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ゆうちょ銀行の運用は大丈夫? 農中金は巨額損失 金利上昇でも株価が上がらない理由

Finasee / 2024年5月30日 17時0分

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Finasee(フィナシー)

2024年5月22日、日本の10年国債利回りが一時1%まで上昇しました。1%台はおよそ11年ぶりの水準です。

金利が上がると一般に銀行株が買われやすくなります。主要な銘柄の株価は直近5年で2~3倍に上昇しました。

しかし、ゆうちょ銀行は株価の出遅れが顕著です。上昇こそしていますが、同期間の株価騰落率は30%にとどまります。

 

出所:Investing.comより著者作成

なぜゆうちょ銀行の株式はライバルと比較し上昇が鈍いのでしょうか。ゆうちょ銀行の事業内容から探ってみましょう。また農林中央金庫の損失が話題ですが、ゆうちょ銀行の状況についても紹介します。

日本郵政グループの稼ぎ頭 預貯金は国内トップクラス

ゆうちょ銀行は日本郵政グループに属する銀行です。2015年11月にグループ3社(日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行)で同時に上場しました。

日本郵政はゆうちょ銀行の株式を6割以上保有する筆頭株主です(2024年3月)。ゆうちょ銀行は日本郵政の利益の大半を稼いでおり、グループの中核的な存在となっています。

【日本郵政のセグメント利益(2024年3月期)】
・郵便・物流:▲686億円
・郵便局窓口:730億円
・国際物流:96億円
・銀行:4960億円
・生命保険:1692億円
※国際物流はEBIT、銀行と生命保険は経常利益、その他は営業利益
※(参考)郵政3社の純利益:日本郵政2687億円、かんぽ生命871億円、ゆうちょ銀行3561億円

出所:各社の決算短信

ゆうちょ銀行は旧・日本郵政公社の郵便貯金業務を母体に持ちます。口座数1億2000万口座、総店舗数2万3642店と、盤石な顧客基盤と店舗ネットワークが強みです(2023年3月)。預貯金額は、国内の主要行と比較しても引けを取りません。

【主な銀行株の預貯金額(2024年3月期)】
・三菱UFJ銀行:224兆0350億円
・ゆうちょ銀行:192兆8007億円
・三井住友FG:164兆8394億円
・みずほFG:159兆8547億円
・りそなHD:63兆5603億円
※貸借対照表ベース(連結)

出所:各社の決算短信

貸し出しは預貯金の4% ゆうちょ銀行はなにで稼ぐ?

冒頭の通り、ゆうちょ銀行の株価パフォーマンスは同業他社に見劣りします。株価が出遅れる理由は、融資の比重が小さい点にあるとみられます。

金利上昇で銀行株が買われやすいのは、利ザヤの拡大で収益改善の思惑が働くためです。利ザヤとは銀行の調達金利と貸出金利の差を指します。

ゆうちょ銀行の貸し出しは小規模です。国内トップクラスの預貯金を持つゆうちょ銀行ですが、貸出金が預貯金に占める割合は4%程度しかありません。これは他の主要行を大きく下回る水準です。

【貸出金の対預貯金比率(2024年3月期)】
・ゆうちょ銀行:3.6%
・三菱UFJ FG:52.1%
・三井住友FG:64.9%
・みずほFG:58.0%
・りそなHD:67.3%
※貸借対照表ベース(連結)

出所:各社の決算短信

貸し出しが少ないゆうちょ銀行は、利上昇による利ザヤ改善の恩恵は受けにくいと考えられます。これが株価が出遅れる要因の一つとみられます。

では、ゆうちょ銀行はどのように稼いでいるのでしょうか。答えは資産運用です。ゆうちょ銀行は収益のほとんどを運用から得ています。

ゆうちょ銀行は、売上高に相当する経常収益の過半を資金運用収益で稼いでいます。そして資金運用収益のほとんどは、有価証券から得られる利息や配当金で占められています。資金有用収益には貸出金利息も含まれますが、その割合は1%にも満たない状況です。

