エスカレートする同居義父の仰天言動…嫁いだ先で直面した「距離感がおかしい義家族」
Finasee / 2024年6月21日 17時0分
Finasee(フィナシー)
由美穂は6時に目を覚ます。隣で寝ている夫の修司を起こさないようにゆっくりと布団を出る。まだ少し朝冷えの残る台所に向かい、義両親である藤次と愛子、そして自分たち夫婦、4人分の朝食を手際よく作っていく。
こんな日常にも由美穂はいつの間にか慣れてしまっていた。
由美穂と修司は元々、東京で暮らしていた。それぞれ別の会社で働いていたが、修司が30歳になったときに義両親が経営している工場の後を継ぐためにこの家に引っ越してきた。
もちろん由美穂も仕事を辞めざるを得なかった。今は経理の仕事を手伝いながら、工場経営を手伝っている。
従業員たちの給料計算のほか、製造にあたってのコストなども経理で管理する。元からこういう細かい計算は得意だったし、仕事は嫌いではない。工場自体も、先代から長い付き合いのある取引先も多く、盤石とは言わないまでも安定した収益を上げていた。
生活は順風満帆と言って差し支えはないだろう。しかし、不満がないわけではない。
「由美穂さん、おはよう」
朝食を作っていると、愛子が起きてきた。
「おはようございます。もうすぐ朝ご飯、できますので」
「どうせ昨日の残り物でしょ」
愛子は無表情でそう言うと、お気に入りの座椅子に座りテレビをつけた。楽しげな女子アナウンサーの声が大音量で響く。由美穂は愛子に聞こえないよう、小さくため息を吐いた。
何がそんなに気に入らないのか知らないが、愛子はとにかく由美穂に冷たい。慣れたつもりではいるが、こうも毎日変わらず突っかかられるのは小さくないストレスだった。
明らかに由美穂を女として見ている義父由美穂が温めた肉じゃがを皿によそっていると、次に義父の藤次が起きてきた。
「今日も早いね。いい匂いだ」
藤次はニコニコしながら、由美穂に声をかけてくる。愛子と違い、基本的に朗らかな藤次はいつも気さくに接してくれる。
「おはようございます。もうすぐですので、座っててください」
しかし藤次は動かなかった。
「いやいや、1人で持つのは大変だろう。私も手伝うよ」
藤次は1歩、由美穂との距離を詰めてくる。
大丈夫ですよ、と由美穂は笑顔を崩さずに断ったが、藤次はお構いなしに手を伸ばした。
「こんな小さい手で、4人分の料理なんて持てるわけないだろう。いいからいいから」
藤次の手が、肉じゃがを盛り付けた皿を持つ由美穂の手をなでるかのように、そっと添えられる。由美穂は反射的に身体に力を込める。それでも笑顔だけは辛うじて保ち続けた。
「お義父(とう)さん、私は大丈夫ですから」
由美穂は藤次の手を軽く振り払う。藤次はそうかいと素直に引き下がり、愛子が座ってテレビを見ている居間へと向かっていった。由美穂は何度か深呼吸を繰り返し、握られた手を洗った。用意した料理を食卓に並べ、寝室で寝ている修司を起こしてから、そろった4人で朝食を取る。
朝から最悪の気分だった。
藤次は出会った頃から、由美穂を気遣い、よく声をかけてくれた。しかしその言動や視線が、息子の嫁に向けられるものとは明らかに性質が違っていることに、由美穂は気づいていた。
藤次のそのような言動は、一緒に住むようになってからエスカレートしている。今朝のように体を触ってくるようになったのだ。握られたのが手ならまだましなほうだ。すれ違いざまにお尻を触ってきたこともあるし、由美穂が風呂から上がったときに扉の前で鉢合わせしたこともある。
藤次のいやらしい言動がどんどんひどくなっていくことに由美穂は不安を覚えていた。これなら、愛子のように冷たくしてもらった方がマシだった。
修司に相談するべきなのだろう。けれど父親を尊敬している修司の気持ちを踏みにじってしまうようで、なかなか言い出すことができずにいた。
テレビ画面の真ん中では、ニュースキャスターがしばらく続く長雨を伝えている。
あり得ない発言をする義父についにブチ切れた由美穂は経理の仕事を工場内にある小さな事務所で行っている。工場長である藤次や修司は現場で働き、愛子は工場の仕事には関与していない。
大きな会社のように経理の部署があるわけではないので1人で作業をすることが多いのだが、給付金や決済関係の書類を処理しないといけないときは藤次と2人きりになることも少なくなかった。
「由美穂さん、最近、疲れがたまってないか?」
「いえ、そんなことないですよ」
こういう状況では大体いやらしい発言をしてくるので、由美穂はどうしても身構えてしまう。
「そうかなぁ。ちょっと疲れが顔に出ている気がするが……」
そう言いながら、藤次がこちらを見ている。
「もしかして、昨日の夜はアレかい?」
「……何ですか、あれって?」
「夜通し……アレっていえばアレのことだよ」
にたりと笑う藤次の顔に気色悪さを通り越して怒りが湧いた。できるだけ声を押し殺し、鋭い視線を藤次に向ける。
「……そんなの言うわけないでしょ? ふざけたこと言ってないで、仕事してもらえます?」
途端に藤次は怯えた表情になる。
「あ、ああ、邪魔だったかな。いやちょっと体が心配だったからね~。元気なら、それでいいんだ、うん」
そして1人で何かつぶやきながら、事務所を出て行ってしまった。
夫に報告した、その後…その夜、さすがに我慢ならなくなった由美穂は修司に報告した。修司はそのまま寝室を飛び出し、藤次にキツく注意をしてくれた。
藤次とはやや気まずい関係になったが、毎日のありえない言動は鳴りを潜めた。時を同じくして藤次は重い病気をわずらい、あっという間に他界。工場の経営は息子の修司が引き継ぐことになった。
不謹慎だが、これで少しは家での時間も過ごしやすくなると由美穂は思っていた。
しかし由美穂が思い描くようなことにはならなかった。愛子の存在が由美穂を悩ませることになるのだ。
●義父がいなくなり安堵したのも束の間、今度は義母に異変が……。 後編【「お父さんに色目でも使ったんだろう」義父が亡くなりモンスター化した義母を黙らせた「夫の覚悟の行動」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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