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「あれ、誰の子だよ?」娘と血がつながっていない事を知った男性がとった「驚きの行動」

Finasee / 2024年7月5日 17時0分

「あれ、誰の子だよ?」娘と血がつながっていない事を知った男性がとった「驚きの行動」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

佳則(41歳)は、娘の美波(1歳)が40を過ぎて遅くにできたからこそ、尚更に可愛かった。

GWに実家に帰った際、母が美波を「パパに似なくてよかったね~」と冗談交じりにあやしていた。美波は美人の妻に似ていて、自分に似なくてよかったのはその通りだが、前々から気になっていた事が母の言葉でより強く意識されるようになってしまった。

葛藤の末、佳則は妻に内緒で娘の毛髪をDNA鑑定に出した。約10日後、返ってきた結果は、佳則と美波の血縁関係を否定するものであった……。

●前編:「パパに似なくて良かったね~」幼い娘への“疑惑”…妻に内緒でDNA鑑定をした男性を襲った「まさかの展開」

自分が知らなかったことにすればいい

あの日、佳則はどうやって部屋に戻ったのか全く覚えていない。とにかく鑑定結果の封筒を隠さなければとかばんにしまい込んだ。

佳則は、結婚したばかりのときのことを考えた。奈々子が美波を身ごもったのは結婚して1カ月がたったとき。奈々子からその報告を受けたときは飛び跳ねたくなるほどうれしかった。佳則は40歳で奈々子は35歳だった。子供を授かるにはお互いギリギリだろうと思っていた矢先の出来事だったので、まさか他人の子であるという疑いなんて全くなかった。

しかしそれでも、佳則がどんなに否定をしても、美波は他人の子なのだろう。受け入れられなくとも事実は変わらない。たった1枚の紙切れで、佳則の幸せはズタズタに切り裂かれてしまった。美波がようやくつかまり立ちを始めたことも、素直に喜ぶことができなかったことが、その何よりの証拠なのだろう。

それからというもの、佳則は家に帰るのが気が重くて仕方なかった。駅を降りて、自転車を手で押して帰る。このまま家を通り過ぎて、どこかの漫画喫茶で寝泊まりをしようかと思ったことも何度もあった。しかしそれはできなかった。急に帰らなくなったら奈々子が驚くだろう。そうなると、鑑定結果のことを話さないといけなくなる。

このバラバラになった幸せでも、まだつなぎ留める方法がある。佳則が知らなかったことにすればいいのだ。今まで気付かなかったのだから、これからも気付かないふりをし続ければ良い。そうすれば、すべてが丸く収まる。そもそも娘のDNA鑑定をしようだなんて思ったことが間違いだったのだ。

だいたい、DNA鑑定の精度だって完璧ではない。もしかすると0.01%未満の失敗がたまたま美波の鑑定で起きたのかもしれない。

自分が我慢するだけでいいんだ。全部忘れるだけでいいんだ。毎日、佳則は自分にそう言い聞かせながら家の扉を開けた。

妻への不信感はつのるばかり

「おかえり」

奈々子が笑顔で迎えてくれる。

「今日も遅かったね。最近、忙しいの?」

「ああ。ちょっと立て込んでてさ。…しばらくこんな感じが続くかも」

佳則は何となく保険を張るような発言をする。それを聞き、奈々子はぎこちなく笑った。

「あ、そ、うん、分かった。家のことは心配しなくていいからね。私一人でも美波は見れるから」

「うん。じゃ、着替えてくるよ」

そう言って横切る佳則を奈々子が呼び止めた。

「あなた、何でも相談してね」

おどけたように声をかける奈々子。それに対して佳則は何て返答して良いのか分からず、ただうなずいた。

部屋に入り1人の時間になったときだけ落ち着いて息を吸えるような気がしたが、それでも頭の中は奈々子への疑惑で埋め尽くされている。

よくよく考えれば、奈々子は優しすぎた。けんかはたったの1度もなく、子育てだって至らないところばかりな佳則をいつも笑って許し、支えてくれた。良い人と結婚できたと、能天気に思っていた。しかしこんなに優しいのは後ろめたいことがあったからなんだと分かる。今までの幸せだった日々が全て偽物だったように思えてしまった。

佳則はふと自分と美波との関係が気になった。美波はいったい誰の子なのだろう。法的にも認めざるを得ないのだろうか。血もつながっていない子供を、自分の子供と認め、育て続けなければいけないのだろうか。知ったってどうにもならないのに、スマホをタップする指は止まらなかった。

いろいろと調べた結果、分かったのは法律上の父親は佳則だということ。結婚しているときに生まれた子供は血縁関係がなくても、佳則の子供だと認定されるらしい。

「そんなむちゃくちゃな……」

皮肉でも嘆きでもなく、佳則は本当に意味が分からずそうこぼした。

以前は俗にいう「離婚後300日問題」として、離婚後300日以内に生まれた子供は前夫の子供ということだったが、2024年の春に法律が変わり、300日以内であっても、再婚していれば、再婚相手の子供として認められることになったらしい。

佳則と奈々子は付き合い始めて3カ月で婚約をした。奈々子の妊娠が分かったのはそれからだいたい1カ月後。よく見るとふっくらとしてきたおなかをさすりながら、報告してくれた奈々子の表情を今でもよく覚えている。

よく考えることができていれば、時期がおかしいことに気づけていたのだろう。だが40歳を過ぎて手に入れた念願の家庭に、疑う気持ちなんて持つはずもなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。いずれにせよ、全てがまやかしで、全てが間違いだったのだ。

佳則は調べたことを後悔していた。もう何も考えられず、佳則はベットに伏せた。夢に沈む以外に、このどうしようもない現実から逃げる方法がなかった。

あれ、誰の子だよ?

