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医療や介護の保険料算定に金融所得が反映される…?この議論は何の「不公平感」を正そうとしているのか

Finasee / 2024年5月27日 17時0分

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Finasee(フィナシー)

1月からスタートした新しいNISAは、「貯蓄から投資へ」というお金の流れを本格化させ、岸田内閣が言うところの「資産運用立国」を実現するために、総額1800万円という大幅な非課税枠が設けられました。

本来なら、投資で得た収益に対する課税は、源泉徴収を選んだ場合で20.315%ですから、これが引かれることなく、まるまる利益になる点は、非常に魅力的でした。しかも、元本ベースで1800万円まで利用できますから、自分が保有している金融資産を、出来るだけNISAの対象となるものに振り向ければ、保有している金融資産のかなりの部分を、NISA口座で非課税運用できるはずです。

ところが、それに水を差すような話が、先日のゴールデンウイーク前に発表されました。

「医療・介護保険における金融所得の勘案に関するプロジェクトチーム(PT)」の初会合が開かれ、厚生労働省が検討案を示したのです。

これが発表されると、ネット上で「NISA税だ」、「卑怯だ」といったコメントが上がるようになりました。果たして、その真相はどうなのでしょうか。

そもそもなぜ私たちは“案外、安く”医療を受けられているのか

まず「医療・介護保険における金融所得の勘案」とは、何を意味しているのかについて考えてみましょう。

医療保険は、本人やその家族が、ケガや病気をした時、その治療にかかる医療費を国や保険会社がカバーしてくれる制度です。国や地方自治体によって運営されている医療保険が「公的医療保険」であり、民間の保険会社が運営しているのが「民間医療保険」です。このうち公的医療保険は国民全員に加入義務が課せられていますが、民間医療保険は任意です。

今回、金融所得の勘案で話題になっているのは公的医療保険なので、以下の文書での医療保険はすべて、公的医療保険だと認識していただいて結構です。

私たちがケガや病気をした時、病院に行って診断・治療を受け、終わったら受付窓口で診察料などを払います。

この時の金額は、もちろんケガや病気の状態にもよりますが、案外、安いと思いませんか。

比較対象として米国の事例を目にすることがあるかと思います。たとえばニューヨークの病院では、初診料が4万円とか、救急車で運ばれると15万円、入院室料は1日40万円、歯科治療が1本につき13万円などと言われますが、日本ではそんなにかかりません。それは、公的医療保険制度が今のところ、しっかり機能しているからです。つまり国民全員が公的医療保険への加入を義務づけられ、決して安くない保険料を負担しているからこそ、いざという時に安い医療費で、安心して医療サービスを受けられるのです。

また介護保険は、高齢者の介護を社会全体で支え合うために設けられた制度で、40歳以上は強制加入ですが、加入者が介護サービスを受ける際にかかる費用を、一部負担で済むようにしています。

非常にざっくりとした言い方になりますが、医療保険にしても介護保険にしても、それらの保険料は、加入者の所得に応じて決まります。つまり所得が多いほど、保険料は上がります。

すでに、金融資産から得られた所得を含めての保険料を算定されている人はいる

今回、「医療・介護保険における金融所得の勘案に関するプロジェクトチーム(PT)」の初会合で、厚生労働省が示した検討案で騒ぎになったのは、公的医療保険や介護保険の保険料を計算する際の基準となる所得に、働いて稼いだ給料などの所得だけでなく、保有している金融資産から得られる運用収益(=金融所得)も含めるべきだという意見が浮上してきたからです。

要するに、株式の取引などによって得られた値上がり益や配当金を、医療保険や介護保険の保険料を算定する際の基準となる所得に反映させようという話です。これを額面通りに受け止めると、それこそ冒頭のコメントではありませんが、「せっかくNISAで得た利益にまで課税するつもりか」的な批判を引き起こすことになります。

