NVIDIAを筆頭にAIブーム到来の半導体銘柄 TSMCのとあるデータに今後の株価を読み解くカギが?
Finasee / 2024年7月18日 7時0分
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今週の注目ニュースはTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)の月次売上に関するものです。
半導体の7月相場とTSMCの関係を図式化すると次のようになります。7月が始まってまだ2週間ですが、この2週間は半年分ほどの材料があると考えられます。
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まず、アメリカのISM統計と雇用統計が悪化したことにより、景気後退の可能性が示唆され、2回の利下げがあるかもしれないという見方が出てきました。元々は1回程度の利下げが予想されていましたが、高金利派が優勢だった中で、2回の利下げの可能性が出てきたところで今週が始まりました。
今週は日経平均の7月限SQ(Special Quotation)があります。先ほど言及した通り、4万1000円を超えたあたりから大幅な上昇相場が始まりました。月曜日の時点でこのような状況でしたが、火曜日には日経新聞の報道で、日本企業が5兆円規模の半導体投資を行うという内容が出ました。これにより、再び半導体関連の盛り上がりが見られ、火曜日は半導体株が大きく上昇しました。
さらに、ここ数日の動きとして、火曜日の夜にパウエルFRB議長が議会証言を行いました。この中で、9月の利下げに否定的な姿勢を示したと報道されていますが、実際の発言を日本語で解釈すると「過熱感はなくなった」という表現を使ったのです。
これは巧みな言い回しで、景気は悪化していないが、過熱もしていないという意味合いを持ちます。実際には多少の悪化があって過熱感が取れたのかもしれませんが、「悪化」という言葉を使うと株式市場に過度にネガティブな影響を与える可能性があるため、バランスの取れた表現を選んだと考えられます。実際、この日(7日)のアメリカ株式市場では、S&P500やナスダック総合指数は上昇しました。
そして、10日に至ります。CPI(消費者物価指数)の発表が11日に予定されていましたが、10日の日本時間午後2時30分にTSMCの6月の月次売上が発表されました。この売上高は前年比33%増でした。
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TSMCは7月10日に6月分のデータを発表する半導体メーカーであり、これは非常に早い情報開示となっています。TSMCの月次売上データは、世界の半導体生産に関する最も早く、最も確実な情報源となっています。ただし、この発表されている数字の解釈には注意が必要です。
TSMCのデータは、2006年4月からのデータが公開されています。台湾ドルベースで、当月の売上高、前月比、前年同月比が記載されています。このデータはTSMCのホームページの投資家向け情報セクションにある月次売上の項目で確認することができます。
データは上昇傾向を示しており、月次データ、3カ月平均、6カ月平均の3種類が記載されています。今回注目された33%増という数字は、1年前と比較した数値です。3カ月平均で見ると40%増、6カ月平均で見ると28%増となっています。
TSMCは熊本にも工場を建設するなど、世界中で生産能力を拡大しています。そのため、データには生産能力の増加トレンドが反映されています。同時に、金融危機時の急落や、半導体の生産過剰とその反動などの影響も見られます。
このグラフを継続的に観察することで、いくつかの特徴が見えてきます。例えば、前年比でマイナスになる期間や、逆に20%以上の成長が続く期間などが確認できます。これらは、生産能力の大幅な増加や、大規模な設備投資、重要な技術革新、NVIDIAからの大量注文など、様々な要因によるトレンドの変化を示していると考えられます。
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このデータを長期的に観察すると、約4回のサイクルが確認できます。各サイクルは、生産能力の拡大や生産循環などによって特徴づけられています。
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これらの動きは、株式市場における半導体関連指数の動きとも関連しています。例えば、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の動きとTSMCの生産データの波長がほぼ一致していることがわかります。
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さらに、SOX指数の動きは主にNVIDIAの株価動向に影響されています。TSMCの生産データから見ると、現時点では半導体産業に対して強気の見方ができそうです。
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ただし、半導体の生産や売上の増加が直接的にNVIDIAの株価上昇につながるわけではありません。その間には、NVIDIAの業績や株価の割高感など、考慮すべき要素がいくつか存在します。しかし、市場参加者は往々にしてこれらの要素を飛ばして、単純に結論を出したがる傾向があります。
この単純化された見方の結果、現在市場で何が起きているかを示す興味深いグラフがあります。このグラフは、アメリカの3つの主要企業(NVIDIA、Apple、Microsoft)と、S&P 500指数、そしてこれら3社を除いたS&P 497の利益見通しの上昇率を示しています。
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NVIDIAの利益成長率は突出しており、直近の四半期で113%、次の四半期では46%の成長が予想されています。AppleとMicrosoftも成長を続けており、S&P 500全体も成長しています。
しかし、これら3社を除いたS&P 497の状況は異なります。この3社で時価総額の約2割を占めているため、3社を除くとS&P 497となりますが、その利益成長率は直近の四半期でマイナスとなっています。今後発表される四半期でも3.1%程度の成長にとどまる見込みです。
つまり、この3社、特にNVIDIAが市場全体の数字を大きく歪めている状況にあります。この歪んだ状況下で将来の利益(EPS)を予想し、さらにその予想に基づいてPER(株価収益率)を50倍や60倍といった高水準で設定し、株価が形成されています。
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そのため、期待値がわずかでも変化すると、株価が大きく変動する可能性がある危うい状況にあると言えます。つまり、毎月の雇用統計と同様に、TSMCの月次売上が非常に重要な指標となっており、その数字が予想を下回ると市場全体が大きく下落するリスクがあります。
さらに、TSMCの生産循環と日本の工業生産指数における電子部品・デバイスの動きを比較すると、興味深い違いが見られます。TSMCの生産サイクルの方が日本の電子部品・デバイスよりも短く、同じ期間で2回転するケースもあります。これは両者が製造している製品の違いを反映している可能性があり、日本の電子部品・デバイス産業が最新の製品を十分に生産できていない可能性を示唆しています。
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この比較から、NVIDIAの効果を純粋に抽出できる可能性があります。TSMCの動きから日本の電子部品・デバイスの動きを差し引くことで、NVIDIAの影響をより明確に見ることができるかもしれません。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
マーケット・アナライズ編集部
「マーケット・アナライズ Connect」全国無料放送のBS12 トゥエルビで隔週土曜あさ6時~放送中金融ストラテジストの岡崎良介と、証券アナリストの鈴木一之が、毎週、株式市場や金融トピックスに精通したゲストを迎えて、投資未経験者から上級者まで、投資情報を必要としたあらゆる人たちを対象にマーケット情報をお送りします。
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