「結婚式に800万」産後に性格が変わってしまった妻…式の費用を借金した夫に対する義実家からの「あり得ない仕打ち」
Finasee / 2024年8月16日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
佑典(33歳)は、地元の名士の娘である莉乃(29歳)と結婚した。子供が生まれてから初めてのお盆、義実家へあいさつに行くと、親戚一同で息子をあやして盛り上がるが、親族の男尊女卑的な「田舎者の価値観」を目の当たりにした佑典は居心地が悪かった。
莉乃は、義実家では円満そうに振る舞っていたが、産後あきらかに性格が変わってしまい、かんしゃくを起こして佑典がつらく当たられることもしばしばあった。
そんなある日、部屋に隠していた消費者金融の督促状が莉乃に見つかってしまい、佑典が内緒で借金をしていたことが発覚する。
●前編:「30になる前に子供生めてよかったな」男尊女卑な田舎の義実家に疲弊した夫が抱える「妻には言えない秘密」
妻に隠れて借金をしたワケ佑典には借金があった。だが、佑典はギャンブルの趣味もないし、他人の連帯保証人になったわけでもない。原因は莉乃との結婚式にあった。顔の広い莉乃のために親戚一同を式に呼ぶことになったのだ。さらに莉乃の一族が裕福だと言うことで、恥をかかせられないとかなり奮発したプランを発注してしまった。
装花を一番高額のものにしてみたり、意味もなくバカラ製のシャンデリアを発注したりなど、とにかく義両親がお金をたくさん出してくれたので、思った以上に豪勢な式になってしまった。当然、莉乃は元々が裕福な家庭で育っていたので、ウエディングドレスなどにもこだわり、特注のものを作り、お色直しのドレスも全てオーダーメードにこだわった。
裕福な義実家には頼りたくなかった特別なことだからと言われ、佑典も安請け合いした結果、式の費用は800万を超えた。ご祝儀などで返ってきたとはいえ、かなり足が出てしまった。それらの額を補うために佑典は妻に黙って消費者金融にお金を借り、こっそりと返済をし続けていたのだ。
もちろん、裕福な義実家に頼ろうかと考えたこともある。しかし、あのつわものたちと今後やり合っていくためには、こういうところで弱みを見せるわけにはいかないと思い、借金をすることにした。その判断が間違っていたとは思わない。顔も知らない康作という男のように、一生見下されることになるはずだ。それだけは避けられて良かったと思う。
しかし、唯一のミスは振り込みをし忘れていたこと。そして消費者金融が迅速に督促状を家に送りつけてきたことだった。だが、これはもう取り返しのつかないこと。考えてもしょうがない。とにかく、この状況をどうにかしないといけない。
佑典はそう気持ちを持ち直した。莉乃は借金があることを認めると、大声で俺のことをなじり倒した。そんな母の怒声に当然、宏太は泣き出す。それでも莉乃は佑典を責め続けた。隠していたことや借金があったことをとにかく怒っていた。
実家へ帰ってしまった妻その怒りのまま、事前に呼び出しておいた義母の運転する車に乗って義実家に帰ってしまった。当然、宏太も一緒だ。誰もいなくなった部屋で佑典は何度か莉乃に電話をかけた。しかし莉乃は出てくれない。
仕方なく実家に電話をかける。出たのは義父の文夫だった。
「佑典くん、借金なんてして。何を考えているんだ?」
「お義父(とう)さん、本当に申し訳ありません。ただ、後ろめたいことではないんです。ですので、きちんと莉乃と話をさせてもらえませんか?」
佑典がそう訴えると、文夫はこちらに聞こえるようにため息をついた。
「佑典くん、借金なんて金のないバカがすることだ。うちの一族はね、金を貸すことはあっても金を借りたことなんて一度もなかったんだよ。それなのに、まさかだよ。キミはウチの家系に泥を塗るようなことをしたんだ」
佑典は話を聞きながら頭を抱える。ダメだ。こちらの事情を聞くつもりはないらしい。
「で、ですが、このままでは……」
「莉乃の気持ちを考えてくれ。あの子はキミに裏切られたんだよ。とにかく借金を返すまで莉乃は帰らないよ。電話しても無駄だから。返済が終わったらまた話をしようじゃないか」
