日本を変えるかもしれない!? 「ひふみ」最高投資責任者が期待する4つの会社の“実名”
Finasee / 2024年8月16日 18時0分
Finasee(フィナシー)
純資産総額が1兆円を超える投資信託「ひふみ」シリーズ。独自の投資哲学と調査で、株価が何倍にも跳ね上がる成長株を数多く発掘し、人気を博してきました。現在、市況の変化に対応するために主力商品「ひふみ投信」(注1)は大型株の比率が高まっていますが、成長株を見つけるのは今も変わらずに「ひふみ」が得意とするところです。
そこで「ひふみ」最高投資責任者の藤野英人氏に、これからの日本を担うと期待している経営者たちを紹介してもらいます。(全3回の2回目)
●第1回:1兆円ファンド代表が「かけてみたい」と唸った…退屈だった日本の大企業を変える2人の社長との出会い
注1:直販での商品名は「ひふみ投信」、銀行や証券会社で扱うのは「ひふみプラス」、確定拠出年金専門では「ひふみ年金」。すべて「ひふみ投信マザーファンド」に投資しているため、投資方針、組入銘柄などは同じ。
※本稿は、藤野英人著『「日経平均10万円」時代が来る!』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。情報やデータなどは、書籍執筆時(2023年12月時点)に基づいています。
「ネクストジャパン」ど真ん中として注目したい4羽ガラスこれから大きく成長して次の日本を担うと期待する「ネクストジャパン」企業。そのなかで世代別に私が注目する経営者「4羽ガラス」がいます。
50~60代は、GMOペイメントゲートウェイ(銘柄コード3769)の相浦一成さん。40代は、SHIFT(シフト、同3697)の丹下大さん。30代は、M&A総研ホールディングス(同9552)の佐上峻作さん。20代は、ANYCOLOR(エニーカラー、同5032)の田角陸さんです。
彼らはいずれも経営者として馬力があり、過去の実績がすばらしいのはもちろん、これからの日本を変えていくかもしれないと感じさせる力も持っていると思います。
4羽ガラスの中でもっとも大きな実績を上げているのは、GMOペイメントゲートウェイの相浦さんです。彼は高校時代に花園に出場してベスト8まで進出した経験を持つラガーマンで、体力、気合、人としての迫力に満ち、緻密にものを考える力も併せ持っており、高い総合力のある経営者だと思います。
GMOペイメントゲートウェイは、インターネット決済処理サービス企業大手として知られています。時流に乗ったビジネスを展開しているのはもちろん、常に「有言実行」の相浦さんの強いリーダーシップのもと、2005年に当時の東証マザーズに上場して以降、営業利益25%成長の継続を掲げて高成長を続けているのです。おそらく同社は今後数年で時価総額1兆円を超え、「ザ・プライム」に移っていくのではないかと見ています。
40代ナンバーワン経営者は「IT業界のジャイアン」SHIFTの丹下さんと出会ったのは、私が「ホリエモンロケット」と呼ばれるインターステラテクノロジズ社のロケットのスポンサーになったことがきっかけです。
「ホリエモンロケット」は2度にわたり打ち上げに失敗し、宇宙への到達に向けて背水の陣で臨んだのが3号機でした。その3号機でメインスポンサーになったのが私と丹下さんだったのです。このとき私は彼のことをあまりよく知らなかったのですが、3号機がついに宇宙に到達した際に名刺を交換し、「いつか会いましょう」という話になったのです。
そして改めて丹下さんに会ったとき、私は彼が日本の40代の経営者の中でほぼナンバーワンの能力を持っていると確信することになりました。丹下さんが創業したSHIFTはソフトウェアのテスト事業で急成長しているIT企業ですが、最終的にはSE総合サービス提供企業になるでしょう。おそらく5~10年後には、現在の野村総合研究所やNTTデータのような存在感を持つ企業に成長しているはずです。
丹下さんは雰囲気がジャイアンに似ています。ドラえもんに登場するジャイアンは腕力自慢でちょっと乱暴なイメージがありますが、本当のすごさは「巻き込み力」です。ジャイアンは、台風のようにチームを組成して人を巻き込み、プロジェクトを推し進めていきます。ここでいうプロジェクトとは、遊びかもしれませんし、ジャイアンリサイタルかもしれませんし、冒険かもしれません。いずれにしても、ドラえもんの世界はジャイアンがいるからこそ面白いのです。
