レーザーテック・東京エレクトロン・SUMCO。世界相手に奮闘する日本企業の実力は?
Finasee / 2024年7月19日 16時0分
Finasee(フィナシー)
ここ数年、投資界隈は半導体銘柄が大きな話題となっています。
2024年6月、半導体大手エヌビディアはアップル、マイクロソフトを抜いて、時価総額世界トップに躍り出ました。生成AI「チャットGPT」が公開されたのは2022年。この短期間に、AIに使われる先端半導体を開発するエヌビディアの株価は約8倍になりました。
日本の半導体関連銘柄であるレーザーテック、東京エレクトロンも日本株をけん引する存在として、話題を振りまいています。次々と国内で新たな半導体工場の建設が進むなか、日本経済の復活のカギを握るのは半導体と言っても過言ではないでしょう。
そこで、かつて世界を席巻した「日の丸半導体」を率い、また没落していく姿を最前線で見てきた元NECのトップ技術者である菊地正典氏に、技術者でなくても知っておきたい半導体を巡る最新事情を解説してもらいます。今回は、世界をリードする日本の半導体関連企業をお伝えします。(全4回の4回目)
●第3回:元NECトップ技術者がサムスン電子・TSMC・エヌビディアの強さの秘密を語る
※本稿は、菊地正典著『教養としての「半導体」』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
レーザーテック 目の付け所で勝負レーザーテック
売上高:連結903億7800万円(2022年) 従業員数:連結448人(単独288人)
レーザーテック(日本)は研究開発に特化した、いわば「ファブライト」タイプの会社です。
レーザーテックは半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)向けの検査装置、計測装置、顕微鏡などの製品を扱っていますが、従業員数に比べて売上高や時価総額から超優良企業であることが伺えます。特に、2019年から始まった最先端半導体を製造するためのEUV 露光技術の普及・拡大に伴い、EUVマスク関連検査装置で業績を伸ばし、当該装置の世界シェアはほぼ100%の独占状態にあります。
EUV露光用のマスクは、ガラス材のマスクブランクスの上に、シリコンとモリブデンの何十層もの多層膜を形成し、それにパターニングを施して作製されます。レーザーテックはEUVマスクの欠陥検査装置やレビューステーション(欠陥観察装置)、パターンの欠陥検査装置、マスク裏面の検査装置、マスククリーニング装置など、EUV用マスク全般にわたる検査・計測を行なう製品を提供しています。今後、EUV露光で作製される5ナノメートル以下の先端半導体製品が数多く開発・量産されていくのに伴って、レーザーテックの検査装置に対する需要がますます増えていくと見られています。
レーザーテックは、自社が培い保有する特定の技術が、半導体の新たなプロセスや構造の変化に伴う動きにうまくマッチした好例といえます。
これは材料メーカーや部品メーカー、あるいは装置メーカーを問わず、半導体の新たな進展とその方向性を絶えず探り、そして半導体の新たな構造やプロセスに必要とされる技術を絶えずウォッチングしながら、それに適合性の高い自社技術を掘り起こし、磨いておくことの必要性・重要性を感じさせる良い例といえます。
従業員数が300人以下の小さな企業が、半導体プロセスにおける検査・計測技術のトップランナーであるKLAテンコール(アメリカ)を向こうに回して奮闘している姿を見ると、会社は規模ではない、目の付け所だと思わずにはいられません。
東京エレクトロン 代理店から製造業へ東京エレクトロン
売上高:連結2兆38億500万円(2022年) 従業員数:連結1万7204人
東京エレクトロン(日本)は半導体製造装置メーカーとして世界シェア第3~4位、日本メーカーの中では断トツでトップの地位を占めています。どちらかといえば、アメリカのAMATに似て、多くの装置分野をカバーしていて、コーター・デベロッパー(感光剤の塗布・現像を行なう装置)などでは世界トップメーカーの地位にあります。
東京エレクトロンの企業としての特徴は、「代理店→製造業」と転身した、実に稀有な成功例をもつ企業だという点です。
もともと東京エレクトロンは、総合商社(日商岩井、現在の双日)出身の久保徳雄氏と小高敏夫氏が、TBSの全面的支援のもと、たった6名の社員とわずか500万円の資本金で「東京エレクトロン研究所」としてスタートしたベンチャー企業でした。当初はVTRやカーラジオなどの輸出とエレクトロニクス機器関係の輸入などの業務を手掛けていました。
