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「娘の将来のため別れられないと諦めていた…」モラ夫へ計画的に三くだり半を突きつけた“痛快な手法”とは?

Finasee / 2024年7月12日 17時0分

「娘の将来のため別れられないと諦めていた…」モラ夫へ計画的に三くだり半を突きつけた“痛快な手法”とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

専業主婦の薫(35歳)は、夫から「お前は家でのんびりできていいよな」「俺の稼いだ金でぜいたくしてること忘れるなよ」などと、日常的に言葉によるモラハラを受けていた。

友人に相談しても「2人の娘のことを考えるとねぇ」などと現実を突きつけられた。実際、専業主婦の薫にはこれから中学・高校・大学と進学していくであろう娘たちの将来を満足に支えてやることは難しく、現状は薫が耐えることが最良の選択であるように思えていた。

ある日、いつものように夫に詰められ1人で泣いていたところ、娘たちが心配してやってきた。「ママ、もう無理しないで、離婚したっていいんだよ」と言う娘たちに、驚いた薫は葉が出なかった。

●前編:「飯まだ?」まるで365日無休の家来…モラハラ夫に支配される妻の背中を押した「娘からの信じられない一言」

薫の決意

「離婚? なんでそんなこと言うの」

薫は取り繕うように笑った。耳元では『ふつーに無理だよね』とため息混じりに笑っていた万里子の声がよみがえる。しかし美緒の表情は張りつめたまま、薫へと向けられている。

「だって、ママ、すごく悲しそうな顔で泣いてる」

「ママぁ……泣かないで」

実里は小さな手で薫の洋服の裾をつかんでいた。泣かないでと声を絞りだしてくれた実里も今にも泣きそうな顔だった。薫にはかけがえのない娘たちがいる。この子たちのためなら、薫はどんな理不尽にも耐えられる気がした。

「ゴメンね、2人にまで心配をかけちゃって。でもね、ママ大丈夫」

涙をぬぐって2人の娘を抱きしめる。しかしそれを拒むように美緒が首を振る。

「変だよ。ママ、大丈夫じゃないよ。頑張ってるママが我慢しなくちゃなんないの、おかしいよ。ママをいじめるパパなんて嫌い。見てると私、頭がおかしくなりそうだよ」

美緒が苦しげに言葉をつむぎ、実里が泣き出す。それは薫にとって、誰のどんな言葉よりも鋭く強く心に響くものだった。

自分ひとりが我慢していればいいと思っていた。そうしていれば、娘たちの幸せを守ることができると思っていた。しかし娘たちもまた、傷ついていた。父親によって理不尽に損なわれていく母を見て、その心はきっともうボロボロだった。

「ごめんねぇ、つらい思いさせて、ごめんねぇ」

薫はもう一度、2人の娘を抱きしめる。今度は美緒も実里もこばまず、細いけれどこの世界の何よりも力強い腕が薫の身体を支えてくれる。

「ママね、ちゃんと準備するから。3人で楽しく暮らせるように。だから、もうちょっとだけ頑張ってくれる?」

娘たちはうなずいてくれる。

私の幸せはちゃんとここにあるじゃないか。

薫は2人を離さぬようにきつく抱きしめながら、ある決意を心のうちで静かに固める。

崩れ落ちた夫

半年後、あの日の決意が花開くときを迎えようとしていた。

その日は休日で、美緒と実里には前もって近所の公園で遊んでいるように言いつけてある。家のなかには薫と新吾の2人だけだ。深く息を吐いた薫は、ソファに腰かけながらテレビでゴルフ中継を見ている新吾の視線を遮るように立った。

「どうしたの? 邪魔なんだけど」

「ちょっと話があるの」

新吾は不愉快そうにため息を吐く。きっと以前ならば足がすくんだだろう。しかしあの日、大切な娘たちが流した涙を思えば、こんなものは怖くもなんともなかった。

「大事な話だから」

そう言って薫はテレビを消した。薫が見せた予想外の強行に、新吾は眉をひそめた。

「これにサインしてほしいの」

「……はぁ? 何言ってんの?」

差し出された離婚届に新吾は目を見開く。素早く向けられた新吾の目は、薫が予想していた通り侮るような色を宿している。

「限界なの。もう新吾とは生活を続けていけない。だから離婚してください」

真っすぐに見据えた視線の先で、新吾はこみ上げる笑いを堪えていた。

「いやいやいや、薫はそんなこと言える立場じゃないでしょ? 生活できないでしょ? 離婚したいならすればいいよ。だけど、美緒と実里のことはどうすんの? 娘捨てて、それで母親って言えんの?」