その意味で丹下さんは「IT業界のジャイアン」だと私は思っていますし、非常に緻密にものを考えられる優れた経営者として尊敬しています。
SHIFTが目指す業界の構造改革私がSHIFTの成長を信じているのは、丹下さんが業界の構造改革を志しているからです。
IT業界に根強い「中抜き構造」があることは、皆さんもよくご存じでしょう。元請けの会社に下請けの会社がたくさん連なっており、中には業務を下請けにパスするだけで利益を持っていく会社もあります。丹下さんはその構造に疑問を抱き、中抜きをやめるべきだと考えているのです。
彼は、日本の問題は生産性が低く、そのために給料が低いことだと言います。給料が低ければ自分がやっている仕事に対する意義を感じにくく、結果的に仕事に魅力を感じられず、会社に対するロイヤリティも低くなり、競争力も下がるという悪循環が生じます。
この状況を変えるには、生産性を向上させて給料を上げなければなりません。SHIFTがDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推進する役割を担い、お客様企業の生産性向上と給料アップを実現できれば、根っこから日本の競争力を高めることにつながると丹下さんは言います。もちろん、そのビジネスを中抜きなしでやることでIT業界で働く人も高い給料をもらえるようになるでしょう。
そのような価値を社会に提供し構造改革を進めるためにも、SHIFTは大きく成長しなければならず、だから従業員の給料もどんどん上げていこうというのが彼の考えです。
丹下さんが構造改革をやり遂げられれば、お客様企業はより適正な価格で発注できるようになりますし、一方でSHIFTの収益力はより高まるでしょう。
大谷翔平、藤井聡太の「経営者版」に投資する30代以下の若手起業家については、近年、成功している人のイメージがだいぶ変わってきたと感じます。野球の世界でいえば、ひと昔前の「成功した起業家」は清原和博さんのイメージでしたが、今の若手で成功している人は大谷翔平さんのような雰囲気です。さわやかで謙虚で真面目で、成功したからといって豪遊したりもしません。
もちろん私は彼らのすべてを知っているわけではありませんから、裏の裏の裏の顔がどうかということはわかりませんが、それは誰しも同じです。少なくとも「表面上、きちんとしている」というだけでも重要なことなのです。
大谷翔平さんや藤井聡太さんに代表される新しい世代では、非常に優秀な若手起業家が続々と誕生しており、私は彼らのような若い才能に傾斜して投資していきたいという気持ちを強く持っています。
皆さんも、もし大谷翔平さんや藤井聡太さんのような存在の経営者がいたら、その会社の株を買いたいと思うのではないでしょうか。
若者の価値観に合った評価システムで人材を集めるM&A総研30代の起業家の中でも今、私が注目しているのが、M&A総研の佐上さんです。
彼が創業したM&A総合研究所は2018年設立の非常に若い会社ですが、2022年に東証グロース市場に上場し、翌年には東証プライム市場に市場変更しており、時価総額はすでに2000億円を超えています。
M&A総研はM&Aの仲介を手掛ける会社です。そのすごさは、日本でトップクラスの20代の人材を集めているところにあります。M&A総研では1億円の年収をもらう社員が何人もいるのですが、これほど人手不足が顕著で採用が難しい時代にあって若手の優秀な人材が吸い寄せられるように集まるのは、年収額だけが理由ではありません。
同社の強みを知るカギは、今の20代の価値観にあります。基本的にお金だけで動くことがなく、「意味のあることをしたい」「合理的なことをしたい」と考えるのが20代の傾向です。
この点、M&A総研では「どうすれば給料が増えるか」の要件が明確化されています。
シニア世代はどうしても「頑張れば報われるものだ」などと言ってしまいがちなものですが、同社では何件のアポを取り、そこからどのくらいの打率で成約するか、M&Aを実施した企業からの評価がどれくらいだったか等の条件によって計算式が決まっており、そのとおりに給料が決まるのです。
さらにすばらしいのは、成功した社員がノウハウを社内に開示すればするほど給料が高くなる仕組みを導入していることです。動画でノウハウを共有したり、成功したポイントを紹介したりすることが評価の対象になっているので、社員が個人プレーに走ることなくノウハウが蓄積されていきますし、その仕組みの中で社員は成長していくことができます。
