「オルカン」「S&P500」は分散投資じゃない…? 50歳からは知っておきたい人気金融商品の弱点
Finasee / 2024年6月20日 18時0分
Finasee(フィナシー)
「定年も近いのに、今から投資してもいいのでしょうか?」
ファイナンシャル・プランナーの鬼塚祐一さんの元には、50代からこんな相談が多数寄せられます。老後を堅実に生きるために、「50歳からは投資よりも貯蓄」という考えにとらわれ、なかなか踏み出せないようです。
そんな悩みに鬼塚さんは「まったく遅くはない」と答えます。実際に50代から投資を始め、成功した多数の例を見てきました。50代からおすすめの投資手法を4回に分けて解説してもらいます。今回は、「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式」のような全世界株式(オールカントリー)や米国の代表的な株価指数「S&P500」に連動する投資信託の“落とし穴”についてです。(全4回の2回目)
●第1回:「50代は投資してはいけない」女性を失望させた有名投資系ユーチューバーの真意
※本稿は『50歳ですが、いまさらNISA始めてもいいですか?』から一部抜粋・再編集したものです。
人気金融商品の落とし穴「オルカン」と「S&P500」。この2つの金融商品は、投資信託の一種です。投資信託というのは、そもそもが「分散投資」をしている商品なのです。金融のプロがいろんな銘柄を組み合わせるように買って運用しています。
「だったら、S &P500やオールカントリーでも分散投資していることになりませんか?」という声が聞こえてきそうですが、問題はこの2つの商品の投資対象の資産クラスが「株式」に限定されていることです。
これまで、投資対象は、大きく分けて株式、債券、為替商品、不動産、コモディティの5つがあるというお話をしましたが、S&P 500とオールカントリーは国と地域こそ違えども株式だけで構成されている投資信託なのです。
ですから、株式という資産クラスの中ではある程度分散されているけれども、投資対象全体で見ると株式だけに偏ってしまっているのです。株式に集中投資をしているとも言えます。 株式はハイリスク・ハイリターンという特徴があります。そのため、S&P500とオールカントリーはハイリターンが期待できる反面、ハイリスクな商品だということです。
かつて1929年に世界大恐慌というものがありました。当時、米国株がどれくらい下落したかご存じですか?
なんと9割も暴落したのです。
その後、回復するのにかかった期間はなんと25年。株式だけに投資するのはかなりハイリスクなのです。
もし、あなたが65歳のときに、世界大恐慌並の大暴落が起きたとしたら、それが元の価格に回復するころには、あなたは90歳になっているかもしれません。
これは、とんでもなく長い期間ですし、その間、経済的に生き延びることができるかというと、もちろん人にもよりますが、かなり難しいのではないでしょうか。
ここで、そもそも株式とは何かというお話をしたいと思います。
会社はなぜ株式を発行するのでしょうか?
会社がやっているのはビジネスです。それも恒常的に利益を上げ続けるビジネスを続けることを目指しています。ビジネスには当然、資金が必要ですので、会社は資金を用意しないといけないのですが、自社だけで用意できる資金には限りがあります。
そこで、資金を集めるために、株式を発行するのです。
投資家は、将来性のある会社や実績のある会社の株式を買うことで、その会社に資金を提供していることになります(株式は、その会社にお金を出してあげた証拠であるとも言えます)。
そして、株式を買ってもらった会社はその資金を使って、新しいアイデアを実現するための研究開発をしたり、製品化のための機械を導入したり、新しい工場を建設したり、広告費にお金をかけたり、輸送費に使ったりすることで、自社のビジネスを発展させて株主たちの期待に応えようとするわけです。
会社がビジネスをしてうまくいった場合、その会社の売上が上がります。業績が上がっていけば、その会社が発行している株式の価値も上がります。投資家たちは、そうなることを期待して、株式を買うことでその会社に資金を提供しているというわけです。
投資家たちからすれば、じぶんたちが買った株式の価格が上がれば、じぶんたちの資産価値も上がるわけですから、会社を応援したご褒美をもらえることになります。しかし、会社の業績には浮き沈みがありますし、業績が上がれば必ず株価も上がるというものではありません。
なぜなら、株価というものは、投資家たちの心理の反映だからです。多数の投資家たちがその会社の株が上がると思えば株価は上がりますし、そうでないなら逆に下がってしまいます。そのため会社としての利益は上がっているのに株価はあまり上がらないという現象が起きることもあるのです。
そこで、会社の利益が出たときに、お金を出してくれた投資家たちへの「お礼」として「配当金」というものが存在しているのです。
配当金は、会社の利益の一部を、株式を買ってくれた投資家への利益還元として配ります。さて、自身が持っている株式の配当金をその都度再投資に回した場合、どれくらいの期間で資産価値が回復するでしょうか。
配当金の再投資で回復期間が短縮配当なしの場合は、元に戻るまでに25年かかりましたよね。
それに対して、配当金をもらうたびにそれを再投資していけば、回復するまでの期間が15年5カ月に短縮されます。「それでも長いよ!」と思うかもしれませんが、かなりの短縮であることは間違いありません。
短縮はされましたが、仮に、65歳で90%の価値の下落を経験して、配当金を再投資していったとしても、資産価値が元に戻るのは80歳5カ月です。その間、お金を引き出したりすれば、その分だけ回復が遅れることになります。
80歳5カ月まで元本割れの状態が続いていることに、あなたは耐えられますか?
配当金のおかげで回復する期間が15年ほどに短縮できたとしても、やはりこのリスクは許容できないという人が多いのではないでしょうか。
というわけで、S&P500やオールカントリーなどの株式だけで運用する投資信託のリスクについてよくわかっていただけたのではないかと思います。
●第3回は【大暴落からスピード回復する賢明な選択肢。「2大投資対象」でリスクコントール】で、株式投資以外の選択肢について解説します(6月21日公開予定です)。
50歳ですが、いまさらNISA始めてもいいですか?
鬼塚 祐一 著
出版社 フォレスト出版
定価 1,870円(税込)
鬼塚 祐一/ファイナンシャルプランナー
鬼塚FP事務所代表取締役。一級ファイナンシャル・プランニング技能士。大学卒業後、郵政事業庁での営業職を経て、女性向けのマネー講座を主催するFP事務所に転職。YouTubeチャンネル「小学生にも分かる投資の授業」は登録者数11万人超。著書に『50歳ですが、いまさらNISA始めてもいいですか?』(フォレスト出版)。
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