「お父さんに色目でも使ったんだろう」義父が亡くなりモンスター化した義母を黙らせた「夫の覚悟の行動」
Finasee / 2024年6月21日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
由美穂(35歳)が嫁いだ大島家は、地方で工場経営をしている。20代のころは東京で働いていた夫も、30歳になったことを機に実家の後を継ぐことになった。由美穂も仕事を辞め、夫とともに義実家の仕事を手伝うことになった。
由美穂は家のために始めた経理の勉強が思いのほか面白くなり、仕事にもやりがいを感じながら手伝っていた。だが、義父の藤次(68歳)が由美穂に対して、夫がいないところで性的な発言やボディタッチを繰り返してくる。我慢ができなくなった由美穂は夫に報告し、夫がきつくしかったことで義父の言動は少しだけ大人しくなったが、間もなく病気にかかった義父はあっという間に他界してしまう。
不謹慎だが、義父から解放されたことに安堵する由美穂だった。
●前編:エスカレートする同居義父の仰天言動…嫁いだ先で直面した「距離感がおかしい義家族」
義母の本性藤次が亡くなり、修司とともに工場を切り盛りしていこうと由美穂が決意を新たにした矢先だった。
なぜか愛子が仕事に口出しをするようになる。それまで全く工場経営に興味がなかったはずなのに、いきなり現場に出てくるようになり、あれやこれやと修司や従業員に命令をするようになったのだ。
そんな愛子の急変ぶりは当然、由美穂にも向けられる。
その日は、取引先で発注数のミスが発生し、管理データを書き換えないといけない事案が発生していた。たまにあるミスなのだが、経理の由美穂は遅くまで残って仕事をしないといけなかった。
疲れた体で家に戻ると、不満顔の愛子が待ち構えていた。
「今まで何をしていたの? もう19時を回っているんだけど。ご飯はどうするの? お風呂も沸かさないとダメなんじゃない?」
以前であれば、チクッとした嫌みくらいで終わっていたものを、最近の愛子ははっきりと敵意をむき出しにして言うようになった。
「あの、お義母(かあ)さん、家にいらっしゃるのなら、少しはご自分でやってもらってもいいですか? 私たちの分は別でいいですので……」
疲れから、いら立ちを隠せず由美穂は反論。すると、愛子は眉根をつり上げた。
「それはあんたの仕事でしょうが! なんで私がそんなことまでしないといけないのよ⁉ うちの稼ぎで飯を食ってるくせに、家事もしないなんて、甘えるものいい加減にしなさい!」
烈火のような怒りに由美穂は面食らった。稼いでいるのは、藤次や修司、そして由美穂たち従業員だった。愛子はただ家にいるだけで、何もしてない。なのにどうして自分が社長のようなことを言えるのだろうか。
由美穂は怒りよりも疑問を感じた。
「とにかくあんたは仕事も家事も全部、ちゃんとやるのよ! 嫁なんだから! 私にこんなこと言わせないでちょうだい!」
愛子はわざと足音を立てながらリビングに戻っていった。由美穂はため息をついて、玄関へ上がる。これが愛子の本性なのだろう。
厄介な義父ではあったが、彼の存在に守られていた部分もあったのかもしれないとすら、由美穂は感じていた。
義母にはハッキリと物が言えない夫「こんな調子でね、お義母(かあ)さんが最近ひどいのよ」
寝室で声を潜めて、由美穂は相談をする。
「……そうだよなぁ。最近、ちょっとひどいよなぁ」
修司の反応は余り良くなかった。藤次のときはすぐにキツく注意をしてくれたのだが、今回はそういうわけにはいかないらしい。
「父さんが亡くなって、自分がしっかりしなきゃって思いすぎて、空回りしている感じだよな」
修司は奥歯に物が詰まったような言い方をする。
それは絶対にないと反論したかった。しかし修司は愛子に頭が上がらないのも知っていた。だからこれ以上、板挟みにしてしまうのが申し訳なく、何も言い出せなかった。
心身の疲れが限界に結局、事態は現状維持のまま進んでいく。
家では愛子からいびられ、職場では慣れない社長業をする修司を支えないといけない。そんな風に追い詰められ、落ち着かない日々が続き、ついに由美穂の心身は限界を迎えてしまった。
高熱で体を起こすことができず、初めて仕事を休んだ。日々のストレスが原因だった。修司もそのことを分かってくれていたので、優しい言葉をかけて寝かせてくれた。そのまま3日間寝込み、4日後にようやく布団から起き上がれるようになった。
とはいえ、体はまだだるかった。熱は下がったが、多少頭痛も残っている。喉が渇いた由美穂が身体を起こして台所に向かうと、居間では愛子が大音量でワイドショー番組を見ていた。愛子は由美穂の存在に気付き、眉間にしわを寄せる。
「熱があるくらいで休めるなんて、いいご身分だね」
「ご迷惑をおかけしてすいません。あの、仕事も助かります」
愛子はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。由美穂は水で喉を潤し、また寝室に戻った。
天井を見つめながら、愛子の言葉を反すうしていた。いいご身分という言葉が突き刺さっていた。普段なら聞き流せているのだろうが、体調が弱っている分、食らってしまった。胸を張るわけではないが、自分なりにやれることは精いっぱいやっている。それなのに、休んだだけで、なぜあんなことを言われないといけないのか。
