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なぜ、日本で「寄付」は流行らない? 寄付が文化として根付くために必要な“受け皿”とは

Finasee / 2024年5月24日 17時0分

なぜ、日本で「寄付」は流行らない?  寄付が文化として根付くために必要な“受け皿”とは

Finasee(フィナシー)

資金提供だけにとどまらない支援活動に取り組み始めた経緯

――まずは、カーライル・ジャパンの寄付活動についてお聞かせください。いつ頃から、どのような形で寄付を行っていらっしゃるのでしょうか。

カーライル・ジャパンでは、10年以上前から社会課題の解決に向けた寄付を行っています。当社で働くメンバーは社会貢献への意識が高く、個人レベルでNPO(特定非営利活動法人)、NGO(非政府組織)などの活動をしている者もいます。

当初はそうしたメンバーからの紹介や、外部から依頼をいただいた案件を精査して寄付先を決めていました。しかし、7~8年前に当社の寄付のあり方、要は、カーライル・ジャパンとしての寄付政策や、当社のバイアウト投資のノウハウを活かして社会貢献につなげられる寄付先はどこかを社内で議論し、長期的に支援していく寄付先を3団体に絞り込みました。経済的な困難や虐待、いじめ、発達障害など生きづらさを抱える子どもたちを支援するNPOのLearning for All(LFA)も、その1つです。

社内議論の際、メンバーの関心が特に高かったのが教育や貧困問題、さらにベンチャー的な活動を行う非営利の民間団体でした。LFA代表理事の李炯植(り ひょんしぎ)さんから最初にお話をうかがった時、世界で五指に数えられる経済大国の日本で、7人に1人の子どもが貧困に苦しんでいる現状に大きな衝撃を受けました。

そこで、一時的な生活支援にとどまらず、子どもたちが将来に希望を持ちながら成長していける環境作りを長期に渡ってサポートしていこうという話になったのです。

カーライル・ジャパン 日本共同代表 山田 和広氏

――会社として、あるいは個々のメンバーの方がさまざまな寄付をされてきた中で、さらに一歩踏み込んで長期の支援先を3つの団体に絞り込まれたということですね。御社の寄付政策としては、どんなことをお考えなのでしょうか。

重要なのは、単なる資金提供にとどまらず、当社が築いてきた知見を支援活動に活かして社会貢献につなげていくことです。

LFAの取り組みを例に挙げれば、彼らは企業や個人からの寄付をベースに地域での支援を行っているわけですが、寄付ばかりに依存していると運営が不安定になります。さらに、今後の展開や地域の企業とどう連携していくかなど、組織運営上の課題も多数抱えています。そこで年に4~5回は当社のスタッフが加わり、課題解決に向けた議論を行うようにしています。

当社には多様な企業とのネットワークがあり、銀行や証券会社の支店、大手メーカーの工場などを紹介し、LFAの活動を通して地域社会とのつながりを創出していくことができます。また、資金提供に限らず、応援人員を出すとか、食料を寄付してその保管場所を提供するといった支援の方法もあります。そうした包括的な支援を継続していくことに意義があると考えています。

米国と日本で異なる寄付文化の定着度。差はどのようにして生まれているのか

――グローバルに活動を行うカーライル・グループとしては、どのような寄付の取り組みをなさっているのでしょうか。

会社としての寄付は米国ワシントンD.C.の本社を中心に取りまとめていますが、エリアによってニーズやサポートの方法も異なるため、基本的には各拠点がバジェットを組んで支援活動を行う形になっています。米国本社の寄付額は日本とはケタが違いますし、共同設立者のデービッド・ルーベンスタインをはじめ、個人での寄付も盛んですね。

米国にはマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏や投資家のウォーレン・バフェット氏が創設した「ギビング・プレッジ(The Giving Pledge)」というビリオネアに向けた寄付啓発活動があり、そこでは参加者が生前または死後に財産の50%以上を寄付することを推奨しています。テスラCEOのイーロン・マスク氏、メタ共同創業者のマーク・ザッカーバーグ氏らもこの活動の賛同者です。米国では富裕層に限らず、寄付が可能な立場であれば積極的に寄付をしようという寄付カルチャーがあります。

それは個人だけでなく会社にも浸透していて、米国の企業には従業員の寄付を促進する「マッチングギフト制度(Matching Gift Program)」を導入しているところが多いですね。従業員が寄付をすると、それと同額か一定分を上乗せした額を企業も寄付をするという制度です。当社では従業員1人につき年間2000ドルまでが制度の対象になっています。

――長年実績を重ねられてきた中で、寄付活動に手応えを感じられている部分はありますか。

手応えよりもむしろ力不足を感じています。世の中にはサポートを必要とされている方がまだまだたくさんいらっしゃいます。当社の寄付や支援だけではそうしたニーズに到底追い着きません。国の施策に加えて、企業や個人が手軽にサポートできるような仕組みを作っていく必要があると感じています。

