「まさか年金が減るなんて」60代女性の厚生年金保険料が事実上“掛け捨て”になってしまった「衝撃の理由」
Finasee / 2024年6月24日 12時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
孝子さんは64歳の女性です。60歳で最愛の夫・良樹さんを亡くした後、遺族年金を受けながらパートで働いています。誕生日を迎えるにあたり、65歳以降の年金額がどうなるのか気になり、年金事務所へ相談に行くことにしました。
もともと、孝子さんは「老後にできる限り備えておいた方がいい」と考え、ここ5年間はパートの時間を増やして厚生年金にも加入していました。それゆえ、てっきり「年金は増えるもの」と思い込んでいましたが、年金事務所の職員に提示された見込額を見てびっくり。まさかの年10万円も減ってしまうというのです。
孝子さんは、これから年金が減額される事実に大変ショックを受けました。
●前編:【「え、どうして?」年金増額を期待していたのに…増えるどころか「年10万円」減額された高齢女性の悲劇】
減額の原因は「国民年金の未納期間の長さ」にあり孝子さんは年金事務所で、年間で合計131万円程度あった年金が、65歳から121万円程度に減ってしまうと説明されました。65歳からの孝子さんの年金はどのような内訳になるのでしょう。
まず、老齢厚生年金は、65歳まで勤務(厚生年金に加入)したことによって年間約25万円と計算されていました。
次に遺族厚生年金ですが、61万2000円加算されていた中高齢寡婦加算がなくなることから、本体の遺族厚生年金70万円が残ります。そして、老齢厚生年金と遺族厚生年金はあわせて受給できる一方、遺族厚生年金は老齢厚生年金相当額を差し引いた差額分の支給となるので、70万円から25万円を差し引いた45万円の支給となります。
厚生年金部分は老齢厚生年金25万円、遺族厚生年45万円の支給となります。
一方、65歳で中高齢寡婦加算の代わりに支給される老齢基礎年金の額は51万円でした。孝子さんには国民年金加入中に未納期間がかなりあったため、その結果この額となりました。
61万2000円が減って51万円が支給されるようになると、10万2000円減ることになります。結果、遺族厚生年金(差額支給)45万円+老齢厚生年金25万円+老齢基礎年金51万円で合計121万円となります。
しかし、孝子さんには「確かに、若い頃を中心に未納だった時期もあったけど、60歳から65歳まで5年間保険料を払ってきたのに、どうして65歳前より下がるの?」と疑問が生じます。
厚生年金に加入しても老齢基礎年金が増えない理由老齢基礎年金は、国民年金第1号被保険者として国民年金の保険料を納付するか、第3号被保険者になっていると増えます。
一方、厚生年金に加入すると2階建てで年金が増えると言われ、老齢厚生年金(報酬比例部分)と老齢基礎年金が増えます。しかし、厚生年金加入でこのように増えるのは20歳以上60歳未満の期間のみです。
老齢基礎年金の満額(40年納付)だと年間81万6000円(2024年度:68歳以下の額)です。孝子さんは20歳以上60歳未満の期間に国民年金の未納が多かったことから、老齢基礎年金は51万円にとどまっていましたが、60歳以降に厚生年金に加入しても老齢基礎年金は増えません。老齢基礎年金の代わりにそれに相当する経過的加算額が支給されることになります。しかし、これはあくまで老齢厚生年金として支給される年金です。
そうなると、老齢厚生年金(報酬比例部部分と経過的加算額)は厚生年金保険料を掛けた分増えることになりますが、65歳以降の遺族厚生年金は差額支給であるというルールから、報酬比例部分と経過的加算額の合計で増えた分、差額支給の遺族厚生年金が減る計算になります。
つまり、老齢厚生年金と遺族厚生年金の2つの合計額で見た場合、65歳までの5年間厚生年金保険料を掛けても掛けなくても、変化がないことになります。
一方で、中高齢寡婦加算61万2000円はなくなり、51万円のままの老齢基礎年金が支給されるようになるため、この2つの差額に相当する10万2000円が減ることになります。孝子さんの年金が減るのはこのような仕組みから来ています。
もし、20歳以上60歳までの未納期間が少なかったことによって、老齢基礎年金が中高齢寡婦加算よりも多い人の場合は、65歳以降の3つの年金の総合計で見ると、65歳前より増えることになるでしょう。
繰下げ受給もできない遺族厚生年金が受けられる人は、65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金の支給を遅らせて増額させる繰下げ受給ができません。65歳開始で受給するしかないことになります。
「ますます年金に頼る年齢になるのに、まさか年金が少なくなるなんて……。このまま働いて厚生年金に加入しても、結局合計額は変わらないのね。けど働いている方が収入は多いし、厚生年金保険料も支払い続けるしかない」と厚生年金保険料が事実上掛け捨てになることも承知しながら、働き続けることにしました。
***かつての国民年金の未納期間が多かったことからこのように65歳以降の年金が減ってしまう事態になりました。遺族年金を受給できる場合は、遺族年金と自身の老齢年金との関係を事前に確認しておきたいところでしょう。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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