悲しさと悔しさで由美穂は涙を流した。しかし由美穂が泣いていることに、誰も気付いてはくれなかった。
義母とのバトル職場に復帰をすると、周りの社員たちは皆気遣ってくれた。とはいえ、周りに甘え続けるわけにもいかなかった。すぐに休んでた分を取り返さないといけないと思い、由美穂は仕事に取り掛かった。
休んでいるあいだの経理の仕事については、修司が愛子に頼んでくれていたので、まずはその確認に取り掛かる。パソコンを立ち上げて、手が止まった。
「……なによこれ?」
パソコンに打ち込まれていたのは全く理解できないお金の流れだった。何がどう間違っているのか、由美穂は最初理解できず、頭が真っ白になった。
しかしすぐにこれが単式簿記の書き方をしていると理解する。由美穂の会計ソフトは複式簿記の入力をしないといけないので、数値がメチャクチャになってしまったのだ。
由美穂はデータを洗い直し、複式に変えた数値を入力をしていく。愛子の間違いは由美穂が休んでいた分、かなりの量だった。
とはいえそのままにしておくわけにもいかない。お金の流れが間違っていれば、工場の経営にも当然大きな影響が出てしまう。由美穂はキーボードをたたき続けた。
「あなた、何をやってるの?」
いきなり声をかけられて振り返ると、背後に不満そうな顔の愛子が立っていた。
どうして今日に限って家でだらだらテレビを見ていないのかと、由美穂は天を仰ぎたかった。タイミングは最悪だ。
「……いえ、えっと」
なんと説明したものかと口ごもっていると、愛子が露骨に舌打ちをする。
「なんで私が記入した帳簿を全部書き換えてるのって聞いてんのよ?」
「いえ、ちょっとだけ、内容に誤りがありまして…」
「そんなわけないじゃない! 自分が休んでたっていう事実をもみ消したいだけでしょ! ただ事務所に居座ってるだけのくせして、そんなプライドだけはあるなんて! ほんとあんたはうちの厄介者ね!」
由美穂は拳を握りしめた。居座ってるだけと言われたことに腹が立った。
とはいえ普段なら、笑顔でやり過ごすことができただろう。しかしミスを尻ぬぐいしてやっているんだという気持ちが、由美穂の怒りにまきをくべた。
「お義母(かあ)さんのほうこそ! 家にいるだけのくせに、いつもでかい顔されて、こっちだって迷惑してるんですよ!」
由美穂に反論されたことが予想外だったのか、愛子は一瞬目を見開き、そして激高した。
「嫁いできた分際で、何を偉そうなこと言ってんだ! このグズが!」
「グズはそっちでしょ!」
愛子が持っていたフェルトペンを由美穂へ投げつける。フェルトペンは額に当たり、由美穂は愛子の手首を強くつかんだ。
2人の言い争いに気付いた従業員が、事務所へと駆け込んでくる。しかし愛子の罵倒は止まらなかった。
「どうせあんたなんてお父さんに色目でも使ったんだろう! あぁ汚らわしい!!」
誰が、あんなやつに色目使うか!
由美穂は叫びたくなった。しかし由美穂より先に、雷鳴のような怒号が事務所に轟(とどろ)いた。
由美穂の味方たち「いい加減にしろよ!」
事務所の入り口に、修司が立っていた。
どうやら別の従業員が修司を呼びにいったらしく、慌てて駆け付けた修司は肩で息をしていた。
「なあ母さん、何で由美穂にそんなことを言うんだ⁉ 由美穂は仕事も家事もしっかりやってくれてるだろ! 何にもやってないあんたにそんなこと言われる筋合いはねえんだよ!」
修司に激怒され、愛子は目が点になっている。
「わ、私は、みんなのために言ってあげて……」
「うるさいっ! 皆もあんたに閉口してるんだ! 家を追い出されたくなかったら、もう黙っておいてくれ」
「な……っ、母親に何てこと言うんだい。そんな恩知らずなこと……」
愛子は助けを求めるように、従業員たちの表情を見回した。しかし誰もが修司の言葉に同調し、愛子から視線をそらした。
愛子の味方は1人もいない。それを理解するには十分だった。
愛子は唇を震わせ、何かを言おうとしたが言葉が出ず、そのまま黙って事務所を出て行ってしまった。もちろん誰もその愛子の後を追うことはなかった。
「大丈夫か?」
修司は心配そうに声をかけてきた。
「うん、大丈夫」
由美穂はそう答えた。他の従業員たちも心配そうな顔をしている。
「本当か? 無理せず、今日も休んでいいんだぞ」
「ううん、本当に大丈夫よ。みんな、ありがとね」
由美穂は皆にそう伝えた。うそではなかった。本当に重かった体が軽くなり、活力が湧いた。
とにかく皆のために仕事をして貢献したい。由美穂の気持ちはそれだけだった。
その日の一件以来、愛子が工場に顔を出すことはなくなった。
修司や従業員たちはちゃんと自分を見てくれて、味方でいてくれる。そう思うだけで、何倍も力が出るような気がしていた。
これからも皆で力を合わせて、工場を切り盛りしていこうと由美穂は一層仕事に励んだ。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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