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「自分たちで管理して経費を浮かせよう」。「ケチ」な兄の提案が裏目に! 資産家一家が陥った“不動産経営”のワナ

Finasee / 2024年7月30日 13時0分

「自分たちで管理して経費を浮かせよう」。「ケチ」な兄の提案が裏目に! 資産家一家が陥った“不動産経営”のワナ

Finasee(フィナシー)

岸本美穂(38歳)は、古い保険契約書のファイルを倉庫に戻しながらため息をついた。契約書で確認できたのは、10年前に契約を更新しなかったために、2年前に保険契約が終了しているという事実だった。なぜ契約を更新しなかったのか、美穂が管理を引き継ぐ前の出来事であり、その事情はわからなかった。ただ、これによって、マンションの1階を貸しているミニ・スーパーに対する水漏れ被害の損害賠償と、水漏れの修復の工事代金、そして、スーパーの休業補償(2週間分)については、ビルのオーナーで、美穂の実家である市田家が負担しなければならないということになってしまった。

農家から不動産オーナーに! 悠々自適のはずが…

市田家は、東京の板橋区に商業ビル1棟と30戸が入居しているマンションを1棟、そして、練馬区に戸建ての住宅を所有していた。商業ビルは5階建てで1階~4階までを事業会社に貸し、美穂たちの一家4人がそのビルの5Fで暮らしていた。市田家は、祖父の兼高(故人)が農地を売却したことを機に、貸しビルとマンションを購入して現在の資産を作ったのだった。父親の光一(69歳)は不動産事業については祖父の仕事と割り切っていて関心が薄かった。父は区役所の職員として定年まで勤め、現在は練馬で兄家族とともに暮らしていた。

美穂の夫の達也(38歳)はサラリーマンで年収が400万円程度だったが、生活には余裕があった。美穂が宅建の資格を活かして市田家の不動産管理業務を引き受けることを条件に、今の住居を無料で使うとともに、美穂にも毎月10万円の手当が出ることになったためだ。とはいえ、子どもが2人いれば、年々出費もかさんでいく。小学校に通う2人の息子は、地元のサッカークラブに所属していたが、兄の悠斗(10歳)には、英語塾に通わせる話が進んでいて、教育費の負担が重くなってきていた。

美穂たちは、将来を考えてNISAを使った資産形成を始めた。目標は家族4人がそれぞれ限度額いっぱいの1800万円の金融資産をつくることだった。そのため、現在のビルに引っ越して家賃負担がなくなってから、それまで家賃にあてていた資金を4等分して1人当たり毎月3万円の積み立て投資を始めた。子供たちの分は、将来、彼らが留学したいと言い出したり、何かお金が必要になったりした時に、それぞれの子のために使おうと思っていた。美穂は、夫婦で合わせて3600万円をNISAで作ることができれば、老後の生活には困らないだろうと思っていた。

築40年を超えた老朽不動産がトラブルの元

祖父の遺した不動産物件の処置を巡っては、美穂と兄の翔太(40歳)の考え方が対立していた。美穂は、物件を一刻も早く売却すべきだという考えだったが、翔太は稼働している不動産は財産として残すべきだと考えていた。美穂は、「すでに築40年を超えている物件は、修理保全のための手間や費用が大きなコストになるため、保有し続ける価値は低い」と訴えていた。美穂たちが暮らしている商業ビルは、駅から徒歩20分と、決して条件の良い物件ではなかった。さらにマンションの方は商業ビルよりも5年ほど古い物件で、ここ数年は水回り関係の事故が頻発していた。

そもそも不動産管理業務については、兄の翔太が行うことが期待されていた。ところが翔太は、学生時代に挑戦した宅建の資格を2回連続で不合格となり、資格取得をあきらめて不動産とは関係のないソフトウエア会社に就職してしまった。父の光一も不動産管理業務から逃げたクチだったので、翔太を強く非難することもできなかった。結局、祖父の兼高に一番かわいがられていたという理由で美穂が不動産関連の業務を押し付けられることになった。美穂は宅建の資格試験に一発で合格し、資格を得たこともあって大学を卒業後、不動産会社に就職した。

そして、翔太が父親の暮らす練馬の敷地に一戸建てを新築し、板橋のビルから引っ越すことになって美穂たちが板橋のビルで暮らすことになったのだった。板橋のビルに引っ越すと同時に、美穂は会社を辞めて不動産管理の業務を引き継ぐことになった。それから2年近くが経過していた。

財産だったはずの不動産が不幸を呼ぶ

翔太は、実家のある練馬に居を構えてから、まるで市田家の当主になったようにふるまい始めた。市田家といっても母親は10年ほど前にがんで他界しており、残っているのは父と兄妹だけだった。父親の兄もすでに亡く、その兄には家族はいなかった。結果的に祖父が遺した不動産は、翔太と美穂が相続することになるが、その不動産を巡って兄と妹の間でいさかいがたびたび起こった。美穂に言わせれば、翔太は「ケチ」だった。不動産管理にかかわる費用は極力抑えて、不動産から上がる収益を最大化することばかりを考えていた。

翔太は、美穂が管理業務を担当すると決まってから、それまで管理を行ってきた管理会社との契約を破棄し、祖父が設立した不動産管理会社を復活させた。そして、美穂とともに管理会社の役員として入り、管理会社から報酬が得られるようにした。美穂が得ている毎月10万円の報酬は管理会社を通して得ているものだった。翔太はその報酬をより大きくしようとしか考えていなかった。

今回の大規模な修繕案件についても、翔太は、できるだけ費用を抑えて解決することしか考えていない。保険が使えず、工事期間中の2週間分の休業補償を管理会社が負担せざるを得ないことを告げると烈火のごとく怒りだすことは目に見えていた。美穂にとっては、所有する不動産は兄妹のいさかいのもとでしかなかった。そして、この不動産があるために、兄もまた問題を抱えていた。美穂は、不動産を保有していることが、美穂たちを不幸にしているように思えてならなかった。

●無理なファミリー経営は、さらに「引きこもり」問題にまで発展!? 後編【「引きこもりの息子が原因で夫婦ゲンカ絶えず…良かれと思った“不動産”に振り回された一家の「解決策」は!?】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

風間 浩/ライター/記者

かつて、兜倶楽部等の金融記者クラブに所属し、日本のバブルとバブルの崩壊、銀行窓販の開始(日本版金融ビッグバン)など金融市場と金融機関を取材してきた一介の記者。1980年代から現在に至るまで約40年にわたって金融市場の変化とともに国内金融機関や金融サービスの変化を取材し続けている。

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