金利とPBRの正常化が日本株上昇のカギを握る…インフレ経済で様変わりする投資戦略とは?
Finasee / 2024年8月5日 18時0分
Finasee(フィナシー)
今、日本経済は大きな転換期にいます。
長年悩まされてきたデフレを脱却し、インフレに突入しました。そしてマイナス金利解除、急変する為替、海外投資家の増加など、新しい流れのなかでこれまでの投資戦略が通じにくくなっています。
伊藤忠を経て、国内外の金融機関を渡り歩いてきた金融ストラテジスト・エコノミストの岡崎良介さんは、これからの時代は「短期トレードよりも長期ポートフォリオ」「すべての〝資産〟の価値が上昇」と言います。豊富なデータを基に、インフレ経済の投資戦略を紹介してもらいます。(4回目の1回目)
※本稿は、岡崎良介『野生の経済学で読み解く 投資の最適解』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。本記事の情報は、書籍発売日(2024年1月)に基づきます。
長期的な視点 2つの正常化への道日本銀行は、2016年1月28、29日の政策委員会・金融政策決定会合において、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和政策」の導入を決定しました。ここでいう「マイナス金利」とは、金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に0・1%のマイナス金利を適用する、という政策です。
そもそも金融機関は「準備預金制度」に基づき、他行との取引の決済をスムーズにするため、日本銀行の当座預金口座に一定の準備預金を預け入れることが決められています。
準備預金はあくまで一定水準でいいのですが、日本の金融機関の場合、ありあまる預金量に対して貸出先や投資先が限定的であるため、従来からこの準備預金の最低金額を超えて日本銀行に預けているケースが多くみられました。
この一定水準を超える預金を超過準備と呼ぶのですが、マイナス金利政策は、この超過準備に付く金利をマイナスにする政策です。何のためにこんなことをやっているのかというと、マイナス金利だと、通常なら支払われる利息が逆に徴収されることになりますから、金融機関は日本銀行の当座預金口座にあった資金を、貸し出しや投資に回そうとする動機が働き、これが日本経済にプラスに作用すると日本銀行が考えたからです(しかし実際は、目論見とは逆に日本の金融機関はますます貸し出しや投資に消極的となり、先ほどのデフレの時代の国民のように、縮小の道を選んでしまいました)。
マイナス金利が解除されることは、短期的には金融機関にはプラスの効果をもたらします。このことを囃し立てて2023年の日本の銀行株は総じて随分と株価が上昇しました。しかし銀行株の真価が問われるのは、ここからです。銀行株の収益を簡単な式で表せば、金利×貸出(投資)先、ですから、マイナス金利解除後の金利がどうなっているのかと、何よりも貸出先、投資先が拡大しているかどうかで収益は決まります。これらはひとえに日本経済、ひいては世界経済がそのときどうなっているかにかかっていますから、いま判断を下すのは早計です。
いずれにせよこれが一つ目の正常化への道なのですが、実は我々が考えなければならないテーマにもう一つの正常化問題があります。それは何かといえば東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業に対して、改善策を開示・実行しなさいとの要請を行なったことです。この要請の詳細は、2023年3月31日に発表した、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」のなかにしっかりと書かれています。
デフレのなかで積み上げられた内部留保この要請に対して上場企業の経営者がとった対応は極めて冷淡なもので、いまのところそのほとんどの経営者がダンマリを決め込み返答を避けています。ただその一方で、株式市場では日本企業全体での資本効率や収益性が改善するとの思惑が広がり、海外投資家などから大量の買いが入ってきたことが4月以降の統計からも確認されています。
実はこのタイミングで東京証券取引所が動いたのはわけがあります。下記、図表は東京証券取引所が長期にわたって発表してきた上場企業のPBRのグラフです(PBRとは株価が1株当たり純資産に対して何倍の価値を持っているかを示す指標で、この数値が低ければ株価が割安であることを示しています)。
昔はいまのように数値を計算するうえで、加重平均(時価総額を勘案して平均値を計算する方法)型ではなく単純平均型であったり、加えて純資産の計算方法も単体型が中心であったりしたので、連続性には問題が残るのですが、それでも傾向はおわかりいただけると思います。バブルの崩壊後、日本株のPBRは、国際比較しても一つの目安となる2・0倍を超えたのは、2006年1月の1回だけとなっています。
この恒常的な低PBRの背景にあるのが、日本企業の内部留保の多さであることは皆さんも聞いたことがあるでしょう。企業が貯め込んだお金は内部留保として計上されるのですが、財務省が集計している法人企業統計によれば、その金額はすでに500兆円を超えています。経営者にしてみれば、バブルが崩壊し不況が続く時代には、会社の存続のために必死で蓄えることが至上命題だったのでしょう。続いて諸物価が下がり現金の価値が高まるデフレの時代が訪れると、現金の相対的価値が高まるのですから、蓄えることに大義名分が加わりました。暗黙の裡に経営方針になってしまったのです。
ところが投資家にしてみれば、これは容認できない話です。会社の利益は経営者だけのものではないのですから、将来のために使わないのならもっと配当を増やして株主に還元しろと迫ります。労働者は労働者でもっと給料を上げてほしいはずです。しかし経営者は倒産が怖いからと内部留保にばかりお金を貯め込んでいく。
原理原則からすれば、こうなると株主が動くしかありません。なぜならば、株式会社は株主が所有するものなのですから、株主総会で純資産はすべて株主のものだと経営者に直談判すれば、最終的には株主に従わざるを得ないからです。
●第2回は【「日本株投資のロードマップ」3度目の大規模な外国人の日本株買いが意味するものは?】です。(8月6日に配信予定)。
野生の経済学で読み解く 投資の最適解著書 岡崎良介
出版社 日本実業出版社
定価 1,870円(税込)
岡崎 良介/金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。
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