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「信じてもいいのかな」かき集めて預けた500万円が水の泡…女性の警戒心をなくした詐欺師の「魔法の言葉」

Finasee / 2024年7月11日 12時0分

「信じてもいいのかな」かき集めて預けた500万円が水の泡…女性の警戒心をなくした詐欺師の「魔法の言葉」

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

坂口結菜さん(仮名)は東京都在住の30歳の女性です。子供の頃から“しっかり者”と評判で、ご両親からは「結菜は石橋をたたいて壊す」と言われるほどだったそうです。

ある時友人と女子限定の投資セミナーに参加し、会場で知り合った数人と連絡先を交換しました。そのうちの1人が金井さんでした。

その後、坂口さんは金井さんとやり取りを重ねるうちに、彼女のことをすっかり信用するようになります。ある時、金井さんに誘われおしゃれなワインバーで話をしていたところ、「ところで、結菜ちゃんは保険に興味ない?」と尋ねられました。

●前編:【慕っていた先輩にバーへ呼び出され…まんまと500万円を奪われた女性が「猛烈に後悔していること」】

投資に詳しい金井さんを信用していた坂口さん

ウェブ広告を扱うIT企業に勤務する私は、物事をきちっとしないと気が済まない性格で、子供の頃から“しっかり者”と言われてきました。

そんな私が新NISA(少額投資非課税制度)をきっかけに投資に興味を持ち、友人と一緒に出掛けた投資セミナーで出会ったのが、保険代理店に勤務する2歳年上の金井さんです。

会場でLINEを交換した後、金井さんから頻繁に連絡が入るようになりました。投資に詳しい金井さんは、私が新NISAの口座開設をどこの証券会社にするかとか、どんな投資信託に投資したらいいかを相談すると、その都度、実に的確なアドバイスをくれました。そうした事情もあって、私は、金井さんのことをすっかり信用してしまったのです。

ですから、そんな金井さんから「飲みに行かない?」と誘われたら、断る理由がありません。

保険だけではなかった勧誘の内容

金井さんが指定したのは、超絶おしゃれなワインバーでした。周りは、モデルのようにきれいな女子のグループや、高そうなスーツを身に着けたイケオジばかりです。

しばらくは投資や会社の話で盛り上がり、おいしいワインや料理に夢見心地になった頃、金井さんがこんなふうに尋ねてきたのです。

「結菜ちゃんは保険に興味ない?」

金井さんが私にいろいろ良くしてくれるのは、保険の勧誘をしたいからだろうなとはうすうす感づいていました。それが仕事なのですから、ある意味当然です。

私自身、生命保険に加入していなかったこともあり、お世話になった金井さんのお役に立てるなら、契約をしてもいいかなと考えていました。

しかし、金井さんが持ち掛けてきたのは、単なる保険契約だけではありませんでした。

金井さんの会社は保険の代理店だけでなく、AI(人工知能)やビッグデータを活用した金融サービスなど、金融関連の業務を複数扱うベンチャー企業のようでした。社長はベンチャー界でも顔の広いやり手で、新NISAによる投資ブームを業務拡張のチャンスと捉え、資金調達のために「私募債」を発行することになったのだそうです。

「私募債は普通の社債とは違って、選ばれた投資家しか買えないの。でも、社長が『うちで保険を契約してくれている身元のしっかりした人なら引き受けをお願いしてもいい』って言うの。償還は5年後、年20%くらいの利息を想定していて結構お得だから、結菜ちゃんにも声をかけてみようと思ったわけ」

確かに、20%の利息は魅力的でした。新NISAの積み立てをしていても、それだけのリターンが得られるとは限りません。しかし、こちらは債券ですから、5年間持っているだけで利息が手に入ります。

“魔法の言葉”にだまされて大金を振り込んでしまう

ただ、最初はお金がかかるとのことでした。まず、投資も兼ねた外貨建ての一時払い終身保険の保険料が200万円、さらに私募債の最低引受額が300万円。私にとっては大金です。

それでも、金井さんから「投資って結局は情報。本当に有利な情報はアンテナの高い人のところにしか入ってこないの。結菜ちゃんは投資のこと一生懸命勉強しているし、うちの私募債がどれだけお得かっていうのも分かってくれると思うから、こうして話をしてるのよ」などと言われると、次第に「これはすごいチャンスだ」と思えてきました。

念のため、金井さんがトイレに立った隙にスマホで金井さんの会社のアドレスを検索すると、金井さんが言った通りの業務内容が記載されていて、30代後半くらいのイケメン社長が激アツなメッセージを寄せていたので、これは信じてもいいのかなと思ったのです。

翌週早々には保険の正式な提案書と私募債の案内を受け取り、1週間後に契約に至りました。貯金全部をかき集めても300万円に届かなかったので、残りは両親から借りることにしました。両親にも事情を話し、「5年後には利息を付けて返すから」と頼むと、「銀行に預けるよりよっぽどお得じゃない!」と喜んで貸してくれました。

しかし、500万円を振り込んだ後、金井さんからの連絡がぷつりと途絶えたのです。最初は忙しいのだろうと思っていました。それが、やがて電話が通じなくなり、ネットニュースで20代の男性が私と同じようなシチュエーションで詐欺被害にあったという記事を読むに至って、「これはマズイかも」と思いました。

勤務先に電話するも在籍していないことが判明

慌てて金井さんの勤務先に電話すると、「金井という従業員は在籍しておりません」と言われました。私募債についても、「発行はしていますが、そもそも、一般の方に販売することはありません」とすげない対応でした。

すぐに警察に連絡を入れました。すると、先のニュースに出てきた男性も金井さんを通して保険の契約や私募債の購入をしていたことが分かりました。

やられた! と思いました。しかし、あまりに鮮やかなというか自然な手口に、自分が被害にあったと納得するまでしばらく時間がかかりました。

お金を借りた両親に隠しておくわけにはいかず、報告すると、「『石橋をたたいて壊す』結菜をだますんだから、金井さんって人は相当なやり手だね」と妙な慰め方をされました。

金井というのは偽名だったようです。警察は本名も把握していますが行方はつかめず、振り込んだお金もすぐに他の金融資産に移されていたようで、今のところ、お金を取り戻すメドは立っていません。

皮肉なことに、金井さんから勧められた新NISAの投信の残高は順調に増えています。

これで満足しておけば良かったのに、欲をかくからこういうことになったのです。「アンテナの高い人」なんて言われていい気になって簡単に大金を預けてしまうなんて、どこが“しっかり者”なんだよ……。

警察の人から、ここ数年Z世代やY世代の詐欺被害が急増していると聞きました。私のような被害者が今後1人として増えないことを祈るばかりです。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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