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「女性の痛み」を理解できず妻に愛想をつかされ…ワンオペを押しつけていた夫を反省させた「最も大切なこと」

Finasee / 2024年6月25日 17時0分

「女性の痛み」を理解できず妻に愛想をつかされ…ワンオペを押しつけていた夫を反省させた「最も大切なこと」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

子供の頃から片頭痛に悩まされてきたゆかり(38歳)は、今年も梅雨時期の痛みが特にひどく、朝起きることも難しくて仕事を休む日が続いていた。

夫の洋司(42歳)は「いいよな、頭痛で休めて」などと言い放ち、真面目に心配していなかった。

部下のミスなどでストレスを溜め込み、遅くに帰ってきた洋司は散らかった部屋を見て、一日寝込んでいたゆかりに「ただの甘えなんじゃないの?」と苦言をぶつけてしまった……。

●前編:「ただの甘えなんじゃないの?」梅雨時にひどくなる片頭痛…痛みに無理解な夫が口にした「無意識のモラハラ」

出て行った妻

土曜日の朝、テーブルの上に書き置きを見つけた洋司はあぜんとするほかになかった。

『しばらく実家に帰ります』

妻に出て行かれるなんて経験は、もちろん生まれて初めてだ。

ゆかりとは交際期間も含めて10年以上一緒にいるが、ほとんどケンカをしたことがない。そのゆかりが自分に黙って出て行ってしまったのだ。洋司にとっては、いきなりガツンと頭を殴られたような衝撃だった。

ゆかりが実家に帰ったのは、間違いなく昨晩の出来事が原因だろう。仕事のことでイライラしていた洋司は、1日中寝ていて家事をしていなかったゆかりを責めるようなことを言ってしまったのだ。

そのせいでゆかりを傷つけてしまったのかもしれないとは思ったが、洋司に謝るつもりはなかった。なぜなら自分は間違っていない。大の大人が頭痛ごときで会社や家事を休んでいる方がおかしいのだ。

どうせすぐに帰ってくるだろうと高をくくっていた洋司は、車を走らせれば30分程度で到着するゆかりのことはなんの対処もしないまま息子たちとの日常生活を送るのだった。

ところが、3日たっても1週間たってもゆかりが家に帰ってくる気配はなかった。息子たちも母親に会いたいと駄々をこねることが多くなり、ようやく真剣に悩み始めた洋司は、思い切って会社の同僚に相談してみることにした。

10年来の付き合いになる同僚は、何となく洋司の様子がおかしいことに気付いていたらしい。

「実は……少し前に妻が実家に帰ってしまってね」

洋司が遠慮がちにゆかりのことを切り出すと、彼は快く話を聞いてくれた。

きっと洋司自身、誰かに悩みを打ち明けたい気持ちがあったのだろう。気が付けば、ゆかりの片頭痛のことや彼女が家を出て行く前日の出来事を事細かに説明していた。

洋司の話を聞き終わった同僚は、あっさりこう答えたのだ。

「それは、どう考えても百瀬くんが悪いね」

「えっ? 俺が悪いのか……?」

てっきり悩みを共感してもらえるものと思い込んでいた洋司は、同僚の言葉に面食らった。困惑顔の洋司を気に留めず、さらに同僚は続ける。

「痛みのことは本人にしか分からないよ。特に女性のことは俺たちには理解できないことも多いしな。それなのに大したことないって決めつけるのは良くないぞ」

それから同僚は、こんな話をしてくれた。

なんでも彼の妻は、ひどい生理痛持ちで毎月立ち上がれないほど苦しんでいるという。

最初のうちは同僚も深刻には考えていなかったが、あまりにも妻がつらそうだったので、生理痛について詳しく自分で調べてみることにした。すると、重すぎる生理痛には病気が隠れている場合があることや、中には救急車を呼ぶほどの激痛を経験する人がいることが分かった。

それ以来同僚は、生理中の妻を献身的にサポートしようと決めた。現在、同僚の妻は定期的に病院を受診することで症状が改善しているという。

「はあ……俺とは大違いだな」

「いやいや、百瀬くんだってできるよ。とにかく奥さんを知ることが仲直りの第1歩だぞ。ほらほら頑張りたまえ」

同僚は気落ちする洋司の肩にポンと手を置いて、わざと明るく振る舞うよう冗談っぽく笑った。

深刻な病気につながる可能性も…

洋司は早速ゆかりを苦しめていた片頭痛について調べてみる。

それは洋司が思っていたよりもずっと深刻な病気だった。

一般的に「片頭痛」と呼ばれる頭痛のほとんどは「緊張型頭痛」と呼ばれる代物で、なんとか日常生活を送ることも可能だという。ただしまれに普通に生活ができないほどの痛みに襲われる強烈な「片頭痛」も存在するのだ。

ゆかりの症状が後者であることは間違いなかった。

しかも片頭痛が起こる「前兆」を伴う場合は、脳梗塞のリスクが上昇する。目の前がチカチカしたり、音や光に敏感になったりといった片頭痛の「前兆」は、ゆかりの身にも起こっていたことだ。

