「エヌビディア」ブルベアETFが日本でも購入可能に。上場から約4倍上昇など“夢もある”一方で注意点も…
Finasee / 2024年7月9日 18時30分
Finasee(フィナシー)
一躍「旬の銘柄」になったNVIDIA(エヌビディア)
台湾で生まれたジェンスン・ファン氏によって立ち上げられた米国の半導体メーカー、NVIDIA(エヌビディア)。半導体のなかでもGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)といって、リアルタイム画像処理に特化した演算装置を主に製造している会社です。投資に興味を持っている人なら一度は耳にしたことのある会社名でしょう。
この会社が株式市場で話題になったのは、2024年1月期決算の数字が前期比で大幅に伸びたからです。売上高で2.26倍、当期利益で6.8倍にもなりました。結果、今年の1月2日時点では48ドルだった株価が、6月20日には一時140.76ドルまで上昇しました。およそ半年で約3倍の株価上昇です。
このように急激な株価上昇を目の当たりにすれば、当然、投資家は色めき立ちますし、それは商品を組成する運用会社や、証券会社も同じです。たとえば「NVIDIAなど米国のマグニフィセント7を中心に組み入れて運用するファンドが登場しました」といったセールストークで販売できるプロダクツを急きょ組成して、投資家に買わせようとします。
原資産をNVIDIA株とする、ブルベアETFが日本でも取引可能にSBI証券が6月14日から、外国株式の取引口座を通じて売買できるようにした、「Direxion デイリーNVDA株ブル2倍ETF」と「Direxion デイリーNVDA株ベア1倍ETF」もそのひとつです。
どちらも米国のNASDAQ市場に上場されているETFで、SBI証券を通じて日本国内からでも売買できるようになっています。
両ETFの特徴について簡単に説明しておきましょう。
「Direxion デイリーNVDA株ブル2倍ETF」はレバレッジ型ETFに分類されます。レバレッジとは、原資産の値動きに対して数倍の値動きをするETFのことです。「デイリー」は、今日の値段の前日比に対して、2倍の値動きになるという意味です。
一方、「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」は、1倍なのでレバレッジはかからず、原資産の前日比の値動きに対して、それと同率で「逆方向に」値段が動きます。つまり、前日比でNVIDIAの株価が2%上昇した場合、ベアETFの取引価格は2%値下がりするのです。ちなみに両ETFとも「原資産」はNVIDIAの株式です。
これで何となく、両ETFの使い方が見えてきたのではないでしょうか。ブル2倍ETFは、NVIDIAの株価がどんどん上昇している時にその効果を最大限に発揮するのと共に、ベア1倍ETFはNVIDIAの株価が下落に転じた時、リターンを得られます。
レバレッジ型には注意が必要、どんな人に向いているのかこうして説明を聞くと、「NVIDIAの株価が値上がりしても、値下がりしても収益を得るチャンスがある」ように思えてくるのではないでしょうか。実際、同ETFの説明サイトでも、「積極的に値上がり益を狙える&下落局面でもリターンを狙える」と書かれていますが、その意味をしっかり見極めなければなりません。
確かに、値上がり局面でも値下がり局面でも利益を狙うことはできますが、それは自分の選んだETFの特性通りに、NVIDIAの株価が動けば、と言う前提が必要だということです。
グラフを2点、用意しました。「DirexionデイリーNVDA株ブル2倍ETF」と「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」の取引価格と、原資産であるNVIDIAの株価を比較したグラフです。いずれも、両ETFがNASDAQ市場に上場された2023年9月13日の値段を100として指数化しています。
筆者作成筆者作成
そして現在に至るまでの間、NVIDIAの株価は上昇トレンドを続けました。特に今年に入ってからは、好決算を受けて株価が急騰しているのを確認できます。
もしこの時、「もういい加減、NVIDIAの株価も下げに転じるだろう」などと考えて、「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」を選んで購入していたら、どうなったでしょうか。2023年9月13日時点を100とした場合の、「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」の取引価格は、2024年7月3日時点で30.87まで下落しています。つまり70%弱の損失を被ったことになるのです。
確かに、NVIDIAの株価が上がっても、下がっても収益を得るチャンスはありますが、選択を誤れば、これだけの損失を被るリスクがあることを、忘れてはいけません。
とはいえ、「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」はレバレッジが掛かっていない分、値下がりリスクは、マーケットの値上がり率相当が逆に作用するだけですから、株価の上昇率が高くなければ、実はそれほどでもないと考えることはできます。「DirexionデイリーNVDA株ベア1倍ETF」の取引価格が、この半年で70%弱も下がったのは、たまたまNVIDIAの株価が、この半年で急上昇したというだけに過ぎません。
本当の意味でリスクが高いのは、目下、好成績を収めている「DirexionデイリーNVDA株ブル2倍ETF」の方でしょう。
このETFはレバレッジ型といって、原資産の値動きに対して2倍、取引価格が動きます。だからこそ、NVIDIAの株価が直近の高値をつけた6月18日にかけて、同ETFの取引価格も急騰したのです。
ちなみに、同日にかけて原資産であるNVIDIAの株価は、2023年9月13日から198.04%上昇しました。そして、この間に「DirexionデイリーNVDA株ブル2倍ETF」の取引価格は、435.20%も上昇しています。2倍といっても、実際には原資産の値動きに対して2.2倍上昇したことになります。レバレッジ型の場合、前日と当日の上昇・下落率に対して2倍のレバレッジが掛かるため、ある程度、長めの期間で見ると、この手の誤差が生じてしまいます。これはレバレッジ型ETFの商品設計上、仕方がないことです。
そして、一番のリスクは下げに転じた時です。NVIDIAの株価が直近最高値をつけた6月18日から、直近安値をつけた6月24日までの間、株価は12.9%下落しているのですが、「DirexionデイリーNVDA株ブル2倍ETF」の取引価格は、24.8%も下落しました。
上昇局面では2倍のレバレッジ効果を活かして大きなリターンが得られるのですが、逆に株価が下落局面に入ると、この2倍のレバレッジがマイナス方向にも作用してしまうのです。これがレバレッジ型ETFの最大のリスクです。
正直、これだけ大きな値動きのあるレバレッジ型ETFを長期投資の対象にするのは、なかなか難しいと思います。そもそも、たったの4営業日で24.8%も値下がりするような投資対象を、平然と持ち続けられるのは、よほどのリスク耐性を持っている人か、多少の損失ではビクともしないほど大きな資産を持っている人のいずれかでしょう。もし、そのいずれにも該当しないのであれば、一切手を出さないか、出したとしても短期の値上がり益狙いで買うのがお勧めです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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