もはや「中国の代替投資先」ではない 熱視線浴びる日本企業のポテンシャル
Finasee / 2024年8月9日 7時0分
Finasee(フィナシー)
カーライル・ジャパン
共同代表 山田 和広氏
――まずは、近年の国内プライベートエクイティ(非公開株式、以下PE)市場の動きについてお聞かせください。
国内のPE市場は、まさに急成長のフェーズに入っています。カーライルが日本に参入した2000年当時の市場規模は500億円程度でしたが、このところPE案件の引き合いが急増しており、現在は約3兆円のマーケットに膨らみました。PEに対する企業側、投資家側双方のニーズはますます増えていくことが予想されますので、市場拡大は今後も続いていくでしょう。
――企業側でPEのニーズが高まっているのには、どのような背景があるのでしょう。
少なくとも3つの理由が挙げられます。まず1つ目が事業承継問題で、日本国内に約260万社存在する非上場オーナー企業のうち、約60%が後継者不足に直面していると言われています。従来こうした企業を存続させる手段としては競合他社への譲渡が一般的でしたが、近年はPEファンドへの引き継ぎも選択肢として有力視されるようになりました。
PEファンドに引き継げば社名や経営陣、従業員を維持できますし、さらには事業戦略の見直しや外部人材の登用といったPEファンドならではの施策により、企業価値を改善できることが知られてきたためです。
2つ目は日本企業の経営効率化の進展です。2015年に東証と金融庁が「コーポレートガバナンス・コード」を策定したのをきっかけに、投資リターンを見込みにくい持ち合い株式の解消や、ROEやPBRといった経営指標の改善など、いわゆる「資本コストや株価を意識した経営」が促されました。
こうして、経営効率化に向けて多くの企業が主力以外の事業を分離・独立させる「コーポレート・カーブアウト」に取り組むようになったため、必然的にPEの引き合いが増えているのです。
そして3つ目は、グローバルに見られる上場会社減少のトレンドです。日本ではいまだ株式上場をよしとする傾向が根強いですが、米国の上場企業は1996年のピーク時に比べ半減するなど、世界的には上場企業数は減少してきています。
株式上場にはさまざまなメリットがあるものの、上場基準に基づく情報開示を求められる点や、短期目線でのリターン追求を余儀なくされることなどが中長期的な企業価値向上を妨げるケースもあるため、企業の間ではあえて非上場を選ぶいわば「戦略的非公開化」が始まっているのです。日本市場にもこうした企業価値向上に向けた動きが出てきており、今後はグローバルなトレンドに追随していくと思われますので、国内PEマーケットはさらに拡大していくでしょう。
――市場拡大は、投資先である企業と、資金の出し手である投資家の双方のニーズが高まってこそ成り立つと思います。国内の機関投資家の投資行動に変化は見られますか。
PEを手掛ける投資家のすそ野が広がってきた印象です。かつては金融機関が多くを占めていましたが、オルタナティブ投資の需要の高まりや、国内PE市場全体の魅力的なトラックレコードの蓄積などを受け、今では企業年金などからの引き合いも増えてきました。
――企業からはコーポレート・カーブアウトのニーズが高まり、投資家のすそ野も広がる中、御社はこのほど国内PEに特化した第5号ファンドを新たにスタートさせました。
カーライルは2000年に日本オフィスを設立して以来、国内のPEに継続的に投資してきました。具体的には、①通信・メディア・テクノロジー、②消費財・小売・ヘルスケア、③製造業・一般産業の3セクターに注力しており、投資総額は4,500億円以上、投資先企業数は累計約40社に上っています。最新の第5号ファンドは今年5月に資金調達を完了し、2020年の前回ファンドの約1.7倍となる4,300億円を集めました。
第5号ファンドの募集に際しては日本企業に対する期待の高まり、とりわけ海外投資家からの引き合いの強さを実感しました。実際、投資家の構成比を金額ベースで見てみると、国内投資家が約3割なのに対し、アジアや中東、北米などの海外投資家が約7割を占めています。
日本企業への熱視線は、決して中国市場の低迷や記録的な円安による一時的な現象ではありません。海外投資家とミーティングを重ねる中で、国内投資家と同じく、あるいはそれ以上に日本企業についてしっかり研究していることがうかがえました。国内よりも海外の投資家のほうが、グローバルに目立たずとも魅力的な日本企業の価値を評価しているのかもしれません。
――日本企業ならではの魅力とは、どのようなものでしょうか。
一言でいえば、ビジネスクオリティの高さです。カーライルは世界全体で4つの大陸に28オフィスを配置し、2,200人を超える専門家チームを抱えて投資活動を行っていますが、日本企業の提供する製品・サービスのクオリティや信頼性の高さは突出していると思います。日本企業にはいつからか「低成長・低収益」というレッテルを貼られてしまいましたが、事業戦略の見直しやM&Aの実施、外部人材の登用といったPEならではのノウハウを取り込むことで、企業価値を大きく高められる可能性を秘めているのです。
――最後に、アセットオーナーに向けてメッセージをお願いします。
日本のPE市場は非常に魅力的ですので(図)、これから拡大はしても縮小はしないと考えています。また、円建て資産のため為替リスクがなく、短期のボラティリティにさらされず腰を落ち着けて運用できる点も、年金基金をはじめ長期投資が前提となる機関投資家にとって非常に魅力的だと思います。
ただ課題は、国内のPEプロフェッショナルが絶対的に不足していることです。専門人材が育たなければ、今後いくら優れたPE案件が出てきても運用できなくなりますので、国内市場全体にとって大きな機会損失となりかねません。日本のPE市場をより魅力的なものにしていくためには、海外のみならず国内のアセットオーナーの皆様にも改めて日本のPEを評価していただき、ポートフォリオに加えていってほしいと思います。
オルイン編集部
「オルイン」は、株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の機関投資家向け「運用情報誌」。2006年の創刊以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。
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