【ゆうちょ銀行の経常収益の内訳(2024年3月期)】
・資金運用収益:1兆3971億円(52.7%)
・役務取引等収益:1816億円(6.8%)
・その他業務収益:48億円(0.2%)
・その他経常収益:1兆0681億円(40.3%)
※()は構成比
※(参考)資金運用収益の内訳:貸出金利息97億円、有価証券利息配当金1兆3441億円

出所:ゆうちょ銀行 決算短信

経常収益の7%を占める役務取引等収益は、ゆうちょ銀行のサービスの手数料などです。為替や決済、ATM、投資信託の関連手数料などからなります。利益ベースでは為替・決済に関連する手数料が過半を占めます。

【役務取引等の利益の内訳(2024年3月期)】
・為替、決済:892億円(58.9%)
・ATM:373億円(24.6%)
・投資信託:122億円(8.1%)
※()は構成比
※投資信託はゆうちょファンドラップ(投資一任サービス)を含む

出所:ゆうちょ銀行 決算説明資料

農林中金が運用で巨額損失 ゆうちょの状況をチェック

収益のほとんどを運用で稼ぐとなると、心配なのは運用の失敗です。

農林中央金庫は2024年5月22日、今期(2025年3月期)の最終損益が5000億円超の赤字になるとの見通しを発表しました。赤字の主な原因は運用による損失です。

農林中央金庫は資金を外国債券などで運用しています。金利が上昇したことで保有する外国債券の価値が相対的に下がり、価格も下落したとみられます。この処理に伴い今期は大きな赤字となる見通しです。運用の評価損失は2024年3月末で1兆7700億円にまで膨らんでいます。

先述の通り、ゆうちょ銀行も収益の多くを資産運用で得ています。ゆうちょ銀行は約231兆円を運用しており、うち37%を外国債券などへ、19%を国債へ振り向けています(2024年3月)。

もっとも、運用損益はプラスです。農林中央金庫のようにマイナスには陥っていません。評価益は2024年3月末で1224億円を確保しています。

ただし評価益は減少傾向にあります。2021年3月期は約3兆円の黒字でした。評価益は2024年3月期まで4期連続で減少しています。 

出所:ゆうちょ銀行 決算説明資料より著者作成

運用を主に圧迫しているのはヘッジ費用です。

評価損益の内訳を見ると、デリバティブ取引および時価ヘッジ効果額のマイナスが大きくなっています。これは主に為替ヘッジによる損失です。円安が進行したため為替ヘッジにかかる取引は損失となり、全体の運用を圧迫しました。

【ゆうちょ銀行の評価損益の内訳(2024年3月期)】
・外国債券:3兆3930億円
・投資信託:9881億円
・国内株式:7327億円
・国債:▲8815億円
・デリバティブ取引:▲1兆8250億円
・時価ヘッジ効果額:▲2兆2562億円
※投資信託の投資対象は主に外国債券
※投資信託はプライベートエクイティファンドの評価益1兆1,726億円を含む

出所:ゆうちょ銀行 投資家説明会資料

なお、外国債券は大きなプラスになっていますが、これは金利上昇による価格の下落を円安が上回ったためです。円安の恩恵がない国債では評価損失となっています。農林中央金庫と同じく、金利の上昇はゆうちょ銀行の運用も圧迫すると考えられます。

農林中央金庫が赤字転落を見込む今期ですが、ゆうちょ銀行は増益の計画です。マイナス金利の導入以降減らしていた国債ポートフォリオの再構築を続けており、損益計算上の収益は拡大を見込みます。

【ゆうちょ銀行の業績見通し(2025年3月期)】
・経常収益:非開示
・経常利益:5250億円(+5.8%)
・純利益:3650億円(+2.4%)
※2024年3月期時点における同社の予想

出所:ゆうちょ銀行 決算短信

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。

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