「これから何を目標に生きていけばいい?」子育てを終えた妻…寝室に落ちていた“信じられない”モノの正体
Finasee / 2024年7月24日 17時0分
Finasee(フィナシー)
「ねぇあなた、どっちが良いと思う?」
剛典がソファで釣り雑誌をめくっていると、階段の方から声がかかった。顔を上げると、妻の幸が両手にそれぞれ色の違うワンピースをぶら下げて、1階に下りてくるのが見えた。幸は30分も前から服を選び続けていて、剛典の方は妻の準備が終わるのをひたすら待っているところだった。
どうやら、ようやく最終候補の2着にまで絞れたらしい。片方は黒色で、もう片方は暗めの赤色……たしかボルドーというやつだ。おそらくデザインも微妙に違うのだろうが、剛典には両者の違いが全く分からない。特にボルドーのほうは初めて見るような気がしたが、幸の服装など特段気にかけたことがなかったから、剛典には判断のしようもなかった。
「うーん、今右手に持ってる服の方がディナーっぽくていいんじゃないかな?」
今までの経験上、ここで適当な返事をすると良くないことが起こるのは分かり切っているから、言葉を選びながら慎重に答えた。幸は右手を持ち上げて赤ワイン色のワンピースをしげしげと眺めた。
そして、しばらく真剣な顔で考えたあと、剛典の方を見て大きくうなずいてみせた。
「そうね! 私もこっちが良いと思ってたの! すぐ着替えてくるから、ちょっと待ってて!」
幸はそう言うと、パタパタとスリッパの音を響かせながら、2階へ駆け上がっていった。
なんとか合格ラインの回答ができたらしい。剛典は、ほっと胸をなでおろしながら誰もいなくなったリビングに視線を移した。4人掛けのダイニングテーブルに、妻のこだわりが詰まった対面式キッチン、息子たちの落書きのせいで幾度となく張り替えられた壁紙――。
剛典は深く息を吐いて、ソファに身体を預ける。2人の息子が独立していなくなった家は広く感じられ、剛典の肩にかかる荷も軽かった。
「あなた、お待たせ」
1人でぼんやりしていた剛典の前に、いつもよりめかし込んだ幸が現れた。
「よく似合ってるね」
「ありがとう。悩んだけど、やっぱりこっちにしちゃった」
幸が身にまとっていたのは、先ほど左手に持っていた黒い方のワンピースだったが、剛典はにこやかに妻を褒めた。
結局のところ、剛典がどちらの服を選ぶかに関係なく、幸の中では決まった答えがあったということなのだろう。果たして、この手の妻の質問に対する最適解は存在するのだろうか。そして自分は、いつになったら正解にたどり着けるのだろう。
剛典は、そんなことを考えながら、ドレスアップした妻を助手席に乗せて車を走らせた。
妻をねぎらうためのディナー実は今日は、普段よりも少しばかり高級なレストランで食事をすることになっているのだ。幸は長年、専業主婦として剛典を支え、2人の子供たちを立派に育ててくれた。そんな妻に対するねぎらいの気持ちを込めて、剛典は彼女をディナーに誘ったのだ。
レストランに到着した剛典たちは、夫婦水入らずで食事を楽しんだ。剛典が奮発したかいあって、幸は店の雰囲気や料理を気に入ってくれたようだった。普段はほとんど飲まないワインまで注文するほど上機嫌で、よくしゃべり、よく笑った。
もちろん剛典は帰りも車の運転があるので、アルコールは飲めない。剛典はソフトドリンクのグラスを持ちながら、根気よく妻のとりとめのない話を聞いた。
「子供たちが出て行っちゃったから、寂しくなったわね」
「あぁ、そうだな」
ほんのりと顔を赤らめながら言う幸に対して、剛典は簡単に返事をした。幸は、あまり酒に強い方ではない。そろそろ水を飲ませた方がいいだろうか。そんなことを考えながら話を聞いていたため、ずいぶん気のない返事になってしまったが、当の幸は酔っているせいか、特に剛典の反応を気にしていないようだった。
「あーあ、子育てが終わるってこんな気分なのね。私はこれから何を目標に生きていけばいいの?」
「今まで頑張ってきたんだし、しばらくはゆっくりしたら? 焦らなくても、そのうち新しい目標が見つかるさ」
剛典は、わざと大げさに嘆くフリをする幸に苦笑いしながら、ウエーターに水を頼んだ。
たしかに子育て期間は終わったのかもしれないが、会社員の剛典が定年を迎えるまでには、まだまだ時間があった。子供たちのいない生活には寂しさを感じるものの、毎日会社に行って仕事をするという剛典の日常は変わらない。だから、剛典にとって子供の独立というライフイベントは、専業主婦の幸が感じるほど重大なものではなかったのだ。
実際、無事に子育てが終わってからも、剛典の仕事漬けの生活は変わらなかった。むしろ新年度ということで新入社員の教育や異動してきた部下の対応に追われ、剛典はいつも以上に慌ただしい日々を送っていた。
幸の話に相づちを打ちながら、剛典は明日から始まる新しい1週間のことを考えていた。
1枚の紙切れがきっかけで…レストランでのディナーからしばらくたったある日、剛典は夫婦の寝室で見慣れない紙切れを発見した。どうやらゴミ箱に入りそびれて、床に落ちてしまったようだ。妻の幸は、ああ見えてずぼらな性格で、よくゴミを投げてはゴミ箱から外してそのままにする癖があった。
やれやれとため息をつきながら、剛典は仕事で疲れた身体を引きずって紙切れを拾い上げた。寝室の床に落ちていた紙片は、ボートレースのチケットだった。剛典は、生まれてこの方ギャンブルの類いに手を付けたことがない。
もちろんボートレースに関する知識も皆無だったが、チケットには隣県にあるレース場の名前と「3連単」の文字が印字されていることから考えても、それが舟券であることは疑いようがなかった。
剛典は、まさかと思いながらも1階へ下りて行って、夕食の準備をしていた幸に向かって何気ない調子で尋ねた。
「なぁ、これが寝室に落ちてたんだが……」
剛典が舟券を見せると、幸は一瞬顔をこわばらせたように見えた。しかし、すぐに照れたように笑って、忙しそうに料理の作業を再開したのだ。
「あー、それね、お友達に誘われて1回だけ行ってみたの。なんとなく恥ずかしいから、あなたには黙ってたんだけど、見つけちゃったんだね」
「へぇー、そうだったのか。初めてのボートレースは楽しめた?」
剛典が質問すると、幸は大げさに首を振って否定した。
「いやいや、全然! 周りはおじさんばっかりで居心地が悪かったよ! 慣れないことするもんじゃないね!」
「……そっか。まあ、たまにはそういう体験も新鮮でいいかもね」
カラカラと乾いた声で笑う幸を見て、剛典は釈然としない気持ちになったが、その場では納得したふりをすることにした。図らずも妻が内緒にしたがっていたことを暴いてしまったせいで、多少後ろめたさを感じていたからだ。
寝室に戻った剛典は舟券を握りしめ、隠すようにゴミ箱の奥へと押し込んだ。
●剛典が感じた違和感の正体は……? 後編【「常に周りから母親として扱われ…」老後資金をギャンブルで溶かした妻が語った「衝撃の事実」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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