岡崎良介氏による経済徹底分析 小売銘柄の動向を手掛かりに米国経済の今後を探る
Finasee / 2024年5月30日 7時0分
Finasee(フィナシー)
先週の発展系なのですが、米国の小売統計がフラットだったという話でしょう。無店舗販売がマイナスになりましたが、無店舗に関して言うと、その前の3月が非常に伸びたからその反動だという説もあります。しかし、よく見たら2月もマイナス、1月もマイナスです。
今起きているのは、サンフランシスコ連銀が出したレポートに書いてあったように、余剰貯蓄を使って過剰消費になっているということです。パンデミックのリオープン時に、米国では日本には考えられないような現象が起きました。空前の転職ブームが起き、「この仕事は嫌だ」という風潮が広がりました。転職ブームは「この場所じゃ嫌だ」という意識にも繋がり、多くの人が引っ越しを行いました。その結果、賃金が上がり、家賃が上がって、インフレになっています。さらに、貯金がまだあるからといって消費も旺盛で、景気が良くなっているのです。
株式市場はさまざまな話題を消化していますが、何か見落としていないかと思ったところで、米国の個人消費を深掘りしようと思います。米国に暮らした経験のない我々にはイメージが湧きづらいかもしれません。そこで、イメージを膨らませて、今米国の消費、米国の国民生活で何が起きているのかを考えてみたいと思います。
まず、株式市場が見ている銘柄から見ていきましょう。こちらはウォルマートとコストコのチャートです。この2社は小売業界でベスト5に入るほどの大企業で、非常に順調な業績を維持しています。昨年の年末の株価を100として見ると、2カ月ほどは順調に推移していましたが、米国の金利上昇を受けて一旦両社とも調整しました。ただし、調整幅はせいぜい4、5%程度で、その後再び一段高をしており、直近では約2割上昇しています。この2社の好調ぶりが目立ちます。
一方で、ホームデポ、ターゲット、クローガー、ダラーツリーの4社は苦戦しています。ホームデポはホームセンター、ターゲットは日用品や衣料品を扱う小売店、クローガーは大手スーパーマーケットチェーン、ダラーツリーは100円ショップのような業態です。
この4社は3月後半から失速気味で、特にダラーツリーの株価下落が顕著です。ターゲットに関しては決算内容の悪化や価格戦略の転換などが話題になりました。ダラーツリーでは盗難が大きな問題となり、警備コストの増加などが嫌気されているようです。
ウォルマートとコストコが勝ち組、この4社が負け組と言えるかもしれません。差が生じた要因としては、いかに消費者の離反を防ぐような売り方ができるかという点が挙げられます。生鮮品を扱うなら新鮮さが重要ですし、品質重視の高級路線を志向するのも一つの戦略でしょう。また、いかにオンラインへの対応を進められるかも大きなポイントになります。
ウォルマートやコストコが好調な一方で、ホームデポやターゲット、ダラーツリーが苦戦している背景には、扱っている商品の特性の違いがあるのかもしれません。日用品や食料品が中心であれば、景気変動の影響を比較的受けにくいと言えます。
最後に注目したいのがアマゾンの動向です。アマゾンの株価チャートを見ると、ここ2週間、米国の株式市場が高値を更新する中、なかなかついていけていません。NVIDIAの株価上昇にも乗り遅れた形です。アマゾンと似た動きを示したのが、オンラインショップ銘柄で構成されるETF「IBUY」でした。アマゾンはこのETFに含まれていませんが、ほぼ同じような値動きをしています。
これはつまり、オンラインショッピング全般に何らかの逆風が吹いている可能性を示唆しています。クレジットカードの利用限度額の問題や、過剰消費の終焉が影響しているのかもしれません。コロナ禍での巣ごもり需要で業績が大きく伸びた反動が、未だに続いているとも考えられます。
もし米国の消費が本当に悪化してくるなら、こうしたセクターから兆候が表れるのかもしれません。消費財関連のウォルマートなどがいずれ崩れ始めるなら、単なる一時的な現象ではなく、消費全体の趨勢が変化しつつあるサインと受け止めるべきかもしれません。
株式市場はアマゾンに代表されるオンラインショップの苦戦や、ウォルマートの株価にも陰りが見え始めたことから、消費の停滞をある程度織り込み始めているのではないでしょうか。物価高騰を抑えるには景気減速もやむを得ない面があるので、消費のソフトランディングがインフレ抑制の望ましいシナリオだと言えるかもしれません。
また、ウォルマートなどの消費関連銘柄の動向は、低所得層や中間層の消費動向を映し出していると言えます。彼らの雇用や所得が消費に直結するので、消費の失速は低所得層の失業増加にもつながりかねません。雇用や所得の底割れを防ぐためにも、状況次第では利下げなど金融緩和に転じる可能性があります。特に来年の大統領選挙を控えて、政治的な圧力も高まりそうです。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
マーケット・アナライズ編集部
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