鋭く光る税務署の目 新紙幣流通であぶりだされるタンス預金
Finasee / 2024年7月3日 7時0分
Finasee(フィナシー)
多くの人を引き付けてきたタンス預金の4つの魅力
タンス預金とはいわば比喩表現で、タンスや押し入れ、金庫など家庭内で保管しているあらゆる現金のことを指します。金融機関などに預けず、あえてタンス預金として保有しておくことには、大きく分けて4つのメリットがあります。
まず、金融機関の破綻から資産を守れます。銀行にはペイオフという制度があり、銀行破綻時に預金額1,000万円までは保証されますが、超えた部分は失う羽目になるのです。一方、タンス預金であれば金融機関の破綻を気にする必要がありません。
また、いつでも入り用なときにお金を使えます。金融機関に預けていると、窓口やATMの営業時間外ではお金を引き出せませんし、窓口での使途確認やATMの限度額などにより多額の現金の用立てには不便なこともあります。
さらに、口座凍結の心配がない点もメリットでしょう。銀行預金だと、口座の名義人が亡くなったことが金融機関に知られたらお金を引き出せなくなり、遺産分割協議を経て所定の手続きをするまで凍結されます。一方タンス預金であれば、遺族であっても使いたいときにいつでも使えます。家族が亡くなった直後は葬儀や遺品整理などでなにかとお金が必要ですから、凍結の心配のないタンス預金は便利と言えるでしょう。
そして、タンス預金のなによりの特徴が秘密性です。国は法令に基づき、税務調査などで個人の預金口座を特定・確認できます。しかし、タンス預金は当然ながらこの限りではありません。
メリット以上に大きいデメリットもっとも、タンス預金には先述のメリット以上に大きなデメリットがあることには留意しておきたいものです。まず、タンス預金は盗難や火事、地震などによって滅失してしまうリスクがあります。金融機関の破綻よりも断然高い確率で資産を失うリスクがあると言えるでしょう。
また紛失してしまうリスクもあります。タンス預金をしていた本人が肝心の保管場所を忘れてしまうこともあるでしょうし、保管していた本人が亡くなってしまえば遺族が気付かないまま遺品や不用品に紛れて廃棄・処分されてしまう恐れもあります。
さらに秘密性の高さゆえに、遺産分割で大きな火種になるリスクもあります。タンス預金はその存在や合計残高を証明する手段がないため、相続人の間でタンス預金の有無や金額を巡ってもめ事につながることは珍しくありません。
最大のリスクは相続税申告そして最も深刻なのが相続発生時の課税リスクです。タンス預金も言うまでもなく相続税の課税対象ですので、しっかり財産として申告する必要がありますが、管理していた本人以外が見つけにくいのがタンス預金の特徴です。そのため、相続税申告後になってから新たにタンス預金が見つかり、遺産分割協議のやり直し・修正申告をしなくてはならないケースも多いのです。
修正申告を余儀なくされた場合、増えてしまうのは手間だけではありません。相続財産の増加分に応じて新たに納税する必要がありますし、申告期限から修正日までの日数に応じて延滞税も支払わなければならないのです。
「どうせバレないだろう」は禁物!「どうせバレないだろう」とタンス預金の相続税申告を怠る人もいますが、これについては声を大にして「ダメ!絶対!」と言わせていただきます。なぜならタンス預金は高確率で税務署にバレてしまうからです。
そもそも税務署は、相続税の調査対象者選定にあたってかなり精密な計算をしています。具体的には、過去の確定申告や給与のデータをもとに「これくらいの稼ぎがあった人が〇歳まで生きれば、これくらいの財産はあってしかるべき」という数値をはじき出した上で、その数値よりも資産額が大きく下回っている先に調査に入るようにしているのです。つまり、申告からもれているタンス預金額が多ければ多いほど、調査対象に選定されやすくなります。
そしていったん税務調査が始まれば、税務署は過去何年もさかのぼって銀行口座の出金記録を調べ上げます。使用目的が不透明な出金が見つかれば、タンス預金として保管されている可能性を追及します。銀行などに照会をかけて家族の口座もチェックします。
以上のような調査で外堀を埋めていき、タンス預金の存在の確証を得たら、あとは所在を突き止めるだけです。税務署の相続税担当者は、長年の経験から「タンス預金のありか≒現金の隠し場所」について精通しています。タンスや押し入れ、床下、土中、天井裏、仏壇、布団・座布団、衣類などありとあらゆる場所を徹底的に調べますし、調査対象者のちょっとした顔色の変化も見逃しません。「多額のタンス預金は隠しきれないものだ」と心得ておくべきでしょう。
新紙幣発行であぶりだされるタンス預金ただでさえ税務署の厳しい目が光っているタンス預金ですが、新紙幣発行によりこれまで以上に「あぶり出し」が進むことになるでしょう。タンス預金している旧紙幣は、新紙幣の普及とともにいずれはATMで読み取られなくなるなど「時代遅れ」になります。将来、時代遅れになった多額の旧紙幣を金融機関に持ち込んだり、不動産購入に充てたりしようとすれば「このお金の出どころは?」と怪しまれることになります。そこで今後、タンス預金をしていた人たちは、新紙幣に交換するためタンス預金を銀行に持ち込むなどの対応を取らざるを得ないというわけです。
繰り返しになりますが、そもそもタンス預金は保持しているメリットよりもデメリットのほうが何倍も大きいです。また利回りも得られず、インフレにも弱く、投資にもならないタンス預金は「生きた資産」にはなりません。足元でインフレが進み、「金利のある時代」に突入する今、なおさらデメリットは大きくなっていくでしょう。ぜひ新紙幣発行となったこのタイミングで、タンス預金の扱い方を考えてみてください。
木村 聡子/税理士
1991年法政大学法学部法律学科卒業。会計事務所勤務を経て1998年税理士登録。現在はコルディアーレ税理士事務所の代表税理士として主に相続関連の案件に従事。また経済・マネー系メディアや税務専門新聞などで税務・会計の記事を多数執筆。YouTube「サラリーマンのための相続ちゃんねる」でも情報配信中。
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