そして1970年には半導体製造装置の国産化と自社生産体制を確立し、1978年に現在の東京エレクトロン株式会社に商号を変更、1980年には上場を果たしました。
わずか60年の間に超優良な大企業に成長できたのは、創業者や歴代の経営者、さらに社員として加わった従業員の熱意やベンチャー精神の賜物に他ならず、同時に大株主としてTBSが果たしてきた役割に負うところも少なくなかったでしょう。
こうして見てくると、東京エレクトロンは、当初はエレクトロニクス機器の代理店という形でスタートしながらも、その代理店ビジネスの中でエレクトロニクスや半導体を習得し、さらにユーザーとの触れ合いの中で得た経験やノウハウをモノづくりに生かしながら「代理店」から「製造業」への業態転換をうまく成し遂げ得た例といえるでしょう。
また東京エレクトロンは、外部に対し、アメリカなどの外国企業に近いオープンな姿勢や雰囲気をもった会社で、新しいモノには積極的に臨み、働きかけ、そこから何かを得ようとする傾向が強い会社と見受けられます。
それは、ベルギーのルーベン市に本部を置く「IMEC」(Interuniversity Microelectronics
Center:国際研究機関)やIBMが主導するニューヨーク州アルバニーの最先端半導体研究開発拠点「Albany Nano Tech Complex」に、日本企業としていち早く参加したことにも現れています。
SUMCO
売上高:4410億8300万円(2022年) 従業員数:連結8469人
SUMCO(日本)は信越化学工業に次ぐ、世界第2位のシリコンウエハー・メーカーです。
1937年に大阪特殊製鉄所としてスタートし、その後何度も合併などを繰り返してきました。1952年には大阪チタニウム製造株式会社、1993年には住友シチックス株式会社、1998年には住友金属工業株式会社のシチックス事業本部、2002年には三菱マテリアル・シリコン株式会社と合併して三菱住友シリコン株式会社に、2005年には株式会社SUMCOに商号を変更し、現在に至っています。さらに2006年にはコマツ電子金属株式会社を公開買い付けで子会社化しました。
筆者は現役時代、シリコンウエハーに関していうと、信越化学工業、SUMCO(大阪チタニウム製造の時代から)、コマツ電子金属、さらに一時期は新日鉄シリコン(2003年にドイツの会社に売却される)の各社とそれぞれ付き合いがありました。信越化学は当初からあまり変わらない感じでしたが、他のメーカーは互いに競合する過程でSUMCOが勝ち残った印象をもっています。
余談になりますが、新日鉄が新日鉄シリコンという会社を興し、シリコンウエハーの製造に進出した当時、新日鉄シリコンの担当者などと話をしていると、「鉄で冠たる地位を築いてきた我々に、シリコンができないわけがない」との気概(自負)のようなものを感じたことがありました。
この例に限らず、いくら超大企業であり、多数の優秀な技術者・人材を擁し、ある特定の技術分野で世界一と優れていたとしても、業態の異なるビジネスに進出して成功するのは至難の業と感じさせられるのです。
2023年7月には、政府(経済産業省)が我が国の半導体産業の復権に向けて打ち出した「半導体戦略」の中で、半導体素材産業強化策の一環として、SUMCOの新工場へ最大750億円の支援を行なうと発表されたのは記憶に新しいところです。
この政府支援により、現在シリコンウエハー・メーカーとして、世界トップの信越化学工業としのぎを削っているSUMCOの状況に何か変化が生じるのでしょうか。SUMCOはシリコンウエハー単品の企業であるのに対し、信越化学工業は総合化学メーカーの大手であることが、政府のSUMCO支援に何か影響があったのか、興味を惹かれます。
教養としての「半導体」著書 菊地正典
出版社 日本実業出版社
定価 2,200円(税込)
菊地 正典
1944年、樺太生まれ。1968年、東京大学工学部物理工学科卒業。日本電気に入社して以来、一貫して半導体デバイス・プロセスに従事。同社半導体事業グループの統括部長、主席技師長を歴任。日本半導体製造装置協会専務理事を経て、2007年8月から半導体エネルギー研究所顧問。著書に『〈入門ビジュアルテクノロジー〉最新 半導体のすべて』『図解でわかる 半導体製造装置』(日本実業出版社)、『IoTを支える技術』(SBクリエイティブ)、『半導体工場のすべて』(ダイヤモンド社)など多数。
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