しずおかFGの経常利益が「地銀最大」に ドコモとマネックスの提携が増益に関係か
Finasee / 2024年8月8日 11時0分
Finasee(フィナシー)
しずおかフィナンシャルグループは2023年度、経常利益が地方銀行グループで最大となりました。傘下行は静岡銀行のみながら、複数の銀行を持つ競合をも上回っています。なお、静岡銀行は単体でも地銀首位となっています。
【地方銀行グループの経常利益 上位3社(連結、2023年度)】
・しずおかFG(静岡銀行):1022億円
・コンコルディアFG(横浜銀行、東日本銀行など3行):770億円
・めぶきFG(足利銀行、常陽銀行):630億円
【地方銀行の経常利益 上位3行(単体、2023年度)】
・静岡銀行:870億円
・千葉銀行:860億円
・福岡銀行:646億円
出所:全国銀行協会 地方銀行の決算
しずおかFGの利益が大きくなった理由を探りましょう。また現在推進している、設立後で初の中期経営計画も紹介します。
東海・関東に広く展開 グループにはマネックスとコモンズ投信もしずおかFGは静岡銀行を中核に持つ金融グループです。静岡銀行が持ち株会社制に移行し、2022年10月に発足しました。
静岡銀行は主に東海地方と関東地方に展開しています。静岡県以外では神奈川県に19店舗、東京都と愛知県に3店舗、大阪府に1店舗を持ちます(2024年7月26日)。静岡県以外の比重は大きく、国内貸出金における静岡県のシェアは2024年3月末で52%程度です(出所:しずおかFG 決算ハイライト)。
子会社にはリースや証券、クレジットカード会社などを持ちます。また持分法適用会社には静銀セゾンカード(議決権所有割合50.0%(2024年3月))のほか、マネックスグループ(同20.7%)とコモンズ投信(同22.4%)があります(出所:しずおかFG 有価証券報告書)。
営業基盤は大きく、貸出金は10兆円以上、総資産は16兆円を上回ります。総資産は、ほくほくフィナンシャルグループに次いで地銀グループ5位です。
【地銀グループの総資産 上位5社(連結、2023年度)】
・ふくおかFG(福岡銀行など5行):32兆6497億円
・コンコルディアFG(横浜銀行など3行):24兆3817億円
・めぶきFG(足利銀行、常陽銀行):21兆7861億円
・ほくほくFG(北陸銀行、北海道銀行):16兆3828億円
・しずおかFG(静岡銀行):16兆1415億円
出所:全国銀行協会 地方銀行の決算
経常利益が躍進、ドコモとマネックスの提携が利益を押し上げ冒頭の通り、しずおかFGは2023年度(2024年3月期)の経常利益は地銀首位となりました。業績を振り返りましょう。
しずおかFGの2024年3月期は増収増益でした。特に経常利益は前期比で30%台後半と大きく伸びています。これは持分法投資損益(前期比+77億円)と株式等関係損益(同+92億円)が主にけん引しました。
ただし純利益の伸びはおよそ10%にとどまっています。これは主に営業店の固定資産(ソフトウェアや土地など)で減損処理を行ったためです。この減損を主因に227億円の特別損失を計上しました。なお、経常利益と純利益はともに過去最高となっています。
【しずおかFGの業績(連結、2024年3月期)】
・経常収益:3465億円(+20.5%)
・経常利益:1022億円(+38.2%)
・純利益:577億円(+10.2%)
※()は前期比
※参考(銀行単体):業務粗利益1538億円(+6.5%)、業務純益679億円(+14.8%)
出所:しずおかFG 決算短信
持分法投資損益の増加は、マネックスグループの株式売却益が主因です。マネックスグループはNTTドコモと資本提携し、マネックス証券株式の一部をNTTドコモへ売却しました。この取引でマネックスグループには株式売却益が生じ、しずおかFGにも持分法投資損益として利益が計上されています。
静岡銀行単体では、資金利益と役務取引等利益が前期比で増加しました。一方、その他業務利益は前期比で減少しています。債券の売却損は縮小したものの、外為の売買損失が拡大したことが原因です。なお業務粗利益全体では増加しています。
今期(2025年3月期)は、経常利益は減少する計画です。経常利益の減少は前期の一時的な要因(持分法投資損益など)のはく落が影響しています。
ただし純利益ベースでは増益を見込みます。資金利益の続伸やその他業務利益の黒字化を予想するなど、引き続き銀行本来の業務が好調に推移する見通しです。計画通りなら、純利益はふたたび過去最高を更新します。
【しずおかFGの業績予想(連結、2025年3月期)】
・経常収益:非開示
・経常利益:880億円(-13.9%)
・純利益:600億円(+3.8%)
※()は前期比
※参考(銀行単体):業務粗利益1630億円(+5.9%)
出所:しずおかFG 決算短信
初の中期経営計画を推進中 導入される新しいコア預金モデルとはしずおかFGは2023年3月、設立後で最初の中期経営計画を発表しました。2028年3月期を最終とする5ヵ年計画です。
財務目標は2024年3月期の決算公表時に上方修正されました。金利シナリオを見直し、利益水準と還元方針を引き上げています。
【中期経営計画の主な財務目標の引き上げ(2028年3月期時点)】
・経常利益:900億円以上→1000億円以上(1022億円)
・純資産ROE:6%程度→6.5%程度(4.8%)
・株主資本ROE:7%程度→7.5%程度(6.1%)
・配当性向:40%以上→50%以上(37.4%)
※()は2024年3月期実績
出所:しずおかFG 2023年度決算の概要
しずおかFGは利益目標の達成に向け、リスク資産を積み上げます。貸出金(平残)は国内で1兆1000億円、海外で3000億円を、有価証券は円債で1兆1000億円、外債で3000億円を増加させる計画です。
上記の取り組みでしずおかFGの金利リスクは増加するとみられます。しかし、リスク耐性は新しい「コア預金内部モデル」の導入で一定の強化がなされる見込みです。
コア預金内部モデルとは、流動性預金のうち銀行に長く滞留する預金(コア預金)のコア性を計測する手法です。長く滞留する性質が強いほど、コア性が高いといえます。コア性が高いほど銀行は低利で資金を調達しやすくなり、一般に収益が拡大します。
しずおかFGが導入するコア預金内部モデルでは、コア性が高くなることが見込まれます。しずおかFGの試算では、新モデルの導入で金利が0.1%ポイント上昇したときの評価益が5億円から79億円に改善します。これはリスク耐性の高まりを意味しており、10年国債に換算して7000億円~8000億円の買い入れ余力が生まれるとしています。
しずおかFGは、適切にリスクを管理しつつ、新モデルで生まれた余力を資産の積み上げにつなげる計画です。新モデルの導入は2024年9月を予定しています。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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