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S&P500に全振りすれば「FIREなんて簡単では?」と思う人は知らない…見落としがちな“ワナ”

Finasee / 2024年6月28日 18時0分

S&P500に全振りすれば「FIREなんて簡単では?」と思う人は知らない…見落としがちな“ワナ”

Finasee(フィナシー)

約4年前に起きたFIREブームは今も継続中

FIREという言葉が日本に上陸したのは、恐らくですが、2020年3月にダイヤモンド社から「FIRE 最強の早期リタイア術」(クリスティー・シェン、ブライス・リャン著)という本が発売されてからだと思います。この本の発売以来、ある程度の金融資産を貯めて運用し、そこから得られる運用収益で生活するFIREに対する関心が、日本でも一気に高まりました。

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で、日本語に訳すと、「経済的自立と早期リタイア」となります。

この言葉を額面通りに受け止めれば、「Retire Early」、つまり「仕事なんて面倒なことからさっさと離れる」ために、「Financial Independence」、つまり「労働とは違う形、たとえば運用収益によって生計を成り立たせる」ということになります。

ある意味、高齢者になってからのライフスタイルを、できるだけ若いうちから始める、という発想です。

その是非はともかくとして、どうすれば早期リタイアを可能にするだけのキャッシュフローを確保できるのでしょうか。

これについて、前出の著書では「4%ルール」を掲げています。

まず、25年分の生活費を計算します。年間300万円だとしたら、

300万円×25年=7500万円

です。次に、年4%のリターンで、この7500万円を運用します。すると、年間の運用収益は300万円ですから、ひとまず年間の生活費を運用収益によって賄える計算にはなります。

ただ、厳密に言えば、この300万円には税金が加味されていません。日本の場合、基本的に株式を含む金融資産から生じる収益に対しては、20.315%の税金がかかりますから、それ以上のリターンが得られるもので運用するか、もしくは25年分の生活費を、もう少し多めに見積もる必要があります。

あくまでも概算ですが、税引後で年間300万円の収益を得るためには、毎年の運用収益として376万円を生み出す必要があります。7500万円を投資元本とするならば、4%ではなく5%のリターンが必要になりますし、4%のリターンで年間376万円の運用収益を実現しようとしたら、投資元本は9400万円が必要になります。4%ルールを検討する場合は、税金のワナに引っ掛からないようにしましょう。

S&P500で運用した場合のシミュレーション

では、次に4%のリターンを安定的に享受する方法はあるのかどうかを検証してみたいと思います7500万円を元手にして、年5%のリターンを享受し続けられるかどうかを考えてみましょう。

これについては、実際のデータを用いて計算した方が、よりリアルかと思いますので、米国の代表的な株価指数であるS&P500の配当込み、円建てのリターンを用いて計算してみたいと思います。運用期間は2006年から2023年までの17年間です。計算の考え方としては、1年間運用した後の元利合計額から、次の1年間の生活に必要な300万円が税引後の手取りで残るように、376万円を差し引き、残金をさらに翌年の運用に回して、翌年末の元利合計額から再び376万円を差し引き、これを毎年繰り返していきます。

この期間の運用における最大の試練は、2008年のリーマンショックでしょう。この時S&P500は年率で49%のマイナスとなっています。実際、2007年末の時点で、7500万円が8283万3900円まで増えていたのが、2008年の下落によって、4032万7700円まで目減りしてしまいました。

このように一度、大きな下落を食らってしまうと、暴落前の水準にまで戻すのにはかなりの時間を必要とします。

しかも毎年376万円は、リターンが得られようとも、あるいは損失を被ろうとも、運用資産から差し引かれていきます。大きなマイナスを被ったうえに、さらに年間376万円は生活費として自動的に差し引かれていくのですから、暴落前の水準にまで運用資産の評価額を戻すには、長い時間を必要とするはずです。

とはいえ、これもマーケットの勢い次第です。2008年に49%もマイナスとなったS&P500ですが、それ以降は大幅な金融緩和政策もあったおかげで、大きく上昇しました。ちなみに、

2009年・・・・・・30.4%
2010年・・・・・・0.4%
2011年・・・・・・▲3.3%
2012年・・・・・・30.8%
2013年・・・・・・60.8%
2014年・・・・・・30.3%

といった具合です。このように高いリターンが続いたおかげで、毎年376万円ずつを差し引いているにも関わらず、2014年には暴落前の運用資産額を回復しています。

そして、2023年末時点において、7500万円からスタートした運用資産額がどうなったのかというと、1億9080万9300円まで増えています。繰り返しになりますが、毎年376万円を差し引いたにも関わらず、です。

ただ、“運用資産の総額がすべて”という注意点が

このように言うと、「FIREなんて簡単」と思う人も出てくるでしょうが、注意点があるのも事実です。

まず運用資産の総額です。ここでは7500万円を前提にして計算していますが、たとえばこの運用資産総額が4500万円だったらどうなるでしょうか。実は運用資産の総額は増えるどころか、逆にどんどん目減りしていきます。2021年時点では280万7800円まで目減りして、それ以降は赤字です。

なぜそのようなことになるのかというと、毎年の取り崩し額に対して、当初の運用資産の額が小さすぎるのです。いくらS&P500が順調に値上がりして、高いリターンを出し続けたとしても、運用資産の総額が小さければ、そこから生まれる運用収益も額も小さくなります。

結果、引き出し額を全額、運用収益で賄えないため、それでも毎年300万円の生活費を確保しようとすると、「引き出し額>運用収益」の状態が続いてしまい、赤字に転落してしまうのです。

こうしたシミュレーションから考えると、FIREを実現するためには、できるだけ多くの運用資産を積み上げねばならないことが分かります。

FIREの場合、「Retire Early」という言葉が付いているので、つい早期リタイアを前提にしてしまいがちですが、年間300万円の生活費で生きていくのは、決してラクではありません。インフレが進めば、300万円の価値は今に比べて大きく減価してしまうことも考えられます。

もちろん、前出のS&P500のように長期的に高いリターンを継続できている投資対象があれば良いのですが、マーケットが今後どうなるのかは、誰にも分かりません。

その点を考慮すれば、早期リタイアを前提にしたFIREを目標にするのではなく、「生活のために嫌な仕事をしないで済む職業選択の自由を手に入れる」という意味での「Financial Independence」に重点を置き、仕事と資産運用のバランスを取ることが、何よりも大事なのではないでしょうか。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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