ただ、ここは少し冷静に考えてみる必要がありそうです。

実は現時点においても、金融資産から得られた所得を含めて医療保険や介護保険の保険料を算定されている人もいます。具体的には、株式投資で得た利益を確定申告している人たちです。対して、特定口座によって株式投資で得た利益を源泉徴収にしている人は、その利益は保険料に反映されていません。つまり同じ株式に投資しているのに、確定申告しているか、していないかによって、保険料に差が生じてくるのです。

当然、確定申告している人たちには、それをする理由があるのですが、医療保険や介護保険の保険料を多く負担しているという事実があり、そこにはどうしても不公平感を拭い去ることができません。その不公平感を正すのが、今回のプロジェクトチームに課せられたミッションになります。

2028年をめどにしてその改正作業が行われる予定ですが、実際に保険料算定にあたって金融所得が勘案されるようになると、特に源泉分離課税を選択して株式などに投資している人たちの医療保険、介護保険の保険料は値上げされる可能性が高まります。

今の高齢者は果たして「経済的弱者」なのか

ただ、少し冷静に考えていただきたいのは、何も手を打たずに今の医療保険や介護保険の財政難を放置しておけば、いずれ国民皆保険制度が崩壊し、国民一人一人が高額の医療費を負担する恐れが高まるということです。

特に75歳以上の人が加入している「後期高齢者医療制度」は、加入者1人あたりの医療費が年間100万円、総額で20兆円にも上っています。そしてその37%を、後期高齢者支援金という名目で、現役世代の保険料から賄っているのが現状です。働いて稼げる現役世代が、経済的弱者である高齢者を支えるのは当然、ということなのでしょうか。

ここで改めて考えたいのは、果たして高齢者は本当に経済的弱者なのか、ということです。

総務省の全国家計構造調査(2019年)で、その点を少し深堀してみましょう。

「世帯主の年齢階級別年間収入、金融資産残高および金融負債残高」の数字から、まず年間収入を見ると、

30歳未満・・・386万7000円(361万5000円)
30歳代・・・575万円(524万8000円)
40歳代・・・667万7000円(582万5000円)
50歳代・・・747万8000円(636万4000円)
60歳代・・・572万2000円(310万7000円)
70歳代・・・449万円(121万1000円)
80歳代・・・369万円(71万2000円)

カッコのなかの数字は、年間収入のうち勤め先から得た収入です。確かに、高齢者になるほど勤め先から得る収入は減りますが、公的年金による補填があるので、30歳未満とほぼ同じ収入が確保できています。

次に金融資産残高を見てみましょう。

30歳未満・・・194万8000円(15万円)
30歳代・・・520万5000円(62万7000円)
40歳代・・・911万2000円(111万1000円)
50歳代・・・1401万3000円(237万2000円)
60歳代・・・1895万9000円(323万4000円)
70歳代・・・1734万2000円(293万円)
80歳代・・・1619万4000円(269万4000円)

カッコのなかの数字は、金融資産のうち有価証券の保有額です。当然のことですが、圧倒的に多くの金融資産を持っているのは高齢者です。

しかも、有価証券の保有額からしても、より多くを持っているのは、資産形成層である40歳代以下ではなく、60歳代以降の資産活用層です。これらの数字を比較すると、少なくとも平均的には、必ずしも高齢者が、イコール経済弱者であるとは言えない姿が浮かんできます。

今回、議論の俎上に乗せられた、「医療・介護保険における金融所得の勘案」で、最も懸念されるのは株式や投資信託などの有価証券投資で得た利益が収入に反映され、医療保険や介護保険の保険料が上がるということでしょう。

その点で言うならば、より多くの金融資産、とりわけ有価証券を保有している層の重税感が強まります。ただ、それは持っている人の負担が重くなるわけで、これから資産を築いていく資産形成層への影響は、それほど強いものではないと考えることもできます。

いずれにしても、2028年をめどに議論を尽くしていく話なので、今後の方向性には関心を持っていきたいところです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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