このように若い世代に納得感のある仕事の場や社内システムをつくり、実際にハイレベルな人材を集めることに成功しているのが同社の強みであり、佐上さんのすごいところです。就職人気ランキングが高く待遇もトップクラスの企業から、社会人1~6年目くらいの人たちが次々に転職してきており、新卒採用も順調です。
佐上さんは30代前半ですから、経営者として今後の伸びしろも大きいと思います。M&Aの仲介という業態についても、日本企業の99%を占める中小企業の多くが後継者不足に悩む中、事業を継続するための選択肢としてこれからM&Aが増加していく可能性は高く、事業環境は良好と言えるでしょう。その上、若者の価値観の変化を的確にとらえ、未曾有の人手不足の中で最高の人材を集めることに成功しているのですから、この先が非常に楽しみです。
「10年後のエンタメの覇者」の可能性を持つ20代経営者20代の経営者でもっとも注目しているANYCOLORの田角さんは、早稲田大学在学中の2017年に21歳で起業し、2022年に東証グロース市場に上場しました。彼はエンターテインメント(エンタメ)の未来を見据えるビジョナリーであり、先に紹介した3人の経営者に比べるとアート志向が強いように感じます。
ANYCOLORはバーチャルなキャラクターを使ってライブ配信や動画投稿等を行うVTuberグループ「にじさんじ」を運営する会社で、日本でもっとも多くのVTuberを集めているのですが、私はVTuberは「テレビ局や大手広告代理店等とのしがらみがない」のがよいところだと思っています。
2023年に旧ジャニーズ事務所の性加害問題が明るみに出ましたが、もともと芸能界で性被害が多発していることは多くの人が耳にしていた話です。不健全な世界の中に一部、輝いて見えるところがあったというのが旧来の芸能界だったと言えます。
そのような古くからの根深い問題が発覚する一方、新しいエンタメの形として登場したのがVTuberであり、その市場で急成長を遂げているのがANYCOLORというわけです。
これからデジタル技術を活用したエンタメが増えていくであろうことを考えると、VTuberそのものが今後も成長を続けるかどうかはさておき、私は旧来の芸能事務所や大手広告代理店、テレビ局などとはまったく異なる健全なエンタメの枠組みができていくのではないかと期待しています。そして新しい枠組みができる過程で、田角さんがデジタルにおけるエンタメ業界の覇者になる可能性があると思っています。
ANYCOLORの第2位の株主としてソニー・ミュージックソリューションズが名を連ねているのは、同じような期待を持つ人がいるからでしょう。もちろん、ここで紹介した「4羽ガラス」が全員、10年後に成功しているとは限りません。しかし、彼らのように未来志向を持ち、成長性のある分野でリーダーシップを発揮し、有言実行でリスクを取ってビジネスに挑む人たちを中心に未来がつくられていくことについては確信がありますし、「ネクストジャパン」の中核として投資をしていきたいと思っています。
※本稿では、個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。またファンドへの組み入れをお約束するものではありません。
●第3回は【日本人から仕事の魅力や自己研鑽を奪ったのはデフレだった⁉ 負のスパイラルから抜け出すための言葉とは?】です(8月20日に配信予定)。
「日経平均10万円」時代が来る!著書 藤野英人
出版社 日経BP 日本経済新聞出版
定価 1,650円(税込)
藤野 英人/レオス・キャピタルワークス 代表取締役社長・最高投資責任者
1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。JPXアカデミーフェロー、東京理科大学上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師。投資信託協会理事。近著に、『お金を話そう。』(弘文堂)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。その他『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』(日本経済新聞出版)など著書多数。
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