――行政が後ろ盾となり、漠然と寄付に興味を持っている人々が一歩を踏み出せる仕組みが必要であるとお考えになっているわけですね。

有名な寄付制度としては、総務省の「ふるさと納税」があります。返礼品というベネフィットをきっかけに寄付を始めること自体、否定するものではありませんが、一方で、今、日本がどのような社会課題を抱え、それで困っている人がどれくらいいて、どれくらいのお金が必要で、目標額を集めることでその人たちがどう助かるのかといった告知はきちんとすべきでしょう。

日本でも年々寄付のポテンシャルが高まっていますが、そうした潜在寄付者に共通するのが「どこに寄付をしたら、自分のお金が有効に使われるのか」という素朴な疑問です。しっかりした寄付の受け皿があれば、本当に必要なところに必要な資金が回るサステナブルな仕組みが醸成されていくのではないかと思います。

その好例が、国立科学博物館が2023年に実施したクラウドファンディングです。同館は動植物や化石などの標本を国内外から500万点以上採集していますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入場料収入の減少や光熱費高騰による支出増などで、財政が危機的状況に陥り、1億円を目標に寄付を募ったのです。熱心な利用者などがこれに反応し、3カ月ほどで目標額を大きく上回る9億円超が集まりました。

同館の取り組みはメディアで大きく取り上げられ、世の中の関心を集めました。メディアは非常に重要ですが、クラウドファンディングのようなスポット的なアプローチに限らず、例えば、多くの情報が掲載されていて、自分の興味のあるテーマを選んで手軽に寄付ができるチャネルがあってもいいのではないかと思いますね。

事業活動と社会貢献の共通項は「持続的かどうか」の観点

――近年は社会や環境へのインパクトを重視する「インパクト投資」が注目されつつあります。御社は本業のバイアウト投資では、経済的なリターンに加えてポジティブインパクトも追求されていることと推察しますが、そうした活動と寄付との両立、あるいは棲み分けをどのように考えていますか。

サステナブルなエコシステムを構築していくという観点では、当社の事業活動も寄付も変わりはありません。当社が投資先企業をサポートする際は、単に雇用を創出するだけでなく、企業活動を通して地域経済の発展にどれくらい貢献できるのかを意識しながら経営に関わってきました。

それは寄付も同様で、だからこそ一度きりに終わらず、いかに循環的、持続的なものにしていくかを常に考えています。

日系金融機関とサポートの形が異なる背景とは

――サステナブルなエコシステムを築いていくには、さまざまな業種の企業や地域社会との結びつきの深い金融機関の果たすべき役割も大きいと思います。日本の金融機関がもっと寄付に積極的に取り組む意義は大きいのではないでしょうか。

そうですね。地域経済の発展という意味では地方銀行など地域金融機関の取り組みは重要です。地銀は地域の何百、何千という会社をサポートする、ある種のインフラ的な役割を果たしています。

一方で、われわれは個別の企業に対してさまざまな形で支援するビジネスモデルで、その企業を通じて地域社会に貢献していく形になります。地域経済全体を俯瞰する地銀とは本質的に役割が違うのです。従って、当社では次代の地域のリーディングカンパニーをいろいろな地域に育てていくことで、地域経済のお役に立ちたいと考えています。その上で、各地域の地銀とうまく連携できれば、面白い事例が生まれるのではないかという期待があります。

――御社が投資先を通じて先端的な取り組みを行い、それが成功体験として地域金融機関の協力も得ながら地域に広く根付いていくといいですね。

そうですね。もっとも、金融機関の皆さんが寄付などを通じた社会貢献活動に決して消極的というわけではないと思います。われわれが支援している団体が各地域でさまざまな活動を行う際に、金融機関に寄付の依頼をすると、各エリアの支店レベルでは非常に前向きな反応であるものの、本部に予算の承認を得る段階で決済が下りずに頓挫してしまうケースも少なくないと聞きます。

そうした中で今後、私が注目しているのは、次代を担う若い世代の方々の発言や行動です。若い世代は寄付や社会貢献といったキーワードに大変敏感です。自分たちの業務が直接的、あるいは間接的に社会貢献や社会課題の解決に寄与しているという実感を得ることは、彼らにとって大いに意義があるのです。

金融機関はもとより、さまざまな業種の企業が積極的にサステナブルな経営に取り組むことが彼らのエンゲージメントを向上させ、将来に渡って長く活躍してくれることにつながっていきます。

――本日はどうも、ありがとうございました。

Finasee編集部

「インベストメント・チェーンの高度化を促し、Financial Well-Beingの実現に貢献」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAやiDeCo、企業型DCといった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。

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