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もし台湾有事が起これば「物凄いインフレが襲ってくる」…日本が抱える地政学上のリスク

Finasee / 2024年7月29日 16時0分

もし台湾有事が起これば「物凄いインフレが襲ってくる」…日本が抱える地政学上のリスク

Finasee(フィナシー)

日経平均が4万円を超える――。

ほんの数年前には、この状況を想像するのは難しかったものの、人気エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、地政学的観点から一貫して日本経済の復活とインフレの到来を主張していました。

そして、今は「米中新冷戦」の真っただ中。そんな世界情勢のなかで、日本に訪れるリスクとチャンスはどのようなものなのか、書籍『エブリシング・バブル 終わりと始まり』よりお届けします。(全2回の1回目)

※本稿は、エミン・ユルマズ『エブリシング・バブル 終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025』(プレジデント社)の一部を抜粋・再編集したものです。

「戦争」は意外と身近なところにある

南シナ海や台湾における有事は、日本にとって他人事ではない。

しかし、日本はこれまで長い間、国の周辺で有事がなかった。唯一、日本の周辺国で有事が生じたのは、朝鮮戦争だろう。

ご存じのように、第二次世界大戦後に分断国家となった、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国との間で生じた戦争だ。金日成率いる北朝鮮が、両国の国境線としていた38度線を越えて、韓国に侵略戦争を仕掛けようとしたのが1950年のことだから、かれこれ74年も昔の話になる。

以来、現在に至るまで地球上のどこかで常に戦争、紛争の類(たぐい)が生じているものの、幸いなことに日本の周辺では平和が続いた。今の日本人にとって、戦争や紛争は確かに悲惨なものであると理解していても、どこか他人事なのは、非常に長い間、平和が続いてきたからだ。

それだけに、地政学リスクに関しても、今一つ理解が進まないのではないだろうか。

今、この地球上で実際に起こっている戦争・紛争の類を挙げろと言われたら、真っ先に思い浮かぶのがウクライナとロシアの戦争だろう。それに続いて、イスラエルとパレスチナ・ハマスとの間で起こっている紛争だろうか。

長いこと平和に慣らされてきた日本人にとって、この2つの戦争・紛争は、まったく別の話として認識されているはずだ。

しかし、この2つの二国間紛争はすべてつながっている。

たとえば、ウクライナとロシアの戦争は、ウクライナを軍事支援している欧米や日本などの民主主義国家と、ロシアに見られる専制主義国家の戦いだ。そして、中国は表面上、中立的な立場を取っているように見えるが、専制主義国家という点において、ロシアと近い立ち位置にある。

そして、イスラエルとパレスチナ・ハマスとの間の戦闘でも、米国をはじめとする民主主義国家はイスラエルを支持している反面、パレスチナ・ハマスを支援しているのはイランとロシアであり、ロシアのバックには中国がいる。つまり民主主義国家と専制主義国家の戦いであるということで、根は同じなのだ。

その文脈で考えた時、台湾有事は日本と地理的にきわめて近いところで起こる戦争になるし、それが不幸にして現実化したら、日本は否応なくその戦争に巻き込まれることになる。そのリスクが常にあるとして考え、日本にどのような影響が及ぶのかを分析しておく必要がある。

日本が抱える地政学上のリスクとチャンス

もちろん軍事的なアセスメント、つまりどのくらいの規模の戦いになるのか、日本が直接戦争に関わることになるのかといった点は、軍事アナリストなど、その方面の専門家が行うべきことだ。私としては、経済の専門家の立場から、日本の経済面に及ぶ影響を分析してみたい。

最大の問題は、この日本に物凄いインフレが襲ってくるリスクが想定されることだろう。

台湾有事が起こったとしても、日本と米国との関係は基本的にこれまでと変わらないはずなので、日本が完全に経済的な孤立に追い込まれるようなことにはならない。日本と米国のルートは開かれている。

しかし、問題は中国との貿易関係がほぼ絶望的になることだ。2022年時点で、日中貿易の額は、日本から中国への輸出額が1848億3070万2000ドルであり、中国から日本への輸入額が1887億672万5000ドルだ。

ちなみに日本が中国から輸入しているものを構成比別に見ると、次のようになる。

機械及び輸送用機器  48.6%
雑製品        22.7%
原料別製品      12.3%
化学工業品      9.0%
食料品及び生きた動物 4.4%
その他        2.9%

これらに加え、日本は中東からの原油輸入に大きく依存していることも、忘れてはいけない。中東産原油はマラッカ海峡を通過して日本に入ってくる。南シナ海での有事が重なったら、恐らく中東産原油が日本に入ってこなくなるか、入ってくるとしても相当、難航するはずだ。結果、当然のことながら輸入に際してかかるコストが増大するため、石油やガソリン、灯油などの値段が大幅に跳ね上がってしまうだろう。

したがって国家安全保障の観点からすると、日本をいかにして自給自足できる国にしていけばいいのか、真剣に考えなければならない時期に来ている。

国家安全保障というと、すぐに戦闘機や戦車、その他の武器関係にばかり目が行ってしまいがちだが、そうではない。武器はあくまでも狭義の防衛関連だ。私が言いたいのは、もっと広義の防衛関連である。

その観点でいえば、食料関連の企業は立派な防衛関連企業だ。食料安全保障という言葉もあるくらいだ。その他、サイバーセキュリティも防衛関連企業に入ってくる。南シナ海や台湾海峡で有事が起こるという最悪のシナリオを想定すれば、日本は広義の防衛関連をしっかり整備する必要がある。

ちなみに先日、米国のGoogleが、アジア太平洋地域では初めて、東京にサイバー防衛拠点を設けるという報道がなされた。中国や北朝鮮などから、官公庁や企業などに対する不正アクセスの懸念が高まっているからで、Googleとしては日本をハブにして、アジア太平洋地域全体のサイバー防衛力を底上げすることを狙っている。

いきなり暗い話で恐縮だが、もちろんポジティブな見方もある。それは軍事衝突に至らず、あくまでも新冷戦状態が続くことだ。

米中の関係が緊張状態のままであれば、日本にはチャンスが巡ってくる。中国から逃げてくるお金が日本に流れ込んでくるし、米国からも入ってくる。東アジア地域における米国の覇権を維持するために、その最前線にある日本を強くしようとするからだ。それは、米国から日本への、さまざまな形での経済支援が今後期待できることを意味する。

●第2回は【米中新冷戦で海外の優秀な人材が日本に集まる…? それによって日本にもたらされるものは何か】です(8月1日に配信予定)。

エブリシング・バブル終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025
 

著者 エミン・ユルマズ

発行所 プレジデント社

定価 1,870円(税込)

エミン・ユルマズ/エコノミスト、グローバルストラテジスト

トルコ・イスタンブール出身。16歳で国際生物学オリンピック世界チャンピオンに。97年に日本に留学。1年後に東京大学理科一類に合格、工学部卒業。同大学院で生命工学修士を取得。2006年に野村証券に入社、投資銀行部門、機関投資家営業部門に携わった後、複眼経済塾の取締役・塾頭を経て、現在は各種メディア・SNSで活躍。著書は『それでも強い日本経済!』『大インフレ時代! 日本株が強い』『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(以上、ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)『エブリシング・バブル 終わりと始まり 地政学とマネーの未来2024-2025』(プレジデント社)など多数。

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