そう言って電話は一方的に切れた。恐らく莉乃も同じ気持ちなのだろう。借金の額は300万。10年かけて返していく予定だった。まさか、10年間もそっちで暮らすつもりか。
「……そんなんで夫婦なんて言えるかよ」
お金に対する決定的な価値観の違いその後も佑典は何度も莉乃に電話をかけた。しかし莉乃はこちらの呼びかけを全く聞いてくれない。それでも佑典は何とか借金を返せるようにと馬車馬のように働いた。
実際、会社での評価は上々で、出世コースに乗っている実感はあった。10年よりは前倒しで返せるようになるかもしれない。しかし、莉乃たちは今月中にでも返済しろと思っているようだ。そんな無理難題を押しつけてくる義父たちに対して、佑典はどんどん気持ちが離れていっているのを感じながら生活を続けた。
莉乃と連絡が取れるようになったのは、家を出て行ってから2週間がたった頃だった。しっかりと話がしたいということで佑典は義実家に呼び出された。いつものように門の前でインターホンを鳴らす。現れた義母はいつもと違って冷たい態度で佑典を中に引き入れた。
そして広い客間で佑典は莉乃と再会を果たす。
「借金は返したの?」
それが莉乃の第一声だった。佑典は首を横に振る。莉乃はしっかりと舌打ちをした。
「借金があったなんて、最初から言っておきなさいよ」
そこから佑典は借金を作った一部始終を語った。これを言えば、莉乃だって分かってくれると思った。しかし莉乃の反応は冷たかった。
「そんな理由で借金なんて作ったの? バカみたい」
「……え?」
「それだったら、うちを頼れば良かったのよ。300万? そんなはした金のために借金なんてして。恥よ、恥。そんな額も払えないのかって、お父さんが恥をかくのよ?」
「でも俺は、自分の力でちゃんと式を挙げたかったんだよ」
莉乃は鼻を鳴らして笑った。
「借金をしてるじゃない。あんたの金じゃないわよ、それ」
「なあ、莉乃。借金をしていることが悪いのか? それとも黙ってたことが悪いのか? どっちなんだ?」
「どっちもよ。由緒あるわが家にとってあんたの借金は汚点なの。そんなのがバレたら、ご近所からなんて言われるか分かったもんじゃないわ」
莉乃や義両親を喜ばせたくてしたことが汚点なのか。そういう風に捉えるんだな。
そう思った瞬間、急速に気持ちが冷めていく。
「じゃあ、どうする? 汚点の俺をそのままにしておくのか?」
「そんなわけないでしょ。離婚するから。宏太のためにもこんな借金を作るような親と一緒に生活させるわけにはいかないわ。そんなの情操教育に悪いから」
「そうか、分かったよ」
佑典は即答した。その瞬間、深く息を吐き出した。
これで離婚。これで他人。そう思うと初めてこの家で呼吸ができた気がした。
当たり前ではない幸せあれから3年の時が過ぎていた。莉乃とは離婚が成立し、今では養育費を払う関係が続いている。借金はすでに完済していた。莉乃との離婚後、仕事にまい進した佑典は大きく出世をして給与が上がったのだ。それにより借金はなくなり、今は養育費だけに集中することができていた。
仕事前にいつものように鏡の前で身だしなみを整える。すると鏡越しに早紀と目が合った。思わず笑みがこぼれた。
「今日は遅くなる?」
「いや、定時で帰ってくるよ」
早紀はうれしそうにうなずいた。
早紀とは1年前に出会い、今、こうして一緒に暮らしている。もちろん、佑典の事情は知っている。早紀には2歳の娘、真理がいて、その子とも生活を共にしている。家族3人での生活は何もかもが楽しい。こんな幸せを自分が得られるとは思っていなかった。
「じゃあ行ってくるよ」
佑典は笑顔で家を出る。
お互いのことを尊重し合えて、なんでも話せる関係が早紀とは築けていた。しかしこれが当たり前ではないことを佑典は身をもって知っている。
こんな幸せを感じさせてくれている早紀たちに感謝しながら、家族を幸せにするために、佑典は身を引き締めて仕事に向かった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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