“お騒がせ”イメージはもう古い…!? 「物言う株主」アクティビストとは何者で、何のために“物言う”のか
Finasee / 2024年6月25日 18時30分
Finasee(フィナシー)
「アクティビスト」を一躍有名にしたのは村上ファンド?
「物言う株主」という言葉が世間をにぎわせるようになったのは、かれこれ25年ほど前からでしょうか。1999年、村上世彰氏が設立した「村上ファンド」がその嚆矢(こうし)といっても良いでしょう。
村上ファンドとは、株式会社M&Aコンサルティングや株式会社MACアセットマネジメントといった投資顧問会社グループの通称です。日本証券投資顧問業協会の資料によると、海外の大学財団や、国内ではオリックス、農林中央金庫(農林中金)、石油資源開発などから出資を受け、2006年3月末時点で4444億円の運用資産があったとされています。
しかし、代表者だった村上世彰氏がインサイダー取引の容疑で逮捕・起訴されたことによって、最終的に村上ファンドは解散を余儀なくされました。
村上ファンドの実態は、村上世彰氏の自著である「生涯投資家」に詳しく書かれています。それによると、村上ファンドは「現預金をたくさん保有していたり、財務状況もよく、銀行からの借入余力もあって、直接金融で資金を調達する必要のない企業」をターゲットにして、その企業の株式に投資し、株主としての発言権を高めたうえで非上場化などの提言を行うというものでした。
このように、特定の企業の株式に投資し、大株主として投資先企業の企業価値向上を大義名分として、企業の経営に積極的に関与する投資家のことを、アクティビストと言います。
アクティビストと仕手筋の決定的な違い村上ファンドが活躍した当時、日本においてアクティビストは「いかがわしい連中」という目で見られていました。特定企業の株式を買い占めるという点において、バブル経済の時に華々しく活躍した「仕手筋」のイメージと重なったからでしょう。
ただ仕手筋は、もっぱら自分たちの利益獲得を最大の目的として投機的な売買を繰り返し、株価のつり上げを行います。そこには投資先企業の企業価値向上といった大義名分は全くありません。あくまでも仕手戦に参加した人たちが、株式の売買でもうかれば良いのです。
もちろん、アクティビストが特定企業の株式に投資すれば、その企業の株価は上昇しますが、株式を一定数確保した後、経営に関与するのかどうかという点において、アクティビストと仕手筋は、似て非なるものといっても良いでしょう。
とはいえ企業側からすれば、「アクティビストが株式を買っている」となれば、緊張感が走ります。大株主となったアクティビストから、どのような要求をされるのかが分からないからです。
実際、どういう企業がアクティビストのターゲットになるのかというと、
1.現金をたくさん保有しているキャッシュリッチ企業
2.株価が長期にわたって低迷している企業
3.コーポレートガバナンスが機能していない企業
4.優良資産を潤沢に保有している企業
といったところでしょうか。特に1から3までをよく見ていただきたいのですが、有り体に言ってしまうと、これに該当する企業は、「経営が下手」であり、経営陣の能力が低いとも言えます。アクティビストとしては、こうした企業に経営陣を送り込んだり、さまざまな提案を行ったりして経営を立て直し、企業価値を向上させることを大義名分にしているのです。
もちろん、アクティビストはボランティアではありませんから、どこかで利益を得る必要があります。その利益の源泉は、投資した株式の値上がり益で賄われます。
企業価値が向上すれば、当然のことですが投資先企業の株価は値上がりします。そうなれば、アクティビストは投資した株式を他の投資家に譲渡するか、もしくは株式市場で売却することによって、莫大(ばくだい)な値上がり益を獲得できます。
また、アクティビストが投資先企業を非上場化するケースもあります。抜本的な経営改革を断行する場合、他の株主からの介入を防いで改革を円滑に進めるため、株式を非上場化してプライベート企業にしてしまうのです。
そして経営改革を行い、企業価値が高まったと判断したら、その企業の株式を再上場させることによって、アクティビストは上場益を獲得します。
「日本版スチュワードシップ・コード」によって、意識が大きく変化こうして考えると、アクティビストも決して忌避すべき存在ではないことが分かります。
しかし、中にはこうした仕組みを利用して、投資先企業から利益を搾り取ろうとするアクティビストも存在します。
たとえば現金をたくさん保有しているキャッシュリッチ企業の株式を買い占めた後、増配や自社株買いを要求し、投資先企業が持っている現金を引き出そうとするのです。
この手のアクティビストのターゲットになってしまった企業は、企業価値を向上させるどころか、保有していた優良資産の取り崩しを余儀なくされ、逆に企業価値を下げてしまうことにもなりかねません。企業にとってアクティビストの存在は、もろ刃の剣でもあるのです。
つまり、アクティビストには大きく分けて2つのタイプがあると言えます。
ひとつは、企業からの収奪を目的にして敵対的な買収を仕掛け、投資先企業と真っ向から対立することなどお構いなしに、とにかく利益を得るタイプのアクティビストです。
これに対して、最近徐々に増えているのが、「エンゲージメント」といって、企業と対話や交渉を重ねることで経営体質の転換をはかり、企業と共に企業価値の向上を目指すアクティビストです。
また、企業との対話や交渉を重ねるエンゲージメントに関して言えば、最近はアクティビストに限らず、個人で簡単に購入できる投資信託でも積極的に実施するファンドが増えてきました。
これは良い傾向です。かつて投資信託といえば「物を言わない株主」として知られていましたが、2014年に「日本版スチュワードシップ・コード」が制定されたことによって、意識が大きく変わってきたのです。
アクティビストがよく使う「TOB」とはさて、少し株式投資に関連したことにも触れておきましょう。
アクティビストが企業に投資する場合、多くはTOB(株式公開買付)といって、現在の株価に「TOBプレミアム」と称する上乗せ分を加味した株価を提示して、その企業の株式を保有している投資家から、経営権の取得に必要な株数を確保しようとします。
当然、TOBが発表されれば、実際にTOBが行われる前に株価は動きます。TOBプレミアムが公表されるので、それを加味した株価まで買われて値上がりするのです。
ここで投資家は2つの選択を迫られます。実際にTOBが実施される前提で、TOBに申し込むか、それとも株価が値上がりしたところで市場に売却するか、です。
ただ、TOBが発表されたとしても、交渉次第ではTOB自体が不成立になることもあります。仮に不成立になれば、株価は大きく下落してしまいます。それを考えれば、株価が値上がりしているうちに売却するのが得策とも言えるでしょう。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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