「いよぎんHD」海事都市を支え最高益 外債運用も奏功、今期の見通しは…?
Finasee / 2024年6月20日 11時0分
Finasee(フィナシー)
株式市場でいよぎんHDが注目を集めています。2024年6月11日までの5年間で株価は2.6倍に上昇しました。金利が上昇し、業績の拡大を期待した買いが向かったとみられます。また、いよぎんHD固有の要因として、債券運用で大きな利益を確保したことも背景にあるとみられます。
出所:Yahoo!ファイナンスより著者作成いよぎんHDはどのような企業なのでしょうか。概要と直近の業績を押さえましょう。また今期の業績予想と新しく公表した中期経営計画(2024年度~2026年度)も紹介します。
海事都市を支える銀行 貸出の2割は海運業いよぎんHDは愛媛県を地盤に持つ金融グループです。伊予銀行を中核に、リースや証券、保証業務といった金融サービスを担っています。傘下のシステム会社は、グループ向けだけでなく一般企業向けにもサービスを提供しています。
【主要子会社の業績(2024年3月期)】
経常収益 純利益 伊予銀行 1729億円 378.67億円 いよぎんリース 170億円 5.55億円 四国アライアンス証券 18億円 0.18億円 いよぎん保証 21億円 8.56億円 いよぎんコンピュータサービス 29億円 1.65億円出所:いよぎんHD 決算説明会資料
愛媛県は海運業や造船業、船用工業といった海事産業が集積する地域です。造船所は県内に22事業所あり、今治圏域は外航船保有隻数が全国1位、宇和島圏域は海面養殖業の生産額が全国1位となっています(出所:いよぎんHD 決算説明会資料 参考資料編)。
こういった地域性から、いよぎんHDは貸し出しの多くを海運業が占める特徴を持っています。
【業種別貸出金残高 構成比上位5業種】
・運輸業:23.3%
・製造業:12.9%
・卸売・小売業:10.3%
・各種サービス業:8.9%
・不動産業:6.3%
※運用業のうち海運:20.9%
出所:いよぎんHD 決算説明会資料 参考資料編
債券運用で96億円プラス ヘッジ削減で運用益を確保冒頭の通り、いよぎんHD株式は値上がりが顕著です。背景には直近の好業績があるとみられます。
いよぎんHDの前期(2024年3月期)の業績は以下の通りです。売上高に相当する経常収益は1割の増加、経常利益および純利益は3~4割の大幅な増益となりました。純利益は2期連続で過去最高を更新しています。50億円(600万株)を上限とする自社株買いも公表しました。
【いよぎんHDの業績(2024年3月期)】
・経常収益:1928億円(+11.5%)
・経常利益:586億円(+38.1%)
・純利益:395億円(+41.5%)
※()は前期比
※(参考)連結コア業務粗利益987億円(+10.2%)、連結コア業務純益435億円(+18.0%)、有価証券関係損益150億円(前期は0.37億円の赤字)
出所:いよぎんHD 決算短信
いよぎんHDの決算で話題だったのが債券運用です。国内外の債券の売却損益などを示す債券等関係損益が前期比で3倍に増加しました。一方、主要な銀行の多くは前期に続きマイナスを計上しています。
【債券等関係損益(2024年3月期、単体)】
・伊予銀行:96億円(29億円)
・主要9行:▲5602億円(▲1兆1893億円)
※()は2023年3月期の実績
※主要9行:みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、SBI新生銀行、あおぞら銀行
出所:いよぎんHD 決算短信
出所:金融庁 銀行の決算の状況
いよぎんHDは為替ヘッジ付きの外債を減らしてきました。円安の恩恵から、金利上昇に伴う債券価格の下落をカバーしたと考えられます。なお足元では為替ヘッジ付きを含め外債を大きく積み増しているようです。
出所:いよぎんHD 決算説明会資料 参考資料編より著者作成今後の見通しは?今期と中期の計画を確認今期(2025年3月期)の見通しも確認しておきましょう。
いよぎんHDは今期に減収減益を見込んでいます。特に経常利益と純利益は減少幅が大きく、有価証券関係損益の縮小を主因におよそ2割の減益を見込みます。なお、銀行の本業の収益を示す業務粗利益は増加する見通しです。
【いよぎんHDの業績見通し(2025年3月期)】
・経常収益:1900億円(▲1.4%)
・経常利益:460億円(▲21.5%)
・純利益:320億円(▲18.9%)
※()は前期比
※(参考)連結コア業務粗利益1020億円(+3.3%)、連結コア業務純益440億円(+1.1%)、有価証券関係損益45億円(▲69.8%)
出所:いよぎんHD 決算短信
中期でも大きな成長は見込んでいないようです。
いよぎんHDは2024年4月、新しい中期経営計画(2024年度~2026年度)を公表しました。最終年度の目標値は2024年3月期より悪化するものもあり、保守的な印象です。なお連結コア業務純益は期間中に65億円の増加を計画します(2024年3月期の実績435億円)。
【中期経営計画の財務目標】
2024年3月期(実績) 2027年3月期
(目標) 連結ROE 4.92% 4%半ば 純利益 394億円 350億円 連結コアOHR(※) 55.9% 55%程度 成長投資 ― 100億円
※OHR(Over Head Ratio):業務粗利益に占める経費率
※「目指す水準」として連結ROEは7%以上を設定、その他の項目も進捗を勘案して設定
出所:いよぎんHD 中期経営計画
一方、株主還元は強化する方針です。配当と自社株買いを合わせた総還元性向は2027年3月期までに50%以上を目指します。
出所:いよぎんHD 中期経営計画より著者作成文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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