その日は朝から頭が痛く、起きることができなかった。

休日だったので、痛みが和らぐまで寝て、結局、ベッドから体を起こしたのは昼過ぎになってからだった。

なんとかベッドから出て食卓に座ると、奈々子が心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫?」

「……ああ」

誰のせいで、と思わず言いそうになった。

リビングでは美波が気持ちよさそうに寝ている。他人の子が、自分の家ですやすやと寝ている。単純にどうしてこんなことが起こっているのか疑問だった。

「ねえ、あなた、最近ちょっと変じゃない?」

「変って何が?」

「あんなにかわいがってた美波の相手をあんまりしないようになったし」

また頭が痛む。気付かれていた。どうにかして以前と同じように接していたつもりなのだが、やはり奈々子には見破られていた。

他人の子と分かってから、佳則は美波とどう接して良いのか分からなくなっていた。正面から顔を見られなくなっていたのだ。

佳則が黙り込んでいたからか、奈々子が佳則の手を握ってきた。

「何でも言って。私、力になるから」

心配そうに眉根を下げる奈々子にかつてない怒りを覚えた。佳則は奈々子の手を振り払った。

「あれ、誰の子だよ?」

自分でもびっくりするほど冷たい声が吐き出された。その瞬間、奈々子は目を見開き、瞳をキュッと小さくする。

「……え?」

「誰の子供かって聞いてるんだよ?」

奈々子はすぐに笑顔を作る。

「誰って、あなたと私の子じゃない」

「うそつけ。全然俺に似てないだろ」

「お義母(かあ)さんが言ってたこと気にしてるの? だったらそんな――」

佳則は言葉を遮るように立ち上がり、戻った寝室のかばんから封筒を引っ張りだしてきて、奈々子へと突きつけた。奈々子はしらじらしくも意味が分からないといった顔で封筒を受け取り、ぼうぜんと佳則を見上げていた。

「これを見ろ。DNA鑑定の結果だ」

奈々子は目を見開き、封筒を抱きしめた。言葉なんてなくてもよく分かった。

「いつからだ、いつから俺をだましてた……?」

もう知りたくもないのに、考えたくもないのに、腹の底に押しとどめておいた感情が佳則の感情とは関係なくほとばしる。

「他人の子供を育てさせて、心の底で笑ってたのか? 俺を哀れなやつだと、ばかにしてたのか?」

「……本当にごめんなさい。前の夫は、いつもお酒を飲むと、暴力をふるう人だったの。それで逃げ出すような形で離婚をしたから、誰にもそのことを言えなかった。もしバレて、前の夫に見つかったらと思うと怖くて」

「なんだよ、それっ⁉」

佳則は頭を抱えた。うそつけとののしりたかった。しかし付き合っているとき、奈々子はデートをあまりしたがらず、家で過ごすことを好んでいた。外を出歩くときも、いつも誰かの視線を気にしている節は確かにあった。美波を身ごもってからは、買い物は佳則の役割になり、奈々子はほぼ外出する機会がなくなった。それはすべて、前の夫から隠れるためだとすれば、つじつまが合ってしまう。

佳則は何も言えなかった。仮に奈々子の言葉が真実だったとしても、あの薄っぺらい紙が突きつけた事実をどう受け止めたらいいかがいまだに分からない。

「だから何だって言うんだよ……」

「ごめ、ん、なさい……」

奈々子は震える声で謝罪をした。

「……知ってて隠してたのか?」

「違う。本当にそれはない。でも、あなたには似てなくて、それで、もしかしたらとは思ってた」

奈々子は顔を伏せる。

1人の人間としての決断

どうすればいいのか分からなかった。父親として――いいや、佳則は父親ではなかったのだ。1人の人間として、どう決断するのが正しいのだろうか。大きすぎる現実は、佳則の思考をすりつぶしていた。

……もう無理かもしれない。奈々子と別れる。そんな選択肢が、にわかに脳裏に浮かんだ。

「――だぁうぁ」

いつの間にか起きていた美波の声がして、思わず佳則はそちらに目を向けた。

「えっ⁉」

佳則は大声を出した。

リビングで寝ていたはずの美波が立ち上がり、こちらに向かって歩き出したのだ。

1週間くらい前にようやくつかまり立ちをし始めたばかりだったはずなのに、もう美波は自力で歩いていた。しかしその足取りはおぼつかなく、目の前にあるおもちゃに引っかかって転びそうになった。

「あぶな――っ」

思わず、佳則は飛びついて、美波を持ち上げた。間一髪のところでおもちゃとの衝突を免れた美波は、焦っている佳則が面白かったのか、腕のなかで楽しそうに笑っている。

「危なかった……」

声がしたほうを見ると、奈々子も同じように飛びつき、おもちゃをどかしていた。

こちらを見上げた奈々子と目が合って、佳則は思わず笑ってしまった。

2人とも、きっと同じ気持ちだった。

腕のなかでは相変わらず、美波が屈託のない、とてもかわいい笑顔を浮かべている。たぶんこの笑顔よりも大切なものなんて、この世にひとつだってないのだろう。血のつながりなんてものは、この尊さの前ではどうでもいいことのように思えた。

「美波、歩いたよ」

「……うん、歩いた」

「……さすが、……俺の子だ」

佳則はうなずいて、美波を抱える腕を天井へ伸ばす。

そう、この子は俺の子だ。俺は、この子の父親だ。

隣りでは奈々子が泣いていた。何度も繰り返される「ごめんなさい」が「ありがとう」に変わっていった。佳則はこの世界で最もいとおしい娘と妻を優しく抱きしめた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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