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多すぎる選択肢の中から選ぶのは、後悔と不満のもと!? デジタル化以前のほうが「買い物の満足度」は高かったかもしれない“理由”

Finasee / 2024年7月10日 13時0分

多すぎる選択肢の中から選ぶのは、後悔と不満のもと!? デジタル化以前のほうが「買い物の満足度」は高かったかもしれない“理由”

Finasee(フィナシー)

今、行動経済学がブームです。

行動経済学は「心理学」と「経済学」が融合した比較的新しい分野の学問です。ビジネスから生活まであらゆる場面で生かせ、行動経済学者のノーベル経済学賞受賞も続いています。最も注目を浴びている学問と言ってもいいでしょう。

長年、ビジネスの最前線で行動経済学を活用してきた橋本之克さんは、「行動経済学を知れば、自分自身の不合理さに気づくことができる」と言います。夫婦喧嘩から保険投資まで、どうして人は合理的な判断ができないのかを橋本さんに解き明かしてもらいます。(全4回の3回目)

●第2回: 「なぜか解約できない…」行動経済学の専門家がサブスクを継続してしまう巧妙な仕掛けを明かす

※本稿は『世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100』から一部抜粋・再編集したものです。

セール商品を追い求めると幸福度が下がる

現実社会は今、情報が溢れるデジタルネットワーク社会です。

調べさえすれば、商品の選択肢は果てしなく広がります。これが便利である一方、満足を阻害する可能性があると考えます。

何か一つのモノを買おうとした時、ネットで様々な商品情報を入手できます。販売しているECサイトが数多くあり、同じ商品でも販売価格が異なります。ショップごとの支払い総額の比較が容易ではありません。

またECサイトごとにタイムセールやキャンペーンがあり、タイミングで価格が異なります。さらに調べていくうちに近所のリアルな店舗で買うほうが、トラブル発生時に安心だと知る、といったことも起こります。ある程度絞れた段階にきたにもかかわらず、欲しい商品の次の機種が近日に発売されるという情報を見つけることもあります。そうなれば結果的に、購入を先延ばしするかもしれません。

こういったことが起きるのは、情報が多いほどに、より良い選択ができるとは限らないためです。情報はいくら集めても終わりはありません。それを基にした選択がベストかどうかもわかりません。とにかく手元に集まった情報の範囲で、「えいやっ!」と購入するのが、買い物の実態ではないでしょうか。そうすると決断の後まで、「もっと安く買えたかもしれない」などと、様々な疑念が消えません。選択に満足しきれない状態で終わってしまいます。

米国の心理学者バリー・シュワルツは、限りない選択肢の中から最高のものを選ぼうとするほど、後悔と不満の連鎖は広がると言っています。合理的意思決定の追求者は、抑うつ度が高く幸福感が低いと主張します。何かを選ぶ時、もし違うものを選んだら、違う結果になったのではないかと想像してしまうからです。さらに選んだ商品が良かったとしても、他を選んだらもっと良い結果が得られたかもしれない、という疑問を抱いてしまうのです。

思えば、限られた数しかない店舗に足を運んで、そこに置かれている商品の中から選んでいたデジタル化以前のほうが、心理的な「買い物の満足度」は高かったかもしれません。何しろ、自分が持たない情報については考慮する必要がなく、それに惑わされることもないのですから。

そもそも、買い物は不合理な選択にならざるを得ないものです。

これから情報の利用に伴う技術と精度が発達する可能性がありますが、現状においては、自分が情報収集や説得に割ける余裕がどれほどあるかを考慮しつつ、満足できる消費を行うのが良いのでしょう。

そこでは「選択の結果」よりも、「選択のプロセス」に自分が満足できることが大事になると考えます。

企業が買い物をコントロールしている可能性

企業が行動経済学を活用して人の購買行動に影響を及ぼすことにより、商品の販売促進を行うケースがしばしばあります。例えば、店頭に並べられた商品、設定された価格、商品スペックの表示などです。

これらの選択肢が、どのように用意されているかによって結果は変わります。人々が大事なお金を、注意深く支払っているつもりでも、無意識に購買行動を誘導されているかもしれません。

例えば、選択肢が二つの場合と三つの場合で選び方が変わるケースがあります。

これを検証するためにダン・アリエリーは、マサチューセッツ工科大学の学生を対象にした実験を行いました。週刊経済雑誌『エコノミスト』の購読に関するものです。対象者は三つの購読プランから一つを選択します。

A:オンライン版の年間購読:59ドル
B:印刷版の年間購読:125ドル
C:印刷版とオンライン版セットの年間購読:125ドル

回答結果は、以下のようになりました。
A:16%
B:0%
C:84%

Bの印刷版と同じ金額で、Cの印刷版とオンライン版のセットが購読できるとなれば、これが魅力に見えるのも不思議ではありません。

次にもう一度、質問します。
A:オンライン版の年間購読:59ドル
C:印刷版とオンライン版セットの年間購読:125ドル

回答結果は、以下の通りです。
A:68%
C:32%

Cのセット購読を選ぶ人が32%に激減します。元々誰も選ばなかった選択肢を外しただけなのですが選択結果は変わりました。これは「アンカリング」の影響を受けていると考えられます。

アンカリングとは、先行する何らかの数値によって、その後の判断がゆがめられ、後から判断された数値がアンカーに近づく傾向のことです。

アンカーは船の錨を意味します。船が錨の周囲しか動けないのと同じように、アンカーの数値から近い範囲で判断を下してしまうのです。

またこの例では「魅力効果」も影響しています。魅力効果とは、対象となる選択肢と同時に、これよりすべての点で劣る選択肢を並べると、対象となる選択肢が選ばれる可能性が高まる効果です。この実験では、Bが「オトリ」となりました。そして魅力効果により、BがCの魅力を高めました。最初の質問におけるBがアンカーです。これがAとCの相対的な評価を歪めました。回答者はBとCを比べることに意識が集中して、Aで十分ではないかという発想に至らなかったわけです。Bがない場合は、純粋にAとCを冷静に評価します。そこで初めて、割安なオンライン版だけで十分という結論に至ったのです。

●第4回は【「高いのにお得に感じる」。必ずしも合理的とは言えないが「日本人が保険好きになった」必然の理由】です。(7月11日公開予定です)。

世界最先端の研究が教える新事実 行動経済学BEST100
 

著者 橋本之克

出版社 総合法令出版

定価 1,650円(税込)

橋本 之克/マーケティング&ブランディング ディレクター/著述家

東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995 年日本総合研究所入社。1998年よりアサツーディ・ケイにて多様な業界の企業に向け、行動経済学による調査分析や顧客獲得業務を実施。昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、戸板女子短大および文教大学で非常勤講師を兼任。主な著書は『今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)、『9割の買い物は不要である』(秀和システム)など。

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