「常に周りから母親として扱われ…」老後資金をギャンブルで溶かした妻が語った「衝撃の事実」
Finasee / 2024年7月24日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
剛典(54歳)は、2人目の息子も独立し、専業主婦の妻・幸(52歳)と二人暮らしになったことで、まだローンの残る一軒家が広くなったことを感じていた。
幸のこれまでの子育てをねぎらうために、少しいいレストランで食事をした。幸は子供が独立して、これからは何を目標に生きていけばいいの? と冗談めかして言っていたが、剛典はそれほど重くは受け取っていなかった。
ある日、剛典は寝室に落ちているボートレースの券を見つけた。幸に聞くと、友人に誘われて1回だけ行ってみたと言う。幸の様子に違和感を感じた剛典だが……。
●前編:「これから何を目標に生きていけばいい?」子育てを終えた妻…寝室に落ちていた“信じられない”モノの正体
夫に内緒でボートレースに行っていた妻の幸がボートレースに行ったという事実は、ギャンブルに免疫のない剛典に少なからず衝撃を与えていた。それに舟券を見せたときの幸の反応は、いつもの妻とどこか違う気がして、心に引っかかっていた。
しかし剛典は、その話をわざわざ蒸し返すことはしなかった。1度納得した手前、改めて言い出しにくかったというのもあるし、何より妻の行動を逐一チェックするような小さい男だと思われたくなかったのだ。
だから剛典は、あの舟券のことは早く頭から追い出し、心に残ったモヤモヤも無視することに決めたのだった。
老後資金をギャンブルで溶かした妻しかしそんな矢先、剛典は夫婦でためていた貯金がごっそりなくなっていることに気付いた。老後のための定期預金で、ちょうど今年満期を迎えるはずだったのだ。いつまでたっても満期案内が届かないことを不審に思った剛典が、会社の昼休みを利用して銀行へ問い合わせると、なんとすでに解約されているという。
もちろん剛典には、全く身に覚えがない。今は特に必要のないお金なので、今回は満期になっても引き出しせずに継続しようと話していたところだった。幸も賛成してくれていたはずなのに、一体何が起こっているのか。
その日、仕事から帰った剛典は、リビングの扉を開けるなり妻を厳しく問いただした。
「幸、説明してくれ。なぜ満期間近だった定期預金が解約されてるんだ?」
「あっ……」
剛典が幸を真っすぐに見つめて質問すると、幸は顔を覆ってわっと泣き出してしまった。しかし、これは夫婦の将来に関わる重要なことだ。泣いている幸に同情して話をうやむやにするわけにはいかなかった。
剛典は、容赦なく話を続けた。
「泣いたって何も解決しないよ。俺の質問に答えてくれ。解約の手続きをしたのは、幸で間違いないな?」
「……はい」
剛典は、幸が手のひらで顔を覆ったままうなずいたのを確認すると、さらに踏み込んだ。
「じゃあ、引き出した金はどうしたんだ?」
「それは……」
そのあと幸が涙ながらに語った内容は、剛典に大きなショックを与えた。
なんと幸は、夫婦の貯金をほとんどギャンブルで溶かしてしまったというのだ。ボートレース以外にも、競馬やスロットなど、さまざまなギャンブルに興じていたらしい。あのとき剛典に話した「友人に誘われて1回だけ」というのは真っ赤なウソで、本当は毎日のようにギャンブルに明け暮れていたのだった。
妻の裏切り剛典を打ちのめしたのは、なにもギャンブルの件だけではない。それらの娯楽に誘った「友人」の正体が、実は幸の不倫相手であることが判明したのだ。
共有財産の使い込み、ギャンブル依存、そして不倫――。
長年連れ添った妻が何重にも自分を裏切っていたことを知って、剛典は思わず絶句して頭を抱えた。幸を責める気力も湧かなかった。幸は壊れたように何度も「ごめんなさい」と繰り返している。剛典は目頭をもんでくらむ視界を強引にほぐした。
「なぁ、なんでだ? なんで、こんなことになった?」
「あ、あのね、私ね……」
剛典が力なく尋ねると、幸はうなだれたままぽつりぽつりと自分の胸の内を語り始めた。子育てから解放されて時間を持て余していたこと。常に周りから母親として扱われ、女性として見られない状況に寂しさを感じていたこと。そんなとき友人に誘われて行ったボートレース場で、偶然ギャンブル好きの男性と出会い、関係を持ってしまったこと。
剛典にとっては、どれも初めて聞く話ばかりだった。幸がそんな風に物事を考えたり、自分自身を評価したりしていたなんて、剛典はみじんも知らなかった。そもそも、今までの結婚生活で、ここまで真剣に幸の話に耳を傾けてやったことがあっただろうか。
剛典は幸の消え入るような声を聞き漏らさないように注意しながら、ひそかに夫としての自分を省みていた。
そして、2人きりの夜がゆっくりと更けていったのだった。
依存症の治療へそれから数カ月後、剛典は幸とともに地元のイベントホールを訪れていた。通院の目的は、ギャンブル依存症セミナーに参加するためだ。
実は、不倫の事実を知った直後の剛典は、迷わず幸と離婚しようと考えていた。幸は夫婦の共有財産をギャンブルに使い、不貞行為まで行っていたのだ。一般的に考えて、剛典が離婚や慰謝料の支払いを求めるのは当然のことだろう。
実際、剛典は不倫相手の男に対して、数百万円の慰謝料請求を行った。その後、幸にも離婚を請求する予定だったが、結局剛典にはできなかった。1度は愛を誓った相手である幸をそのまま見捨てることは、どうしてもできなかった。何より、日頃からもっと妻の様子を気にかけていたら、今回のような最悪の結果は避けられたのかもしれない。剛典は、幸との夫婦関係を再構築する道を選んだのだった。
それに剛典が離婚を踏みとどまったのは、ギャンブル依存について、自分なりに詳しく調べてみたことも大いに関係していた。ギャンブル依存症が精神疾患の1つであり、「やめたくてもやめられない」状態なのだと知った剛典は、幸の症状を改善することを当面の目標に定めたのだ。
ギャンブル依存から抜け出すための第1歩は、自分がギャンブル依存症だと認めること、そして依存症の原因やトリガーを探ることだと言われている。幸が涙ながらに吐露した「主婦としての寂しさ」以外にも、何かギャンブル依存の原因が隠れているかもしれない。
そう考えた剛典は、あれからできる限り幸の話をたくさん聞くことにしている。それが治療の役に立っているかどうかは分からないが、格段に夫婦の会話が増えたのは事実だ。以前よりも密に会話をするようになったことで、剛典は幸の考えていることに共感したり、興味を持ったりすることが多くなった。
ギャンブル依存の治療期間は、だいたい2年ほどと言われている。専門家でもない剛典には、幸が快方に向かっているのかどうか知るすべはない。まだまだ先の見えない道のりで、進む方向が正しいのかさえ分からない。だが、それでも幸がギャンブル依存を克服するまで絶対に諦める気はない。
真剣な顔で講演に耳を傾ける幸の横顔を見つめながら、剛典は胸に誓った決意を今一度かみしめるのだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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