「夫が喜んでくれたから」プチ整形がきっかけでエスカレート、元の顔に戻れなくなった女性の「痛すぎる代償」
Finasee / 2024年7月19日 17時0分
Finasee(フィナシー)
「それじゃあ、彩花。行ってくるよ」
夫の進が玄関先でほほ笑む。彩花はわずかに曲がった進のネクタイを直してあげる。
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「あぁ、今日も早めに帰ってくるよ」
「うん、待ってる」
彩花は幸福感に浸りながら、進が会社に行くのを見送った。近頃の進は、驚くほど彩花に優しい。家を出るときに言葉を交わすことなんて新婚のとき以来だったが、ここ数週間ですっかり習慣化している。加えて会社帰りに同僚と飲みに行くことも少なくなり、残業がない日は真っすぐ家に帰ってきて彩花と一緒に夕食をとるようになった。
心なしか視線が合う回数も増えた気がする。以前はバッサリ髪を切っても何も言わなかった夫が、彩花がネイルを変えたことに気付いて褒めてくれたときは、さすがに驚いた。それだけ彩花に関心を持つようになったということだろう。
進の態度が変わった理由は分かっている。それは彩花がきれいになったからだ。彩花は少し前にプチ整形でヒアルロン酸注射の施術を受けていた。気になる顔の小じわにヒアルロン酸を注入してもらった。彩花はこれまで自分が美容クリニックに行くなんて考えたこともなかったし、40代半ばの自分は場違いですらあると思っていた。そんな彩花がヒアルロン酸注射に興味を持ったのは、友人・舞衣子の一言がきっかけだった。
「彩花も一回打ってみたらいいんじゃない?」
まるで「新作スイーツを食べに行かない?」とでも言うような軽い調子で、美容整形の話題を振ってきたのだ。舞衣子は大学時代からの友人で、同級生の間では若々しいと評判で、SNSで細々と美容についての情報を発信するインフルエンサーでもあった。
最初は「整形なんて……」と友人の誘いを断った彩花だったが、ヒアルロン酸注射の効果が一時的なものであることや、ダウンタイムも短いことが決め手となり、彩花は湧いてきた興味を抑えられなくなったのだ。
施術から1週間ほどで、完全に腫れが引いた自分の顔を見たときの感動は言葉では表しがたいものだった。加齢とともに濃くなっていた目尻の小じわやほうれい線がほとんど目立たなくなっていたし、涙袋にも注入したことで以前より若々しい顔を手に入れた彩花は、天にも昇るような気分だった。
それが彩花の自己満足でないことは、夫の進をはじめ周囲の人たちの反応が証明していた。周囲からの称賛が、施術を受けた自分の決断が正しかったことを彩花に確信させた。
薄れゆく効果しかし、数か月もたつとヒアルロン酸注射の効果は薄れていった。もともとヒアルロン酸注射の効果は永久ではなく、日数が経過すれば注入したヒアルロン酸は体内に吸収されて元に戻っていく。勧めてくれた友人からもクリニックの医師からも事前に説明を聞いていたはずだが、彩花は焦りと失望を隠せなかった。
(このままじゃだめ……)
彩花は注射の効果が切れる前に、急いでもう一度ヒアルロン酸注射を打った。若返っていく――いや、若いとき以上にきれいになっていく自分に手応えがあった。
彩花はさらなる若さと美しさを求めていった。ヒアルロン酸注射を皮きりに、さまざまな美容整形に挑戦し、ボトックス注射、リフトアップ、二重まぶた切開法を試した。
最初のうちはメスを使わない、いわゆる「プチ整形」のみを行っていた彩花だったが、次第に鼻の手術など、大がかりなものも行うようになっていった。当然、大きな手術ほど術後の痛みはひどく、ダウンタイムは長くなってしまうが、きれいになるためだと思えば、どんな痛みも不便も彩花には大した問題ではなかった。
恥ずかしくて表を歩けない毎日上機嫌で鏡を眺めてばかりいる彩花とは対照的に、夫の進は不安を感じていた。正直、進は美容のことなんて一切分からない。彩花が真剣に化粧品や美容器具を選んでいる姿を見ても、進にはどれも違いが分からなかった。ファッションにも疎いため、美容室から帰ってきた彩花の変化に気付かず、しかられたことも何度かある。だが、そんな進にもヒアルロン酸注射の効果は分かった。どこがどう変わったと聞かれると困るが、とにかく彩花の顔が若返ったのだ。表情も別人のように明るい。そんな機嫌のいい妻を見てうれしくなった。
しかし最近の彩花は、何かにとりつかれたように美容のことばかり考えている。近所の人たちも、彩花の顔が変わったと陰でうわさをしていた。
残業もなく帰路についたが、進の足取りは重かった。家の電気はついているが、彩花の出迎えはない。おそらくまた懲りずにクリニックのパンフレットでも見ているのだろう。進は気分を引きずりながらリビングの扉を開ける。
「あら、おかえりなさい。今日は遅かったわね」
進の予想通りソファでパンフレットを眺めていた彩花は、顔も上げずにそう言った。その姿を見て、進の中で我慢していたものがせきを切ったように溢(あふ)れ出した。
「おい、いい加減にしてくれ! 最近のお前はどうかしてるぞ!」
声を張り上げると、彩花がようやくパンフレットから視線を外して進の方を見た。その顔に、以前の彩花の面影は見つけられない。進は思わず目をそらした。
「……お前のその、整形だよ。さすがにやりすぎだ」
「ちょっと、帰ってくるなり何なの? 私が若返ったって、あなたも喜んでたじゃない」
彩花は意味が分からないといった顔で、進を見つめてくる。どうやら自分が周りからどう見られているか、本当に分かっていないらしい。
「そりゃ最初は喜んださ。妻がきれいになって喜ばない旦那はいないだろ。だけど最近のお前はどうだ? ちゃんと鏡で自分の顔を見てみろよ! お前の顔が変わったって近所の人たちもうわさしてる。これじゃ、恥ずかしくて表を歩けないよ……」
進の言葉を聞いた彩花は、大きな目を見開いて怒った。整形のしすぎで表情が乏しくなった分、彩花の憤った顔は痛々しく見える。
「恥ずかしいって何よ! 私はきれいになろうとしてるだけなのに、何がいけないっていうの!」
彩花は持っていたクリニックのパンフレットを進に投げつけ、自室へ引きこもってしまった。進は床に落ちたパンフレットをゴミ箱に投げ入れると、1人で夕食の準備をするのだった。
●美容整形にとりつかれてしまった彩花の顔はどうなってしまうのだろうか……? 後編【「もう整形費用は使わせない」美容整形にハマった挙げ句、夫に家系の全てを管理された女性の「エグすぎる行動」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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