家計の金融資産は2199兆円に…その中の“驚きの数字”が示す「新NISAは快調なスタート」の実態
Finasee / 2024年7月25日 16時30分
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個人金融資産2000兆円はどう動いたか
2024年第1四半期の資金循環統計(速報値)が、6月27日に発表されました。資金循環統計とは、国内金融機関、金融機関以外の法人、政府、個人といった、各経済主体が抱えている金融資産・負債がいくらあるのかを記録したものです。よくニュースなどで「個人金融資産が2000兆円を超えて……」などと報じられている時の数字は、この資金循環統計のものが用いられています。
実は、今回発表された2024年第1四半期の数字は、ちょっと注目されていました。というのも、2024年1月からスタートした新NISAの影響が、多少なりとも反映されると考えられていたからです。
2024年第1四半期の数字は、2024年3月末までの金融資産残高が記録されます。前回、2023年第4四半期の数字は、2023年12月末のものなので、新NISAがスタートしてから3カ月間で、預貯金や株式、投資信託などがどの程度増減したのかが注目されるところです。
仮に、預貯金の残高が増える一方、株式や投資信託の残高が減っていたら、新NISAがスタートしたにも関わらず、「貯蓄から投資へ」の動きが全く見られなかった、ということになり、金融庁の面目は丸つぶれになります。ここは何が何でも、「貯蓄から投資へ」の動きが見られる数字になってもらいたいところでしょう。
では、具体的に数字を見ていきましょう。
2024年3月末時点で、家計部門が持っている金融資産残高の合計額は、2199兆1437億円でした。2023年第4四半期が2143兆4308億円でしたから、この3カ月間で2.6%増えたことになります。
また、主だった金融商品別の残高を見ると、
現金・・・105兆6844億円(▲3.02%)
流動性預金・・・650兆8961億円(▲0.12%)
定期性預金・・・355兆320億円(▲1.41%)
外貨預金・・・6兆8027億円(0.48%)
債務証券・・・28兆8673億円(1.39%)
株式等・・・313兆1203億円(15.04%)
投資信託・・・119兆3792億円(12.05%)
生命保険・・・230兆7432億円(0.2%)
年金保険・・・100兆2034億円(0.26%)
年金・・・157兆3460億円(1.54%)
となります。ちなみにカッコ内の数字は、前期(2023年第4四半期)比です。
この数字をざっと眺めると、家計金融資産全体に占める現金・預金の割合は50.9%で、相変わらず半分超を占めていますが、現金、流動性預金、定期性預金のいずれも、この3カ月間で残高が減少しています。
なかでも現金は、2022年12月に過去最高額である109兆8111億円に達しましたが、この1年と3カ月間で4兆1267億円減少しました。
「新NISAのスタートは快調」といえる数値がこれは、いよいよインフレを意識した動きが出てきた可能性があることを示唆しています。デフレ経済の下では、相対的にお金の価値が高まるため、現金や、低金利の預金に資産を置いていても特に問題は生じませんが、インフレ経済では現金のまま保有していると、着実にお金の価値は目減りしていきます。それに気付いたことで現金から、インフレリスクヘッジが期待できる他の金融商品に、資金が移動したと考えられます。
また預金の中で見ると、定期性預金から資金が流出し続ける一方、流動性預金は過去最高の残高になっていることが分かります。流動性預金の残高は、2023年12月末が過去最高の651兆7099億円でした。
ちなみにアベノミクスによって超低金利政策が取られるようになった2012年12月から2024年3月までの増減率を計算すると、流動性預金は96.46%増であるのに対し、定期性預金は23.19%減となっています。これは、超低金利政策によって流動性預金と定期性預金の金利差がほぼなくなったことから、いつでもATMから現金を引き出せる、流動性預金の利便性を重視する動きが強まったためです。
一方、株式等や投資信託といったリスク性資産の残高はどうなったのかというと、いずれも2023年12月末から2024年3月末にかけて、2ケタの伸び率を示しています。
ただし、これらについて注意しなければならないのは、残高を時価評価した額で計算されているため、この間の株価上昇による評価益も含めて残高が計算されていることです。
日経平均株価は、2023年12月末から2024年3月末の間に20.6%上昇しました。そうであるにも関わらず、この間の株式等の増加率は15.04%ですから、恐らく株式の増加率の大部分は、株価の値上がり益で占められたものと考えられます。
もう少し、正確な数字を見たい場合は、資金循環統計の「調整表」を参考にします。調整表に掲載されている調整額は、株式や投資信託のような価格変動商品の価格変動に伴う増減額を推計したものです。ちなみに株式の調整額は、2024年第1四半期が42兆1299億円となっています。そして、2023年第4四半期から2024年第1四半期までの株式等の増加額は40兆9269億円ですから、この増加額を超える額が、値上がり益によるものと考えられます。
つまり、株式市場にはそれほど個人資金が流入していないことになります。
では、投資信託はどうでしょうか。
家計部門が保有している投資信託の、2024年第1四半期の調整額は、9兆3628億円でした。家計部門の投資信託保有額は、2023年第4四半期から12兆8336億円の増加ですから、差し引きで3兆4708億円が真水で流入した金額であると考えられます。
これらの数字を見ると、同じリスク性商品であるにも関わらず、株式にはまだそれほど資金が流入していませんが、投資信託には順調に資金が流入していると考えることができます。これは、やはり2024年1月からスタートした新NISAの影響と考えても良さそうです。
金融庁がNISAの制度を恒久化し、非課税期間を無期限化し、さらに非課税額を1800万円まで拡大したのは、まだ投資をしたことのない個人が、NISAを活用して、投資信託を少額ずつでも積み立てることによって、長期的な資産形成に励んでもらいたいという狙いがあったからです。
まだ新NISAがスタートして3カ月間しか経過していない時点での数字なので、この傾向が定着するかどうかは正直、何とも言えませんが、時間の経過と共に公表される資金循環統計の数字は、注目しておきたいところです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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