洋司は、深刻な病気につながるかもしれない片頭痛を「たかが頭痛」と一蹴していたことになる。ゆかりが愛想を尽かして出て行くのも当然だ。

洋司は散らかった家の中を眺めながら、今までの自分の行いを恥じた。

息子たちは洋司が四苦八苦して作った料理には手を付けず、冷凍庫のアイスを好き勝手に食べながらテレビゲームをしている。洋司は疲れ切って怒る気にもなれなかった。テーブルの上を片付けて、洗い物をして、息子たちを風呂に入れなければならず、おまけに洗濯機を回さなければ明日着ていくシャツもない。今からしなければならないことをリストアップするだけで、意識が飛びそうになった。

洋司はこのとき初めて、日々の家事がどれほど大変かを痛感したのだ。

(こんなに大変なことを、今までゆかり1人に押し付けていたんだな……)

ゆかりはつらい片頭痛を抱えながら、仕事も家事も育児も精いっぱいこなしていたのだ。一方自分は、ゆかりがいなければ息子たちの世話すらもままならない。それなのに洋司は、片頭痛で寝込んでいたゆかりを労わるどころか、心無い言葉をぶつけて傷つけてしまった。同僚の言った通り、誰がどう考えたって洋司が悪いのだ。

妻への謝罪

ようやく目が覚めた洋司は、次の週末、息子たちを連れて義実家へと向かった。

そして息子たちを義両親に任せると、勢いよくゆかりに頭を下げる。

「ごめん! 俺が悪かった!」

ゆかりは洋司が素直に謝ってきたことに驚いているようだ。

目を丸くしているゆかりの様子に気付かず、洋司は深々と頭を下げたまま謝罪を続ける。

「ゆかりのこと理解しようとせずに、ひどいこと言ってごめん。家事の大変さも片頭痛のつらさも、今まで俺は知ろうともしなかった……。ちゃんと調べたんだ。片頭痛は脳梗塞のリスクを高めることになるって。“たかが頭痛”なんて言って、本当にすまなかった」

洋司の言葉をゆかりは黙って聞いている。

「これからは心を入れ替えると誓うよ! だから……帰ってきてくれ! ゆかり!」

すがるように洋司が顔を上げると、腕組みをして仁王立ちするゆかりの姿があった。

ゆかりの視線が突き刺さる。詰められて当然だ。どんな厳しい言葉をぶつけられても、すべて受け止めようと思っていた。

しかしゆかりは深く息を吐き、洋司の覚悟を肩透かしするような言葉をそっと並べた。

「……仕方ないから今回は許してあげる」

ゆかりが絞り出すように返事をすると、洋司はその場にへたり込んだ。どうやらホッとして力が抜けてしまったらしい。

その直後、ゆかりの笑いだす。情けない洋司の姿を見て、思わず吹き出してしまったようだった。

「そんなに笑うなよ」

洋司は頭をかきながら苦笑したが、実は胸がいっぱいだった。ゆかりの笑った顔を見るのは、ずいぶん久しぶりのことだったからだ。

この笑顔を守るためなら何だってする。

洋司は決意を新たに義実家を後にしたのだった。

夫のアップデートで家庭円満に

それからというもの、洋司の生活はすっかり様変わりした。

ゆかりに任せきりだった家事を一通り覚えて分担するようになり、毎朝自分とゆかりの分の弁当まで作るようになった。ゆかりと息子たちに「おいしい」と言ってもらえるよう、時間を見つけては料理の特訓に励んでいる。

洋司が変わったことは、それだけではない。

ゆかりの病院に付き添って医師の話を聞いたり、気圧予報アプリをチェックしたりと情報収集にも余念がない。ちなみに気圧予報アプリとは、気圧の変化による頭痛が起こりそうなタイミングを教えてくれる優れものだ。夫婦で同じアプリをダウンロードしておくことで、洋司はゆかりの体調不良にいち早く気付くことができるようになった。また、病院で処方された薬と洋司の献身的なサポートによって、ゆかりの症状は少しずつ緩和している。ここ最近、会社を休むほどの頭痛に襲われることは少なくなったことがその証拠だった。

ゆかりの体調が良い日が増えたことで、家族4人で遊びに出掛ける機会も多くなった。遊園地、動物園、アスレチックジム――。息子たちの体力に合わせるのは骨が折れるが、外出中のゆかりはいつもはつらつとしている。これが30代と40代の差というやつだろうか。家族のためにも、健康のためにも、ランニングでも始めようかと洋司は思った。

「ほら、洋司さん! 早くしないと置いてくよ!」

息子2人と一緒に洋司の前を歩いていたゆかりは、はじけるような笑顔でこちらを振り返る。

ゆかりを苦しめていた長い梅雨は去ったようだ。

洋司は初夏の日差しの中、彼のいとしい家族に向かって走りだした。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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