約11年ぶりの1%台…長期金利上昇が「変動金利型住宅ローン」の引き上げにもつながりうる“理由”
Finasee / 2024年6月11日 16時0分
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長期金利は約11年ぶりに1%台に突入…
日常生活において、「金利」を意識することはそうありません。
したがって、長期金利が5月22日に、およそ11年ぶりに1%台をつけたことに興味を持った人は、恐らくあまりいないのではないかと思います。
過去の長期金利の推移をたどってみましょう。ただ、その前に、長期金利とは何かについて、簡単に説明させてください。
長期金利とは、国が発行する10年物利付国債の利回りを示しています。利付国債ですから、額面金額に対して一定率の利子が支払われます。この一定率の利子を「利率」と言うのですが、債券の場合、発行から償還を迎えるまでの間、債券市場で自由に売買されます。その売買価格は、額面100円につき99円50銭とか、100円50銭というように常に変動していますが、償還を迎える時には100円という額面価格で元本を受け取ります。
そのため、購入した時の債券価格が額面価格を下回っている時は、その差額が償還差益となり、それを加味した利回りが上昇しますし、逆に購入した時の債券価格が額面価格を上回っている時は、その差額が償還差損となり、それを加味した利回りは低下します。
これは長期金利を読むうえで大事なことですが、債券価格と債券利回りの間には、以下の関係があります。
債券価格上昇=債券利回り低下
債券価格低下=債券利回り上昇
つまり今のように長期金利が1%を超えて上昇しているということは、債券市場で長期国債を売る投資家の勢いが強く、債券価格が下落していることを意味します。
では、どうして長期国債を売る投資家が増えているのでしょうか。
最大の原因は、日本銀行が長期国債の買い入れを減額してきたことです。これまで日銀が買い入れてきた国債の総額は、2016年が過去最高の119兆2416億円で、2023年のそれは113兆9380億円でした。ちなみに2022年は111兆607億円です。
これらの金額は、すべての年限の国債を対象にしたものですが、日銀は5月13日に買い入れる予定の、残存期間5年超10年以下の国債について、前回に比べて500億円を減額した4250億円としました。
日銀がどのくらい国債を買ってきたのかについては、「資金循環統計」の国債等の保有者内訳に構成比が時系列で記載されています。国債・財投債に限った構成比を見ると、日銀のそれは2010年12月末時点が7.90%で、その後、徐々に上昇し、2012年6月末に10.20%、2014年9月末に21.20%、2015年12月末に31.41%、2017年6月末に41.27%となり、直近の2023年12月末には53.78%まで上昇しています。
対して保有構成比が大きく低下したのが銀行で、2010年3月末時点では40.27%を保有していたのが、2023年12月末には8.58%まで低下しました。
なぜ日銀がここまで長期国債を買ったのかというと、いわゆる「量的・質的金融緩和」によるものです。2013年4月の金融政策決定会合で導入が決定され、長期国債と共にETFやJ-REITまで日銀が買い入れていったことは、記憶に新しいでしょう。何が何でもデフレから脱却するという、政府・日銀の強い“意思表示”であり、それを通じて市中に多額の資金がばらまかれました。
しかし、なかなか消費者物価指数が目標値の2.0%に達せず、2016年1月からは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されるなど、量的・質的金融緩和は長期にわたって続けられ、同時に日銀は多額の長期国債を、市場から買い入れることを余儀なくされたのです。
その結果、日銀の国債・財投債の構成比が、53.78%という極めて高い数字にまで達しました。ちなみに2024年3月末時点において日銀が保有している国債の残高は、短期の資金繰りのために発行する国庫短期証券も含めて589兆6634億円にもなりました。
その日銀が、ある日突然、「もうこれからは今までのようにたくさんの国債は買いませんよ」などと言い出したら、どうなるでしょうか。
今までは、「日銀が国債を買ってくれるから大きく値下がりすることはない」と安心して国債を買っていた投資家も大勢います。ところが、日銀はもう今までのように国債を買ってくれないとなれば、需給が緩みます。さらに先を読めば、日銀が買わなくなるだけでなく、保有している国債を売却することも考えられます。
しかも、国債の最大保有者である日銀が売り始めたら、それを誰が買うのかという問題が生じてきます。新たな受け皿が見つからなければ、長期国債の債券価格は大きく下がり、長期金利は大きく上昇します。そのリスクを察知した投資家が、少しずつ売り始め、徐々にではありますが、長期金利に上昇圧力がかかってきていると考えることもできます。
一方で、長期金利を抑えたい人々も…ただ、一方で長期金利に上昇してもらいたくないという力が同時に働いているのも事実です。
4月25日の金融政策決定会合に、新藤経済再生担当大臣が出席したのは、日銀の利上げをけん制する意味合いがあったという話が、金融情報筋の間ではよく言われています。
仮に今後、利上げが本格化すれば、実体経済に及ぼす影響は無視できなくなります。仮に長期金利が上昇した時、果たして政策金利である無担保コール翌日物金利を、現状の水準に張り付かせておけるのかという問題が生じてきます。
政策金利を引き上げれば、それはやがて短期プライムレートの上昇につながり、変動金利型住宅ローンの金利引き上げにつながってきます。それは個人消費にとってマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。政府としては、それを看過することはでない、という考えはあるはずです。
もうひとつ大きな問題があります。もし長期金利が上昇したら、日銀が大量に保有している国債の価格が下落します。それは、日銀のバランスシートを痛めることになりますし、何よりも新規発行の国債の利率が上昇すれば、国債を発行して資金を調達している政府にとっては、資金調達コストの上昇につながります。
令和5年の国債発行額は、総額で205兆7803億円にも達します。これだけの調達資金の調達コストが上昇すれば、さらに政府の財政負担は重くなります。
マーケットでは金利上昇圧力が強まる一方、政治的には上昇させたくない意向が強く、その綱引きが今後、行われることになるでしょう。したがって当面、金利が一方向に大きく進む可能性は、小さいと思われます。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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