「美緒と実里はもちろん連れてく。3人で新しい生活を始めるの」

高圧的な新吾の視線に押しつぶされそうになる。薫はゆっくり息を吸う。吐く。もう決めたことだった。そのために、この半年間、必死で準備をしてきたのだから。

「いや、だからさ、薫じゃ育てらんないでしょ? 仕事どうすんの?」

「大丈夫。4月から看護学校に通うから。そこで看護師の資格を取って、病院で働く。それなら、美緒たちのことだってちゃんと養える」

「あのさ、看護学校って、誰でも通えるところじゃないんだよ。薫は世間知らずだから知らないかもしれないけどさ。ちゃんと受験をして、合格した人だけが通える――」

「もちろん。受験して合格したから」

薫が事もなげに言うと、新吾は目を丸くする。薫は合格証書見る? と挑発するように追い打ちをかける。

「この半年、ずっと勉強をしていたの」

「……なにそれ。家事をサボりながら、勉強していたわけだ」

「どうせ気付かなかったでしょ? だったら何も言われる筋合いはないよ」

薫はきっぱりと伝えた。高圧的で余裕ぶっていた新吾の表情にも、少しずつ焦りが見え始めていた。

「……金はどうするんだよ? 看護学校だってタダじゃないだろ。入学金は? 学費は?」

「入学金とかいろいろ合わせると初年度は105万くらいかな。3年間でざっと300万くらいかかる感じ」

「そんな金、薫には用意できないだろ?」

「私ひとりじゃ無理だけど、支援してくれる制度だってあるから」

新吾は何かを言い返そうとして口を開き、言葉に詰まる。その一瞬の隙を見逃さず

「自治体が奨学金を貸してくれるのよ。申請をして、毎月5万円を借りることができた。さらにね、専門実践教育訓練給付制度っていうのがあって、給付の条件はあるけど、これを使えば、学費の半分を支給してくれるの。もちろんタダってわけにはいかないけど、この2つを使えば、学費の負担はかなり軽減されるわ」

薫はこの半年間、勉強の合間を縫って、この奨学制度などを詳しく調べていた。新吾の支配から自由になるため、自分と、そして何より2人の娘の幸せのため、ずっと動き続けてきた。

新吾は頭を抱えるように髪をかいていた。

「薫はそれでいいかもしれないよ? 俺が言ってるのは、お前が学校に行ってる間の、美緒たちの生活だから! 3年も通うんだろ⁉ そしたら、美緒はもう高校受験だぞ! どうするつもりなんだよ」

薫は当たり前のようにうなずく。

「ちゃんと考えてる。養育費も払ってもらうし、財産分与だってしてもらう。それでお金が足りないっていうなら、慰謝料だって請求する。家族を守るためなら、私は何だってする」

薫の言葉に新吾は立ち上がる。ついさっきまで新吾を満たしていた余裕は跡形もなく消え去っていて、あれほど抑圧的だった夫の姿は今やもう群れからはぐれてしまった草食動物のように頼りなかった。

「はぁ⁉ お前、慰謝料まで取るって言うのか⁉ お前が勝手に離婚を言い出したんだろ! それでなんで俺が慰謝料なんて払わないといけないんだよ⁉」

「そんなの決まってるじゃん。散々罵声浴びせといて、立派なモラハラだよ」

「いやいや、何の証拠があるん――」

薫はスマホを取り出して、レコーダーを止めた。データ一覧にはこの半年、理不尽な言葉の暴力を受けるたびに記録し続けた100本近いデータがたまっていた。

「ふざけんなよ……!」

素早く動いた新吾は薫の手からスマホを取り上げる。薫が抵抗する間もなく、データはあっという間にすべて消される。

「無駄だよ。全部、バックアップ取ってあるから」

新吾は諦めたように肩を落とし、ソファの上に崩れ落ちる。

「本当にいいんだな? あとで、あとになって後悔したって、俺は知らないからな」

薫は新吾の手からスマホを取り返し、柔らかにほほ笑んでみせた。

「もちろん。後悔なんてしない。私は私たちが幸せになるのを諦めたりしないから」

新しい生活

それから薫と新吾は離婚をした。親権は当然、薫のもの。若干揉(も)めはしたものの、養育費、慰謝料、全ての請求が認められた。薫は慰謝料と奨学金などを使いながら、看護学校に通い、無事に3年後、看護師免許の資格を取得した。

今日はいよいよ看護師としての出勤初日だった。

「ほらほら、何してるの? 早く行こうよ」

小学5年生になった実里が薫に笑いかける。

「どうせ、緊張してるんでしょ?」

高校生になった美緒が冷静に薫の胸中を言い当てる。

2人の娘は薫の手を握る。

「え……?」

「大丈夫だよ。ママなら」

「そうだよ。あんだけ頑張ったんだから」

「ありがとう、2人とも」

薫は思わず天井を仰ぐ。せっかくのメイクが早速崩れてしまいそうだった。

「早くしないと遅刻するよ?」

美緒にせかされて、3人は家を出る。3年前に越してきて、新しい生活を四苦八苦しながら始めた小さなマンション。また今日から、新しい生活が始まる。

「ね、ママ。今日晩御飯何がいい? わたし作ってあげる」

「あたしも作る!」

「えー、ほんと。何がいいかなぁ」

手をつないで歩き出す。きっとこれからも大変なことはあるだろう。養育費や慰謝料をもらっても、お金の問題は常に薫の頭を悩ませる。

でも3人ならきっと大丈夫だ。薫は、この一歩の先に幸せが待っていると、信じている。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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