“金目当ての義家族たち”に追い回され…宝くじ高額当せん夫婦が陥った「まさかの事態」
Finasee / 2024年7月31日 17時0分
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Finasee(フィナシー)
「あ、当たってる!」
麻里子が夕食を作っていると、リビングにいた夫の信之が大声を上げた。
「もう、どうしたのよ、そんな大きな声出して」
麻里子は煮え立つ鍋の火を止めて、リビングに向かった。リビングにいる信之は手に宝くじを握りしめていた。
24歳のときに結婚して、もうなんだかんだで30年がたつが、唯一夫婦で続けているのがこの宝くじの購入だった。最初に始めたのがいつだったか覚えていないが、惰性的に毎年、欠かさず購入を続けている。とはいえ、麻里子はとっくに当選を諦めていて、信之に任せていた。
「あら、おめでとう。いくら当たったの? 1万円?」
「バカ、違うよ! 1000万だよ!」
信之は目を見開き、唇を震わせながら叫んだ。
麻里子はやれやれと思って、信之に近づく。これまでも何度か、こうして当選したと騒ぐことがあった。しかし落ち着いてみてみれば、0と8を見間違えていたり、最後の二桁の数字が逆だったり、結局ぬか喜びだった。今回もそうだろうと思って、麻里子は半信半疑な視線で当選番号と信之の持つ宝くじの番号を照らし合わせた。
「……え?」
麻里子は何度も番号を見比べた。しかし何度確認しても番号は一致していた。
「……うそでしょ⁉ ほ、本当に当選してる! しかも1000万!」
信之はうれしそうに麻里子の手を握ってきた。
「な? 言ったろ⁉ ほらな、これ、やっぱり来ると思ったんだよ! 一粒万倍日にさ、並んで買ったんだ! やっぱり当たったよ! 俺は絶対に今日買うべきだと思って、わざわざ午後休を取って、当たるってうわさの売り場まで行って買ったんだよ!」
すぐに麻里子は娘の一美にも伝えないといけないと考えた。一美が驚き、喜ぶ顔を想像すると、それだけでワクワクする。
「ちょ、ちょっとさ、母さんに教えないと!」
信之はスマホを手に取った。
「あ、でも、あんまり人に教えない方がいいんじゃない……? 家族だけで共有するくらいでさ」
「大丈夫だって。母さん、そんな口軽い方じゃないから。あの人、俺たちがずっと宝くじ買ってるのばかにしてたんだよ。結果出したぞって言いたいだろ?」
実家に帰省したとき、夢ばっかり見てくだらないと冗談交じりに言われたのを麻里子も覚えていたから、信之の気持ちは少しだけ分かった。
「まあ、報告くらいならいいか。もうしょうがないわね」
麻里子は信之の気持ちを尊重した。というよりも実際は、麻里子も1000万を当てたと聞いて驚く義母の反応を楽しみにしていたのかもしれない。
鳴りやまない電話本来なら喜び勇んで銀行に行き、宝くじと現金を交換し、配当金の1000万を受け取っているはずだった。しかし3週間がたっても、当選した宝くじは引き出しにしまったままになっていた。
麻里子と信之は無言で食事をしている。娘の一美は友達と遊びに行くと言って、出掛けてしまった。ちなみに宝くじが当たったことはもちろん一美に伝えたが、驚いたのは最初だけだった。次の瞬間には「お金の使い方間違えるとヤバいよ」と、冷静に麻里子を諭してきた。昔から何か悟りを開いたくらい落ち着いた子だったが、実際、一美の言ったことは正しかった。
信之のスマホが鳴る。信之は画面を見るや舌打ちをして無視をした。鳴り続ける携帯に麻里子はいら立ちを募らせた。
「出なさいよ。出て、はっきりと断ってやればいいのよ」
「何回も断ってるよ。でも、しつこいんだよ」
苦々しい表情で信之はスマホをにらむ。電話の相手は恐らく親戚の誰かだろう。義母の妹の娘か、信之の兄夫婦か、どちらにしても用件は分かっている。麻里子は深くため息を吐いた。
「だから言ったのよ、ベラベラ言うなって」
「俺だって母さんがこんなにおしゃべりだって知らなかったんだよ!」
宝くじの当選が義母に伝わると、義母は手当たり次第、親戚に電話をして回ったようだ。結果、数多くの親戚から信之の携帯に電話が掛かってくる。
もちろん、ほとんどがお祝いの連絡だ。しかし中にはお金の催促に来るものもいた。そしてそういう連中はとにかくしつこい。どれだけ信之が断っても、何度も連絡をしてくる。
「この家、大丈夫よね? 住所、バレてないよね?」
「それはさすがに大丈夫だろ。あの人たちだって、いきなり突撃してくるようなことはないって」
「本当かな……?」
日に日に不安が募り、まだ銀行で配当金を交換をすることすらできていなかった。
当せん金の使い道「なあ、そろそろ使い道をはっきりさせようぜ」
スマホが鳴りやむのを待って、信之が切り出す。このタイミングでそんな話を切り出すかと、麻里子は内心であきれ返る。
「だから、その話はもう済んだでしょ。この家のローン返済とか、あとはリフォームに使った方がいいって言ってるじゃない」
「それはないって。別にローンだってちゃんと返済できてるし、わざわざ今、返す必要ないだろ?」
「それは今は仕事があるからそう思うだけよ。このご時世、どうなるかなんて分からないんだから、先にローンを返しちゃったほうがいいじゃない。何回も言ってるでしょ」
信之は不満そうに眉間にしわを寄せる。
「せっかく、ポンと大金が入ったんだ。もっと別のことに使おうって。車を買い替えたりとか、海外旅行に行くとか。そういう、なかなかできないことにお金を使うのが1番いいって」
「それこそ、ローンを払い終わって、リフォームまでやっちゃったら、後は大きな出費がなくなるんだから、お金がいっぱいたまって、車だって買えるし、旅行だって行けるじゃない。まずはそういうことにお金を使うのが最優先でしょ」
信之は見下すように麻里子を見る。
「お前ってさどうしてそんなつまんない考え方しかできないわけ? 宝くじが当たったんだぜ。どうせならパーッと使うのが正しいと思わないか?」
信之が手を動かしてボディーランゲージを交えて訴えてくるが、どうしても一美の一言が気になった。
専業主婦として家計を預かるものとして無計画な浪費は容認できなかった。
「正しいわけないでしょ。バカなこと言わないでよ」
思わずきつくなってしまった口調に、信之が手に持っていた箸をテーブルにたたきつけるように置いた。
「バカってなんだよ? 俺は家族みんなで楽しめるようにって考えてるんだよ。それを、どうしてそういう言い方されなきゃいけないわけ?」
「だってバカはバカでしょ。遊ぶことばっかり。けっきょくあなたは自分が楽しむことしか考えてないのよ。生活のこととか、一美の将来のこととか、ちゃんと考えてよ」
自分が間違っているとは思えない。麻里子は生活や将来のことを、誰よりも正しく、真剣に考えている自覚があった。
「あーそうかよ、せっかくの当たった大金をそんなつまらないことに使わなくちゃなんないのかよ。そうやって何でも自分が正しいと思って、他人を頭ごなしに否定するんだな」
信之は言い捨てるやいなや席を立って、寝室へと引き上げていった。食卓には2人分の、致命的に冷えてしまった夕食が取り残されていた。
●せっかく1000万も当たったのに、夫婦げんかに。そしてしつこい親戚たち……。 後編【「こんな事なら当たらない方がよかった」宝くじでまさかの1000万円、お金の使い道でもめた夫婦の「たどり着いた結論」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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