでの1人でやり繰りしていた世界が急に広くなったように思えた。1人ではできなかったことが、2人ならできる。それは、智子にとってうれしい発見だった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
風間 浩/ライター/記者
かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。
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