投資の意外な盲点に注意! 文系でも分かる「目からウロコ」の数字のマジック
Finasee / 2024年6月17日 11時0分
Finasee(フィナシー)
今回は「数字」について書いてみたいと思います。投資には数字がつきものです。皆さんも毎日、さまざまな数字を目にしたり耳にしたりしているでしょう。数字に振り回されてしまうと、投資を長く続ける上で大きな負担になるかもしれません。少しでも数字に振り回されない方法をお伝えしたいと思います。
日経平均終値、前日比1066円高! 実はこれ、大げさに見せているのです!2024年2月13日の日経平均株価の出来事になります。1日で1000円以上も上昇し、大きな話題となりましたが、上昇率で言うと2.89%でした。上昇幅で言いますと、日経平均の長い歴史の中で17位に入る上昇幅(額)でしたが、上昇率で言いますと20位が6.27%。実は上昇「率」でいうと驚くべきことでもなく、値動きの大きいよくある1日の数値だったのです。
現在、日経平均株価は最高値付近にあるため、以前に比べて変動額が大きくなっています。2020年のコロナショックや2008年のリーマンショックの時と比較してみると、その違いがよりイメージしやすいことでしょう。
出所:筆者作成、株価は終値表のとおり、同じ1000円の値動きでも、コロナショックの時期では5%以上の値動き、リーマンショックの時期には10%以上も動いていました。現在の状況を理解しておかないと、目立つ情報に振り回されてしまうかもしれません。
それにしても、1日で日本全体の株価が10%も動くなんて、かなりハラハラしますよね。実際にこれからも同様のことが起こるかもしれませんので、しっかりと自分に合ったリスク許容度内での投資を心がけましょう。
また、幅や額で見ることと、率で見ることには、会話やSNSなどでも注意が必要です。「100万円下がった!」と言われても、それは資産が1億円あるうちの1%かもしれませんし、あるいは1000万円のうちの10%かもしれません。数字は上手に使ってこそ意味があるので、特に他の人やメディアが使う数字のマジックに惑わされないようにしましょう。
S&P500の成績を見ると5年で年率20%以上のリターンになっている?ここ数年、全世界への分散投資だけではなく、主要米国株価指数の一つであるS&P500への投資に拍車がかかっています。データを見ると目覚ましいパフォーマンスを示しています。こちらは1655:iシェアーズ S&P 500 米国株 ETFの月次レポートです。
運用実績(%)
出所:1655:iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF月次レポート確かに、3年や5年のリターンを見ると20%以上となり、「2020年のコロナショックって何があったの?」と思わせるほど素晴らしい成績になっています。しかし、こちらも少し見方を変えてみていただきたいと思います。次のチャート(値動き)をご覧ください。
出所:Trading Viewこちらのチャートは、円ベースでのS&P500(青色)と、米ドルベースでのS&P500(橙色)を比較したグラフです。現地通貨ベースで見ると、実際には年率12%のリターンでした。それでも12%というのは素晴らしい成績ですが、このような差が生じる理由は、為替変動の影響です。円安ドル高によって、外国に投資している資産の評価が上乗せされている状態です。
債券の世界では、為替に加え金利の影響も大きいのでご注意を次にご覧いただきたいのは、外国建ての債券に投資するタイプの5年間のチャートです。例としてS&P米国債7-10年指数(残存期間7年以上10年以下の米国財務省証券)をベンチマークとするETFに投資する場合でみてみましょう。
橙色のチャートは、日本で気軽に購入できる東証に上場しているETF(円ベース)です。一方、水色のチャートはそのETFの現地版(米ドルベース)です。そして、青色のチャートは円建てのETFで、為替ヘッジありのタイプになります。
出所:Trading View先ほどと同様に、橙色(円ベース)と水色(米ドルベース)のチャートを見てみましょう。うまく説明しやすいように、プラスとマイナスで明暗が分かれています。これも、実は円安の影響による現象です。
ここで債券の基本を復習したいと思います。一般的に、債券は金利が上昇すると価格が下落します。これは、以前の低金利の債券よりも新しい高金利の債券の方が魅力的になるため、以前の債券が売られるからです。このように、債券の価格と金利はシーソーのような関係にあります。
過去5年間でアメリカの10年物国債の利回りは、約2%(2019年5月)から約4.5%(2024年5月)と大幅に上昇しました。つまり、水色の線が示すように、米ドルベースでは債券の価格が下がった時期でした。しかし、私たちから見ると為替レートが約108円(2019年5月)から約156円(2024年5月)と円安になったため、評価額として40%以上のプラス効果があり、橙色のチャートのような結果となりました。
一般的に債券の期待リターンは2~4%と言われていますので、為替相場の影響が大きいとこのような現象が起きます。少し話はそれますが、投資信託ではなく外国債券を購入する場合は、金利だけに着目するのではなく、為替変動があることを頭に留めておきましょう。
最後は数字ではありませんが、為替ヘッジについて説明しておきたいと思います。青色のチャートが”為替ヘッジあり”の商品です。もともと為替の影響を受ける外国株式や外国債券に投資をしたいが、為替相場の影響を受けたくない場合に、為替ヘッジありの商品は向いています。当たり前ですが、ただで為替相場の影響を受けないようにすることは難しく、リターンを得る、もしく損失を避けるために、ヘッジコストと呼ばれる費用を支払う必要があります。
ヘッジコストは金利差によって決まり、以下のような特徴があります。
① 金利差が大きいほどコストが掛かる
② 日本より金利が高い国が投資先だとコストを支払う(マイナス)
③ 日本より金利が低い国が投資先だとコストを逆に受け取れる(プラス)
今の日本は低金利がまだまだ続いていますので、③はなく②になります 。しかも先ほどお伝えしたように、アメリカの金利は上昇し、金利差が広がりました。結果的により①のコストが上昇しましたので、橙色(為替ヘッジなし)と青色(為替ヘッジあり)という差が生まれてしまいました。 確定拠出年金やNISAでも、”為替ヘッジあり”と”為替ヘッジなし”の商品が並んでいますので、なんとなく「あり」の響きの方がよく感じてしまうかもしれませんが、特性を知って投資していただければと思います。
今回は数字をきっかけに、数字の使われ方や為替の影響について触れてみました。相場は良くも悪くも変動が大きいほど、喜びを感じる人が多いように思いますが、個人的には多くの方にとって相場に振り回されない方が、投資を長く続けるコツのように感じますので、少しでも参考になればうれしいです。
FPかえる(尾上堅視)/ファイナンシャルプランナー
2005年個人投資家として日本株式への直接投資や投資信託を用いた資産形成をスタート。その後、証券会社や運用会社などへ取材を行うライターとして活動し、2010年家計の総合相談センターの相談員(FP)となり現在に至る。個人投資家の金融リテラシーの向上、お金と仲良くおつきあいする方法を広く伝えるため活動中。
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