特別インタビュー 中島淳一・前金融庁長官【後編】
販社は顧客本位を徹底し、アセマネは世界に挑め
Finasee / 2024年6月26日 16時0分
Finasee(フィナシー)
―― 中島体制の当局は、高リスク性商品の販売を徹底的に取り締まりました。 ひと昔前の当局であれば一過性の措置で終わらせることもあったかもしれません。 根気強く対処してこられた理由は。
なぜ日本で「貯蓄から投資へ」が進まなかったのかを分析していくと、やはり商品の売り方に問題があることに行き着きます。仕組み債を求めているわけではない人に高リスクの仕組み債を勧誘して売りつけたあげく、株価が下がってしまえばノックイン水準を割って顧客に大損失をもたらすような営業を許容するわけにはいきません。
よく「デリバティブ商品はヘッジになる」という人がいますが、それはあくまでも短期の話でしょう。オプション料や手数料を稼ぎたいという動機にすぎません。本当にヘッジしたいのであれば、長期・積立・分散を推奨すればいいはずです。
金融庁の「金融サービス利用者相談室」には日々150 ~ 200件の苦情や訴えが寄せられます。私が長官であった間に、相談室の所管を総合政策課から、モニタリングを担うリスク分析総括課に移し、具体的な苦情をリアルタイムで行政に反映できるようにしました。国民が安心して投資できる環境を整えることがわれわれの使命であるはずです。
金融機関との面談の場で、あえて私から「いくつかの販売会社は仕組み債の販売をやめました。おたくは販売を続けるのですか? それは経営トップの判断ですか?」と聞くと軒並みやめていく。単なる横並び意識によるものなのです。金融機関の経営者には顧客のためにならない商品に対して「売らない覚悟」を持っていただきたいと思います。
――国内運用会社に期待することは。日本の運用会社は伸びしろが大きいのに、世界で戦えるような運用会社がこれまで育ってこなかったのはなぜか。まず、日本のアセマネ会社のほとんどが証券会社やメガバンクのグループ傘下にある点が挙げられます。各グループの主流は証券会社や銀行であり、運用会社は傍流に見られがちです。報酬の水準を比べてみても、ホールディングスや銀行のトップは何億円で、運用会社のトップはその半分くらいであると言われます。これでは運用会社で能力のある人材が海外に流出してしまいます。
これまでの系列構造を見直し、グループ内で運用会社の地位を向上させる取り組みに着手する金融機関が出てきてほしいと思います。 日本も、今の勢力図や系列構造にこだわらずにダイナミックな再編が起きてもいいはずです。とはいえ、役人ができるのは個社にエールを送り、環境を整えることまでです。それ以上の具体的なシナリオはそれぞれの経営陣に自発的に考えていただくことでしょう。
―― 最終的には「顧客に選ばれる存在」になる必要があるとすれば、投資家が商品を選別できるように情報開示を充実させなければなりません。よく指摘されるように、実際の運用成績の見える化が欠かせません。例えば、企業年金の世界でいうと、中小の企業年金に顕著なのですが、知識も経験もないまま運用担当者に就く例が目立ちます。ポートフォリオの見直しも基本的には過去の踏襲で、いざ見直そうものなら営業上のしがらみで待ったをかけられるというのが日本の慣行です。
これも企業年金の運用成果が見えることによって、運用担当者が本気になってポートフォリオのあり方を考えるようになるでしょう。アセマネ側も、ファンドの運用担当者の名前が公表されれば責任感が伴うでしょうし、担当者が成果を挙げれば自らの手柄が広く世に知られることとなります。名前を明らかにして運用するからには、単なる他社の模倣や、販売会社の意向に従っただけのファンドも生まれにくくなるでしょう。
――中島さんはなぜそんなにも金融機関の実情に詳しいのでしょうか。当世の官僚は民間の実態を細かく把握しているのが当たり前なのですか。霞が関の長官室で金融機関の幹部と面会するだけでは、なかなか現場のリアルな実情はつかめません。情報収集という意味では、業界団体の大会やシンポジウムの後に開かれる立食パーティーが役立ちます。やはり私に声を掛けてくださる方は、何か意見を言いたい人なんですよ。私は必ず最後までいるようにして、いろいろな方から話を聞くようにしています。私はもう役人ではありませんので、これまで以上に金融業界の方と率直に意見交換をできればと思っています。
finasee Pro 編集部
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