大荒れ見込みの2024年マーケット 今こそ再評価すべき長期運用
Finasee / 2024年7月16日 7時0分
Finasee(フィナシー)
フランクリン・テンプルトン・ジャパン
代表取締役社長 髙村 孝氏 運用のコアには米国地方債や戦略が豊富なオルタナティブを
――まずは、グローバルの金融市場を取り巻く状況について教えてください。
これまで以上に難しいマーケットになってきたという印象です。世界の経済成長率はコンセンサスを下回りインフレ率は高止まりすると想定していますが、地政学的リスクの顕在化やドル円相場の変動などさまざまな不確実要素が山積しており、今後の地合いを見通すのは容易ではありません。
とりわけ重要なトピックは、国内外の金利動向です。日銀の金融政策修正によって日本国内が「金利のある世界」に変わっていく一方で、米国では段階的に利下げが進む見込みです。投資家への影響としては、株式のボラティリティが高まって不透明さが増してくる中で、着実に利回りが確保できる債券の安定感が際立つようになるのではないかと見ています。
――複雑なマーケットの中で、貴社はどんな投資先に注目していますか。
大きく分けて、米国地方債とオルタナティブ資産の2つが挙げられます。
まず米国地方債は、堅実にリターンを稼ぐためのいわば「運用の基本線」としてお勧めできます。一般的に投資適格社債よりもスプレッドが大きく、高止まりする為替ヘッジコスト以上の利回りが期待できるからです。またデュレーションが長期化しやすい特性上、昨今のような長期金利が低下する局面では価値が高まり、キャピタルゲインの獲得も望めます。さらに、マーケットが厚く信用力も高いという特長もあります。
オルタナティブ資産については、プライベートエクイティやプライベートデット、不動産、ヘッジファンドなど多くの種類があり、投資家のニーズに合わせて多様な戦略をカスタマイズできるのがメリットです。
もっとも、戦略を選ぶ上で大切なのはリスクの解像度を上げておくことです。「どのようなリスクをとるのか」「そのリスクをどこまで許容できるのか」といった要点を明確にできているのであれば、インド株やテックファンドのようなハイリスク・ハイリターンな投資先を選ぶこともできるでしょう。そして目先のリターンに一喜一憂するのではなく、長期的な目線で投資する姿勢も、市場の不確実性が増す中でこれまで以上に重要になってくると思います。
傘下の11社が等しく継承するFTグループの「長期投資DNA」――長期目線での運用は、まさに貴社の強みになっていると聞きます。
長期目線で運用する姿勢は、いわばFTの「企業文化」として根付いていると思います。1947年の創立以来多くの運用会社を傘下に迎えてともに成長して来られたのは、グループ各社の単年度の業績や一時の流行にとらわれず、グループ全体で収益のバランスをとってきたからです。またFTの4代目となる社長兼CEOを務めるジェニー・ジョンソンに経営哲学を聞いたところ、「何より優先しているのは、『子や孫など次世代に恥ずかしくない会社にするため何を成すか』という長期的スタンスだ」との答えが返ってきたのも印象的でした。
長期目線の運用はFTの資本構造にも支えられています。FTは発行済み株式の多くをオーナー一族で保有しているため、ニューヨーク証券取引所の上場企業でありながらも、毎年の決算に大きく左右されることなく経営できるのです。つまりオーナー企業の柔軟性と上場企業の資金力を併せ持つ、ハイブリッドな経営と言えるでしょう。
以上のように、長期目線での運用力強化に専念できる体制がFTの強みですし、他社と大きく差別化できるポイントですね。
――傘下にはどのような運用マネジャーがいるのでしょう。
直近では今年1月に、米老舗運用会社のパトナム・インベストメンツを買収しました。パトナムは2023年11月末時点で1420億米ドルの運用資産を有する名門で、確定拠出年金や保険といったリタイアメント市場に強みがあります。
ほかにもプライベートエクイティのレキシントン・パートナーズ、非上場不動産のスペシャリストであるクラリオン・パートナーズや、ファンド・オブ・ヘッジファンズに特化したK2アドバイザーズ、世界有数の債券運用会社であるウエスタン・アセットなど、グループ傘下には11もの運用マネジャーを擁しており、また、FT内にも多数の運用チームが存在しています。
そしてそれぞれのマネジャーが、等しく長期的な目線で運用を行っています。どんなに優れた戦略であっても、ずっと好リターンを出し続けられるわけではありません。そこでFTでは一時的な流行り廃りに左右されないよう、グループ各社に単年の収益ノルマなどを課さず、グループ全体で利益をカバーし合える体制にしているのです。
――国内のリテールに対する期待と課題についてお聞かせください。
まず期待できる点として、個人投資家の投資機運がこの数年で大きく高まりました。2020年のコロナ禍をきっかけに非対面で投資できるネット証券がいっそう普及しましたし、今年から始まった新NISAも資産運用を後押ししています。
ただ投資機運が高まったと言っても、「全世界株式(オール・カントリー)」の投資信託ばかりに注目が集まっているのも実情です。もちろんオール・カントリーも有力な投資先ではありますが、最適な運用方法は個人のニーズや年齢など様々な要因によって変わります。個人個人に適した投資先を見つけることは、まさにわれわれのような金融におけるプロフェッショナルが本来担うべき役割であり、これから業界全体で取り組むべき課題と言えるでしょう。
――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
FTは世界トップクラスの運用体制を敷いています。投資家のあらゆる要望に応じることのできる多様な戦略を自前で持ち合わせていますし、拠点数も30カ国以上に上ります。
今後のマーケットを見通すと、あらゆる投資家が好むと好まざるとにかかわらず、「金利のある世界」に何らかの対応を余儀なくされるでしょう。FTは75年以上培ってきたノウハウや世界に広がる情報網、戦略のカスタマイズ能力などを生かし、長期目線でお客様のポートフォリオ全体のエンハンスメントを目指すソリューションを提案していきます。
オルイン編集部
「オルイン」は、株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の機関投資家向け「運用情報誌」。2006年の創刊以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。
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