DC加入者の金融リテラシーを高めるための効果的な継続教育とは?
Finasee / 2024年5月29日 11時0分
Finasee(フィナシー)
企業型確定拠出年金(DC)の継続教育が努力義務になったのは2018年5月1日です。今年で丸6年が経過しました。徐々に継続教育が定着しつつありますが、その効果や必要性について、数値化しにくいのが課題といえます。
金融広報中央委員会の「金融リテラシークイズ」金融リテラシーの一部を手軽に確認できる「金融リテラシークイズ」をご存じでしょうか? 次のような5問で構成されています。
問1 家計の行動に関する次の記述のうち、適切でないものはどれでしょうか。
①家計簿などで、収支を管理する
②本当に必要か、収入はあるかなどを考えたうえで、支出をするかどうかを判断する
③収入のうち、一定額を天引きにするなどの方法により、貯蓄を行う
④支払いを遅らせるため、クレジットカードの分割払いを多用する
⑤わからない
問2 一般に「人生の3大費用」といえば、何を指すでしょうか。
①一生涯の生活費、子の教育費、医療費
②子の教育費、住宅購入費、老後の生活費
③住宅購入費、医療費、親の介護費
④わからない
問3 金利が上がっていくときに、資金の運用(預金等)、借入れについて適切な対応はどれでしょうか。
①運用は固定金利、借入れは固定金利にする
②運用は固定金利、借入れは変動金利にする
③運用は変動金利、借入れは固定金利にする
④運用は変動金利、借入れは変動金利にする
⑤わからない
問4 10万円の借入れがあり、借入金利は複利で年率20%です。返済をしないと、この金利では、何年で残高は倍になるでしょうか。(選択肢省略)
問5 金融商品の契約についてトラブルが発生した際に利用する相談窓口や制度として、適切でないものはどれでしょうか。(選択肢省略)
皆さんは、どれを選びますか?
選択肢や正答については、「知るぽると」(金融広報中央委員会のWEBページ)に掲載されています。https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/literacy_quiz/
正答率が最も低かったのは問4の複利に関するもので、40.8%でした。複利については、金融リテラシーの国際比較をみても、日本のスコアは低いことがわかっています。低金利が長く続いた影響があるのかもしれません。
横比較が簡単に実施できる上記の「金融リテラシークイズ」をDC投資教育で活用してみてはいかがでしょうか。
・クイズ形式は講義形式よりも興味をひきやすい
・各設問は4個あるいは5個の選択肢から選ぶので、実施が簡単
・横比較ができるので、効果を計れる
興味・関心をひく「つかみ」になるほか、実施の必要性もしくは効果を計るのにも使えます。一問20点で採点した平均点が年代別、男女別、都道府県別でも「知るぽると」に公表されており、平均点よりも低ければ、継続教育の継続的な実施の必要性が示されます。
逆に平均点よりも高ければ、DCを通じた投資教育が金融リテラシーを高めている、という証左にもなります。
なお、全国平均は50.6点となっています。
企業型DCの利用者は金融リテラシーが高め企業型DC投資教育の効果は、次のアンケートでも見られました。野村資産形成研究センターが実施した「ファイナンシャル・ウェルネス(お金の健康度)アンケート」※によると、企業型DCの導入企業では、従業員の「金融リテラシー」「意欲」ともに高められていることが示唆されています。
※従業員規模1,000人以上の上場企業の従業員を対象にしたアンケート。調査対象は10,848人。2022年実施。
このアンケートでは、金融リテラシーについて、下記の5つの質問で計っています。
問1 元金100万円を年率2%で銀行に預金しました。2年後、元利合計でいくらでしょうか。税金は考えないものとします。(選択肢は4つ)
問2 高いインフレーションの時には、生活に使うものやサービスの値段全般が上昇する。(選択肢は3つ)
問3 世の中には、ローリスクであっても、高い利回りの運用方法が存在する。(選択肢は3つ)
問4 金利が上がっていくときに、資金の運用は固定金利、借入は変動金利にするとよい。(選択肢は3つ)
問5 ドルコスト平均法の意味を知っている。(選択肢は2つ)
回答者全体(10,848人)の傾向として、問2の正解率は75%と高い一方、問3・問5の正答率は44%でした。どちらかというと「運用」に関する問題の正答率が低い傾向にあるようです。一方、複利について聞いている問1は55%が正解しており、前述の「金融リテラシークイズ」とは、回答者の属性が異なるようです。
企業型DCの利用者(54%:年間の拠出額を把握している人数)は全問正解が19%で全体の15%よりも高く、全問不正解は7%と全体の11%よりも低くなっています。
行動に結びつけるためのヒント次に「意欲」についてみてみます。
会社で提供している福利厚生制度全般に関する説明会や研修の参加有無では、DC利用者の25%が「資産形成に関するセミナー」に参加し、28%が「ライフプランセミナー」に参加しています。DC非利用者がそれぞれ11%、16%なので、10%以上の開きがあります。
「WEBシミュレーションツール」や「ライフプランに関する個別相談会」の過去の利用率については、DC利用者と非利用者の間には、それほどの差がありません。
しかし、今後の利用意欲については、企業型DCの利用者は非利用者よりも10%ほど高くなっています。企業型DC利用者は、今後、「WEBシミュレーションツール」を24%、「ライフプランに関する個別相談会」を19%、「活用意欲がある」と回答しています。
このアンケート結果から、企業型DCの継続教育メニューとして、次のことが示唆されます。
・WEBシミュレーションツールの活用に重点を置く
・シミュレーションのためにあらかじめ家計の棚卸しを促す
・個々人に寄り添った情報提供
シミュレーションを活用することは、資産形成を「自分のこと」と認識するきっかけになります。
ライフプランに関するシミュレーションは将来の資産形成を見直すきっかけになりますし、運用シミュレーションは、企業型DC加入者がアクセスするWEBに掲載されていることが多いため、そのまま運用見直しにつなげることもできます。
さらに、企業の福利厚生全体を比較し、見渡せるようにすることも重要です。同アンケートで聞いている「福利厚生制度に関するサポートへの不満」として、「どんな制度があるのか分かりにくい・把握しづらい」が45%を占めていることへの対応にもなりそうです。
OECDや英米等の諸外国では、金融教育の目的として「行動」に重きを置いています。知識の習得にとどまらず、家計管理や生活設計の習慣化という「行動の改善」と適切な金融商品の選択が重視される傾向にあります。
DC継続教育のアンケートでも「よくわかった」「今後、商品変更に取り組みたい」という回答があるものの、その後のデータを検証すると「行動」には結びついていないことが多くあります。
金融広報中央委員会の担っていた金融教育の機能は、今年4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC:ジェイフレック)に移管され、J-FLECは8月から本格稼働の予定です。
金融教育や金融リテラシーに注目が集まることが想定されます。企業型DCを通じた投資教育の効果や必要性がますます重要になるともいえるでしょう。
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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